手紙4
ひとしきり泣いた後、何度か深呼吸してようやく落ち着いた。気を取り直して、手紙の続きを読む。
「こっちに来て半年くらいは、そんな感じだったけど、エルマーが友達になってくれて楽しくなった。エルマーは俺より2才年上で、優しいんだ。もしお兄ちゃんがいたら、こんな感じだったのかなって思う。
訓練が休みの日も、エルマーと一緒に遊ぶことが多くなった。
でも、ごらくが少ないから、屋台のお菓子を食べるのが週に一度の楽しみなんだ。ドルチェの焼き菓子は、なんだかホッとする丁度いい甘さなんだよね。
でも、お母さんの作ったケーキの方が美味しかった。」
再び号泣。ここにティッシュがあったら、すぐに空にしていたと思う。
(エルマー君、蓮と友達になってくれて本っ当にありがとう!! 今度、改めてお礼をするからね。それにお互いに知らないままだったけど、お菓子を通して繋がってた事が本当に嬉しい)
「14歳の俺から、お母さんへ
毎日覚える事がいっぱいで、1日が短く感じる。気がついたら1年経ってた。
背が伸びたよ。でも周りのみんながデカいから、訓練生の中では俺が一番小さい。でも筋肉がついて、剣とヤリの重さに負けないようになった。
勇者って剣のイメージだったけど、俺はヤリの方があってるみたい。
ヤリの名手のフィリップさんに特別指導を受けてるおかげかもしれないけど。」
この時期に背が伸びたのね。5歳の時は足が痛くて眠れないって泣いてたけど、成長痛は大丈夫だったかしら。
槍がカタカナで書いてある。漢字を習う前だったのかな。
「魔法もだいぶ使えるようになったよ。勇者のチートなのか魔力量はすごく多いみたいで、コントロールがすごく難しい。
でも水や炎を操る時は、自分でもカッコいいって思う。もしここに海斗がいたら、ノリノリで必殺技の名前を考えてくれたかもね。
海斗達、今頃何してるだろう。文化祭とか修学旅行とか、俺の分まで楽しんでくれるといいな。正直言うと、一緒にやりたかった。こんな事になるなら、もっと勉強しておけば良かったな。」
そうよね。まだ14歳だもん。友達と遊びたい時期だよね。
それなのに、友達との楽しい思い出になるはずだったものを全部奪われて・・・。
修学旅行、行かせてあげたかったな。
「こっちの生活にもだいぶ慣れたけど、やっぱり日本の方が良かった。清潔だし、便利だし、いろいろ恵まれた環境だったんだなって、しみじみ思う。
でも日本にはもう俺の帰る場所はないから、こっちで頑張るしかないんだよな。
俺みたいに、魔物に親を殺されて孤児になる子供を増やさないためにも、俺、もっとがんばって強くなるよ。」
13歳の頃と違って、私が恋しいとは一言も書いてない。
ショーンさんやエルマー君が側にいてくれたから、寂しいと思うことが少なくなったのかも。
でもきっとこの頃には「母親の死」と「勇者の使命」を受け入れて、気持ちを切り替えていたんだろう。
何かに夢中になっている間は、悲しみや寂しさを忘れられるから。
天涯孤独で帰る場所もない崖っぷち状態で、蓮は自分の運命を恨む事もせずに頑張ってきたんだわ。
母親の仇だけじゃなく、不幸な子供を増やさないという目標まで・・・。
我が子ながら、女神様が勇者に選んだのも納得の高潔さ。
前は甘えん坊な、至って普通の子供だったのに。両親の死という試練が、あの子を強くさせたのかしら?
それに比べて私は、その時の感情に任せて行動してきた。
蓮を取り戻す為にも、この世界で生きていく為にも、自分の居場所は必要だったから、シヴァと再婚した事に後悔はしてない。
だけど蓮からすれば、それは裏切り行為に他ならなかっただろう。
『勝手に再婚した事で、蓮はショックを受けるかもしれない。だけど大変な状況だったから仕方なかった。蓮は優しいから、話せばきっとわかってくれるはず』
そんな甘い考えだった私は、本当に馬鹿だ。
実際、一緒に暮らしてはいないとはいえ、蓮は新しい家族を受け入れてくれている。
愚かな私はその状況に浮かれて、あの子の本当の気持ちに向き合ってこなかった。
この先に書かれている言葉を読むのが怖い。
だけど、あの子から見た母親の姿がどれだけ醜くても、私は目をそらす訳にはいかない。
蓮の望む未来の為にも、気持ちを理解しなきゃ。




