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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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パーティー〜メリッサ2

「ええっと・・・次に何かやらかしたら今度こそ容赦しないぞって、脅しをかけられてるって事?」

「身も蓋もない言い方をすれば、そうですね」


 私の言葉にショーンがあっさりと頷く。


「そう聞くと正直良い気分はしないわね」

「そうですか? もしも戦争相手が他国であれば、首都に攻め込まれて制圧されてましたよ。建物は焼かれ、人々は財産だけでなく、命や尊厳を奪われる悲惨な事態になったでしょう」


 そう言われてゾッとする。


「魔王軍は他国への牽制として、アビラス国を滅亡させる事もできました。そうしなかったのは、彼らの望むものが平和だったからです」


 ショーンの隣でダンがしょっぱい顔をした。


「俺を含めて戦争に行った奴は、二度と魔王軍と戦おうなんて思わねぇよ。トラウマものだ」

「そうですね。私もその場にいたから、気持ちは良くわかります」


 ショーンがしみじみと頷くと、ベラが呟いた。


「そんなに力の差があるなんて思ってなかったわ。だって冒険者は魔物を狩ってたじゃない」

「冒険者達は人々の生活に欠かせない魔石を得るために、日々命懸けで戦っていますが、社会的な評価は低い。だから実力があっても侮られています。兵士達も、魔物は冒険者が狩れるくらい弱いから、戦争も楽勝だろうという意識だったと思います」


 メリッサとベラが頷いた。


「お祭りのトーナメント戦で兵士と冒険者の試合を見たことあるけど、毎年優勝するのは兵士だったわ」

「そうそう。だから戦争に冒険者は必要ないって夫も言ってた」

「人間と魔物では勝手が違いますし、試合では本当の実力は発揮できません。ルール無用の戦いであれば、勝敗は分かりませんよ」


 ショーンはそう言って肩をすくめた。

 

「冒険者に協力を仰いだのは、当時将軍だったクリフォード元首の独断でした。

敵地である帰らずの森では、何が起こるかわからない。誰1人死なせたくない、少しでも犠牲を減らしたい、そう思ったからこそ将軍は恥も外聞も無く、土地勘と魔物の知識がある冒険者に協力を要請したんです。

現にアビラス軍は、戦う前から森そのものに消耗させられましたからね」

「あ〜、進軍するだけで大変だったなぁ」


 ダンがサラダを咀嚼しながらウンザリとした様子で呟いた。


「冒険者って粗野な人が多いじゃない。だから苦手だったけど、実は凄いのね」


 メリッサが感心してそう言うと、ラーソンがチーズをつまみながら肩をすくめた。


「冒険者が幅を利かせてたのは、昼の時代だったからさ。俺は戦闘員じゃないが、夜の時代の今なら冒険者を一捻りするのは造作もないぜ」

「そうなの? 知らなかった」

「おいおい、力の均衡が50年ごとに逆転するのは常識だろ?」

「それって常識なのか? 少なくとも俺は習わなかった」


 ダンの言葉にメリッサとベラも頷くと、ショーンが眉を下げた。


「昼と夜の時代については、勇者と魔王の物語で冒頭に語られてるはずなんですが・・・」

「全く記憶にないな」

「ベラ、知ってた?」

「あ〜、言われてみれば・・・・?」


 三人の言葉にショーンが脱力する。


「聞いたことがあっても覚えていないと言うことですか。やはり識字率を上げる必要がありますね。そうすれば誰でも歴史を学ぶことが出来る」

「識字率ってなんですか?」


 馴染みのない言葉にメリッサが質問すると、ショーンは馬鹿にする事なく丁寧に教えてくれた。


「文字を読み書きできる人の割合を増やす事です」


 そう言われてもメリッサはピンと来なかった。


「それで何が変わるんですか?」

「読み書きが出来るようになると、仕事の選択の幅が広がりますし、給金も増えます。そうすると生活の質が向上します」


 それは何となく分かる。メリッサは横目でちらっとベラを見た。

 ベラはメリッサと同じ平民だが教養がある。それは実家が商売をしているからという理由だが、家業が成功しているのも教養に支えられているからだろう。


「アビラス王国は他国に比べて豊かな国でしたが、治安が悪かった。その要因の一つは貧困です。全ての民が仕事に就き、衣食住が満たされれば、犯罪も減って社会が安定するでしょう」

「読み書きできるだけで、犯罪が減るの?」

「無論、これは理想論です。直接的な犯罪の抑制にはなりません。犯罪の理由は色々ありますからね。ただ、剣よりペンを手にとる子供が多くなれば、争いが減る確率は高くなります」


 争いが減るのは素敵なことだと思う。子供達には平和に暮らしてほしい。


「でもまだまだ課題が山積みなんですよね。引退した文官や神殿に協力してもらってますが、学びの場が少ないし、教材も一定ではない」


 ショーンはエールを一口飲んで話を続けた。


「子供を中心に、誰でも読み書き計算を学べる学舎を各地に建てる。そんな理想はあるんですが、お金も人材も足りないし、貴族は反対するし、何より民の意識が低い!」


 天を仰いで頭を掻きむしるショーンを呆気に取られて見ていると、ラーソンが「まぁまぁ」と言ってショーンを労うように優しく背中を叩いた。


「先生も苦労してるなぁ。でも今日は仕事を忘れて楽しく飲もうや」

「あっ・・・すみません。自分の話なんて、つまらなかったですよね」


 ショーンはしゅんとして小さくなった。後ろに流されていた髪はぐしゃぐしゃになり、ひどい寝癖のような頭になっているが、本人は気にした様子もない。


「いえ、そんな事ないですよ。ねぇ」

「ええ、国が民の事を色々考えてくれている事がわかりました」

「そうね。時々、納得いかないお達しもあるけど」


 メリッサとベラの言葉に、ショーンは苦笑を浮かべた。


「国を動かしてる大半は貴族ですから、庶民と価値観がかけ離れてるんですよ。今は各地の領主から問題点を出してもらってますが、識字率が上がったら、民から直接投書してもらう事も考えてます」

