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エミリー7

 人は見かけによらないというけれど、それは魔物にも当てはまるのだろうか?


 シヴァやラーソンに対しては、魔物と分っても恐怖や嫌悪感を感じなかった。だって彼等は良きお得意様であり、また友人でもある。ラーソンの言う通り、人間とか魔物とか関係なく、良い関係を築いてきた。

 だがガロンは、見るからに恐ろしげなトカゲの獣人である。何より、予想より遥かに大きい。身長はシヴァを優に超えている。

 

(本当に私より年下!?)


 大人達は口を揃えて彼を優しくて良い子だというけれど、それ以前に子供に見えない。

 もしもミホがガロンの隣でニコニコと微笑んでいなかったら、きっとエミリーは恐怖で叫んでいただろう。


「…でかっ」


 思わずダミアンの口から溢れた小さな呟きには、若干の恐怖が混じっていた。

 

「ガロン、こちら私達がお世話になったコックス農場の皆さんよ」

「お菓子の原料を仕入れている農場?」

「そう」


 何を考えているか分らない目でじっと見つめられて、エミリーますます緊張してしまう。

 農場でのびのびと育ったエミリーは動物が好きで、虫やカエル等の一般的に女子が嫌がる生き物も平気で捕まえる。けれど小さい頃から、蛇だけはどうしても触れなかった。感情が一切読めない蛇の目が怖くてたまらないのだ。そんな訳で蛇に似ているトカゲも苦手だ。


「真ん中の可愛い女の子がエミリーよ。私の大切なお友達。その向こうにいるのがエミリーのお父さんのジェフさん、こちらがエミリーの従兄弟のダミアン」

「エミリーとジェフさんとダミアン。覚えた。よろしく」

「ジェフだ。よろしく」

「ダミアンだ、ガロン、よろしくな」


 ジェフとダミアンが挨拶を返すと、ガロンが嬉しそうに目をキュッと細める。


(あ…挨拶しなくちゃ) 


 そう思うのに、なぜだが言葉が出てこない。焦れば焦る程、口の中がカラカラになってしまう。

 エミリーがもたもたしているうちに、ガロンが先に口を開いた。


「エミリーも、これからよろしくな」

「…! は、はい。…よろしく」


 名前を呼ばれて思わずビクッと肩が上がってしまい、恥ずかしさと気まずさでエミリーはガロンと目を合わせられず、俯きながら挨拶した。


(どうしよう。皆に私がガロンを怖がってる事がバレてしまったわ)


 シヴァ達は友好的な関係を築こうとしてくれているのに、自分のせいで変な空気になってしまった。

 心配と後悔でエミリーが泣きそうになった時。


「無事に紹介も終わったし、とっとと乾杯しようや! 俺はこれ以上のお預けは我慢出来そうにないぞ」


 ラーソンの明るい声に、部屋が笑いに包まれた。


「そうだな。料理が冷めないうちに食べるとしよう。クリフォード元首、乾杯の音頭をお願いしても?」


 シヴァがカップを持ちながら言うと、クリフォード元首も頷いた。


「もちろんだ。皆、準備はいいか? それでは…ソルーナ共和国の発展と両種族の平和を願って、乾杯!!」

「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」


(さっきの挽回しなきゃ! 席が離れているからカップを合わせる事は出来ないけど、目を合わせて乾杯するくらいなら…)


 エミリーがそう思ってガロンの方を見たが、残念ながら目を合わせる事は出来なかった。ガロンの視線は目の前の美味しそうな料理に釘付けだったからだ。何から食べよう? とワクワクした様子で目を輝かせている。周りの皆も、それぞれ食事を始めた。


(タイミングが合わなかったな…。でもまだ時間はあるし、まずは腹ごしらえしようっと)


 エミリーはカップを置くと、右斜め方向に置いてあるパンの籠に手を伸ばした。こんがりときつね色をした焼きたてのパンはすごく美味しそうな香りで、ずっと気になっていたのだ。

 こぶし大のフワフワの丸いパンを取った時、向こう側から緑色の鱗と鋭い爪のある大きな手がにゅっと伸びてきて、エミリーの手が思わずビクッと跳ね上がった。その拍子に持っていたパンが落ちてテーブルの上をコロコロと転がる。


「あっ…」


(やらかした!)