「ああ、それは良いですね」

「うん、もっと暮らしにあった改善をしてほしいもの」


 ベラとメリッサが同意すると、ショーンの目が好奇心で光った。


「せっかくですから、何か意見があったら聞かせてください。自分もこういう機会はあまりないので」

「ええっと、何でもいいの?」

「はい。些細な事や個人的な事でも構いませんよ」


 その言葉にベラが「食事時にする話ではなくて申し訳ないけど」と前置きして話し出した。


「私、トイレを何とかしてほしい。ドルチェに慣れたら家のトイレを使うのが憂鬱になっちゃって・・・」

「分かる。家に帰ると匂いがねぇ・・・」


 ショーンが頷いた。


「衛生面を良くするためにも、下水工事は早めに取り掛かりたい事案ですが、大掛かりな工事が必要です。普通にやれば何十年も時間がかかるでしょう。下水工事は土魔法で対処できますが、問題は汚水処理なんですよ」

「やっぱりそうよね。貴族のトイレの維持費って、すごく高いって聞いたことあるもの。でも私が生きてるうちに改善してほしいわ〜」


 ベラがそう言うと、ショーンは少し考え込んだ。


「ドルチェの敷地の土の中には、畑の土壌を肥沃にしてくれる虫が沢山いるそうです」

「へぇ〜、そうなんだ」

「だから野菜や果物が美味しいのね」


 感心していると、ショーンが真顔で聞いてきた。


「その虫は魔物の一種ですが、汚物などのゴミを食べて良い土を作り出す益虫です。その虫を家庭の下水処理に使うのって、ありだと思います?」


 メリッサはベラと顔を見合わせた。


「人間を襲うことはないの?」

「はい。主食は汚物ですし、普段はずっと地中深くにいて自ら地上に出て来ることはありません」

「どんな虫? 大きいの?」


 ショーンが無言でラーソンを見ると、ラーソンは黙って手を広げて声を顰めた。


「畑の下には、このサイズの大ミミズが沢山いる。ミホには絶対に内緒な」

「・・・マジか?」


 ダンも知らなかったらしく、メリッサとベラと一緒に仰け反った。


「まあでも、普段目にする事も、襲われる危険もないならありかな?」

「そうね。匂いが無くなるなら、私もありだわ」

「俺も。偶に汚物回収の奴が病気とかで来ない日なんか、悲惨なことになるからな」


 3人の言葉にショーンは頷いた。


「それでは今度議会に提案してみます。他には何かありませんか?」


 メリッサは少し悩んでから「本当に個人的な事だけど」と言って、ネリーの嫌がらせの件を話した。


「庇ってくれる人達もいるから、悪口言われるくらい構わないのよ。でも子供達がいじめられたり、危険な目に遭わないか心配なの」

「そんな事になってたなんて・・・。早く相談してくれればよかったのに」


 ベラが労るように背中にそっと手を当ててくれた。


「客観的に見てもメリッサさんの言い分が正しいですが、相手が感情的になっていると正論が通用しないですからね。更に怖いのはネリーさんに同調して、行きすぎた正義感を持つ人達です」

「行きすぎた正義感? 何だそりゃ?」


 ラーソンが不思議そうに聞き返すと、ショーンは重々しく頷いた。


「自分が正しいと思うあまり、反対意見の人を攻撃したり排除しようとする行動をとる人がいます。この手の人は己の攻撃的な言動を正当化し、悪い事をしている自覚がないので厄介なんですよ」

「あ〜、確かにいるな。そう言う面倒くせぇ奴」


 ダンがしょっぱい顔をしてエールを煽った。


「魔物との共存を掲げている国の方針に不満を持ってても、真っ向から歯向かう勇気がない奴らからすれば、プリン専門店のスタッフは格好の餌食だろうな」

「ええ。色んな考え方があるのは仕方ありません。だからと言って、嫌がらせをして良い理由にはならない。

実際に嫌がらせしてきた場合、営業妨害で罰する事はできますが、スタッフの皆さんの安全を考えると、できれば未然に防ぎたいですね。どうしたものか・・・」


 ダンとショーンが真剣に考え始めると、ラーソンが何でもないように言った。


「おいおい、そんなに悩むことないだろう。そういうのはシヴァとミホに任せときゃ良いんだよ」


(シヴァは納得できるけど、ミホも?)


 そんな思いが顔に出ていたのか、ラーソンはメリッサとベラを見てニヤッと笑った。


「さっき幹部になった顛末を教えてやったろう? 他にも色々あるんだ。ミホを怒らせると怖いぜ〜。子供が絡むと特にな。大丈夫、もし子供達に何かしようとした奴は、泣いて後悔する羽目になるだろうよ」 

誤字報告や感想ありがとうございます。

なかなか返信できずすみません。

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― 新着の感想 ―
結構打ち解けて来ましたねー。 あとは、残る彼女のモヤモヤが今回払拭出来るか否か
ラーソンの「他にも色々あるんだ。ミホを怒らせると怖いぜ〜」と言う言葉で、そうそう、そういうエピソードがたくさんあった。あれ?あったよな…?と、具体的な内容を忘却していることに気づきました。 第4次読み…
こういったライフラインや識字率といった文化面の話ってなろう小説ではなかなか聞かないので新鮮でしたし、改めてこの作品は面白いです。 現在コミカライズされてる蓮と孤児関連の話でもそうですが、識字率つまり教…
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