 慌てて落ちたパンを拾い、恐る恐る視線を上げると、ガロンはしゅんとした様子で、一連の流れを見ていたレンやショーンが気遣わしげにガロンを見ていた。ダミアンも何とも言えない顔をしている。


「ご、ごめんなさい」

 

 悪気は無かったとはいえ、2回も立て続けにガロンを傷付けてしまい、エミリーは縮こまった。

 苦手な物に対して無意識に身体が反応してしまうので、どうしようもない。

 

(こんなつもりじゃなかったのに、また私のせいで変な空気になっちゃった…。きっと私の印象は最悪ね。もう、大人しく食事をしよう)


 少し憂鬱な気持ちになりながら、目の前の大皿から3種類ほど自分の皿にとり、その中の1つである肉料理を一口食べたエミリーは「んんっ!?」と思わず声をあげた。


「ミホさん、何これ!? すっごく美味しい!」

「ああ、それは唐揚げよ。鶏肉に塩と生姜とにんにくで下味をつけて揚げたの」

「唐揚げ、うまいよな。俺も好きだ」


 ガロンがそう言ってニカッと笑う。


(あ、笑った)


「レモン汁をかけても美味しいよ」

「へぇ、試してみよう。……うん、さっぱりして美味いな」


 レンとダミアンも会話に加わってきた。


「おお、これはエールにあうな」

「この炒め物は芋とベーコンか? これもエールがすすむぞ」

 

 ジェフとクリフォード元首も満足げに頷いている。

 エミリーは先程までの暗い気持ちをすっかり忘れて、いつもの調子で食事を楽しんだ。

  

「このサラダ、今までの人生で一番美味しい!」

「スープのおかわりありますか?」

「ああ、あれもこれも全部美味しい。幸せ〜」


 美味しい料理のお陰で、雰囲気はすっかり良くなった。

 エミリーの失敗をフォローする為かもしれないが、意外にもダミアンがガロンとすぐに打ち解けた。ダミアンが料理に感嘆の声を出す度に、ガロンが嬉しそうに賛同し、これもうまいよ、と別の皿を勧め、それにレンも加わって男同士で仲良くなっている。

 エミリーは料理を堪能しながら、ミホを賞賛しレシピを聞きまくった。

 宴もたけなわになった頃、ジェフが切り出した。


「ところでずっと気になったんだが、レン君を攫ったり、ミホさんを殺そうとした犯罪者は捕まったのかね?」

「いいえ。示談にしました。さすがに元凶には責任を取ってもらいましたけど」

「それじゃあ、犯罪者は今でも自由の身なのか? 何故だ!? 親の立場としてはそんな危険人物を野放しにするなんて信じられん。フレディ、君は知ってるのか!?」


 それを聞いたミホさんは、机をバンバン叩いて大笑いした。


「あははははは。あ〜、笑いすぎて涙出てきた。その言葉、ぜひともあいつに聞かせたいわ。一体どんな顔をするかしらね」


 そう言って指で涙を拭っている。なかなか笑いが治まらずに肩を揺らしているミホを、隣に座るレンが肘で軽く突いていた。


「え〜、それについては、まず自分から説明します」


 そう言ってショーンが片手を上げた。


「『魔王が復活する。やがて多くの血が流れ、アビラス王国は滅亡する。そして新たな世界が始まる』。これは2年前、女神の書に授かった神託です」

「「「……っ!!」」」


 私達は思わず息を飲んだ。だって現在の状況は、予言の通りだから。


「民を守りたい一心で、リアム神官は国王に神託の内容を告げました。国王はリアム神官に「勇者の召喚」を命じられ、その結果、異世界よりレンが召喚されました。ミホさんはそれに巻き込まれたんです」

「えっ!? つまりレンが勇者様って事?」


 思わずっと言った様子でダミアンがレンを凝視する。

 そう言えば、勇者様は賢者様に師事しているという話だった。どうしてすぐに思いつかなかったのだろう?


「そうだけど…俺、何も出来なくて…。結局、沢山の人が亡くなって王国は滅んじゃったし、勇者様なんて呼ばれる資格ないんだ」


 レンがそう言って項垂れる。


「そんな事はないよ。レンは北のエリアの孤児院の窮状に気付いて彼等の待遇を改善したし、戦争では聖騎士やアンジェリカ様の為に逃げ道を作った。彼等が無事なのはレンのお陰だ。何人もの命を救ってるんだ。王国が滅んだのはレンの責任じゃない」

「そうよ。そもそも神託には、魔王様がアビラス王国を滅ぼすとは書かれてなかったし、人が死んだのは、誤解して戦争を起こした奴らのせいなんだから、レンが後ろめたい気持ちになる事は無いんだからね」


 ショーンとミホの両サイドからフォローされても、レンは悲しそうな顔をしている。


「その通りだ。仮に魔物と戦争をしなくても、恐らくアビラス王国は滅びていた。戦争前に異国人が首都に多く入ってきたのは、供給の減った魔石を求めての事だ。いずれ魔石を巡る国同士の争いは避けて通れなかっただろうし、そうなったら国土は焼かれ、女子供も容赦なく殺されていただろう。今よりもずっと悲惨で酷い状況になっていたはずだ。

 クーデターを起こして何百年と続いた王国を滅ぼしたのは、他ならぬこの私だ。だが私はその事を後悔していない。誰に指を差されようと、裏切り者と罵られようと、私は民を守る為に戦い、最善を尽くしたと胸を張って言える。だから君も、恥じる事は何もない」


 クリフォード元首の言葉に、ようやくレンも顔を上げて小さく頷いた。


「…じゃあ、レン君を攫って、ミホさんを殺そうとしたのは?」

「リアム神官よ」

「なっ!?」

「嘘っ…!!」

「ありえねぇ」


 エミリーはリアム神官を思い浮かべた。記憶にあるのは穏やかな微笑みと、皆の為に祈り、信者に女神様の教えを説いて導いて下さる尊いお姿。


「当時、蓮はたったの13歳で特別な力なんて無い普通の子だった。それなのに勇者だから魔王と戦わせるなんて無茶言うから、親として当然反対したのよ。国の滅亡がかかってるなら自分達でどうにかすべきなのに、無関係な子供を危険な任務につかせようなんて、どうかしてるわ。私の言ってる事、間違ってる?」

「いや、親としては、そう思って当然だ」


 クリフォード元首の言葉に、我が意を得たり、とミホは頷く。


「でしょう!? なのにリアム神官は私が邪魔だからって、手下に私を拘束させた上、逃げられないように杖で足首を突いて怪我させたからね。ほんっと、今思い出しても腹が立つ!」


 ミホが拳で机をドンッと叩き、シヴァが「気持ちは分るが落ち着け」と宥めている。


「そうして森に捨てられた私をガロンが見つけて、家に連れて帰ってくれたの。でもシヴァったら、私を見てすっごく迷惑そうな顔をしてさ、顔をこんな風にしかめながら『元いた場所に返してきなさい』って言ったのよ」

「実際、あの時は凄く面倒だと思ったからな。どうして人間なんか拾ってきたんだと思った」

「でもガロンがどうしても私を飼いたいって粘ってくれて、こうして生き残ったの。ありがとうね、ガロン」


 ミホに褒められ、皆の注目がガロンに集まると、彼はえへへっと照れくさそうに笑った。


「まあ、そんな訳でミホを保護する事になって、まあ色々あってミホは魔王軍幹部になり、私達は夫婦になった」

「「「いや、その色々の部分をもっと詳しく!」」」


 あまりにも簡単に話をまとめたシヴァさんに、思わず私達は一斉にツッコミをいれた。

 拾うとか飼うとか、まるでペットのような物言いだ。そんな弱い立場だったミホさんが、何をどうしたら魔王軍幹部までのし上がり、ダークエルフのシヴァと結婚するに至ったのか。

 私達だけじゃなく、誰だって気になるだろう。

 すっごく面倒そうな顔をしているシヴァさんに苦笑しながら、ミホさんが話を始めた。


「シヴァもガロンも食べるのが大好きなくせに、ろくに料理が出来ないのよ。ガロンがすくすく育ったのが不思議な位。まあそのお陰で、私は早々に2人の胃袋を掴むのに成功して、自分の立場を固められたんだけど」

「ミホを怒らせると、おやつ抜きにされるから」

「おやつを盾にするのは、どうかと思う」


 ガロンとシヴァが真面目な顔でしみじみと呟くので、2人を除く全員が吹き出した。

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― 新着の感想 ―
こんな物怖じしない感じのミホだってイケメン紳士のグレゴリーさん未だに苦手なんだから、若い女の子が苦手な爬虫類に似てるって理由でガロンに強張ってしまうのは仕方ない。 エミリー本当にいい子だなあ。
[良い点] エミリーの爬虫類が苦手なのわかります! 私は目は大丈夫ですが、尻尾を切っても 切った先は動いてるとか、無理です 増えとるやないかいっ!って でもガロンは愛され男子 一族から敬遠されたトラ…
[一言] 幹部になる話。 あー、ベルガーが二度も〆られた話も、出るんでしょうね。 ここに居ないのに、貶められるベルガー(笑)
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