仮説
「ねえ、ショーンさん。これまで女神様の神託ってどんなものだったの?」
横に並ぶショーンさんに小声で聞くと、彼はそうですねぇ、と首を傾げた。
「主に自然災害に関する事ですね。これまでの歴史上、火山の噴火や長雨、干ばつ等が神託から数年後に起こってます。そういった自然災害は避けられませんが、神託のおかげで対策をたてられますので、壊滅的な被害を免れてきました」
「…そう。これまで神託が間違っていた事はないの?」
「自分が知る限りではありませんね」
「すごいわね。それなら皆が女神様を崇めるのも当然よね」
目に見える形で女神様の存在を示されているのだから。
「ええ。ただ女神様の神託はとても短く、未来に起こる事象のみが語られます。場所は大まかだし、いつ災害が起こるのかは分からない為、全てが未然に防げるわけではありません」
「…親切なのか不親切なのか分からないわね。文字数制限でもあるのかしら?」
私の言葉に、ショーンさんは可笑しそうに笑った。
「そうかもしれませんね。伝承によれば、女神様はこの世界を創造し、数多の生命を生み出された後に別の次元へ旅立たれたと言われています。もしかしたらこの世界は既に、女神様の手を離れているのかもしれません。ですが女神様は慈悲深いため、時々我々に救いの手を差し伸べてくれているのでしょう」
神様の住まう世界がどんなものか私には想像もつかないけれど、神様の世界にも秩序を保つ為の決まり事はあるのだろう。
ショーンの想像通りだとすれば、女神様がこの世界に干渉するのには色々と制限があるのかもしれない。
(もしかしてソレイユがこの世界に連れてこられたのは、女神様が去った後の為だったのかも…)
そんな考えが浮かんだ私は、魔王様から聞いた話を元に仮説を立ててみた。
恐らく女神様は初めからこの世界から去る事が決まっていた。
しかし当時の人間達は女神様に依存していて、文明が発達する様子がなかった。
このまま自立できなければ、やがて絶滅してしまうかもしれない。
せっかく生み出した生命が早々に失われる可能性に、女神様はさぞや胸を痛めただろう。
そんな時、女神様は訪れた異世界でソレイユを見つけ、彼の知識と愛情深さに希望を見いだした。
ソレイユならば、この世界の人間達を導き発展させるかもしれないと思ったのだろう。
だからソレイユの願いを叶える代わりに、この世界に連れて来て彼に祝福を与え、精霊達と融合させた。
自分の後任として、この世界に永遠につなぎ止める為に。
女神様の望み通り世界の一部となったソレイユだったが、家族を思う人の心は残ったままだった。
そしてその家族への恋しさが、やがて不幸な事故を招き、魔物を誕生させた。
魔物になってしまった星の民を哀れんだソレイユは、責任を取って魔物を導く魔王となり、人間と距離を置いた。
これまで自分達を導いてくれたソレイユと、生活を支えていた星の民を一遍に失った人間達は、魔石を得る為に危険を冒して魔物を狩り、ますます両種族の溝は深まっていく。
女神様に取っては人間も魔物のどちらも、ご自身が作られた生命で愛しい存在だが、このままでは魔力のない人間達が滅んでしまうと考えたのだろう。
そこで女神様の出した苦肉の策の一つが、神託を通して避けられない災害を事前に知らせる事。
そしてもう一つは、ソレイユの子孫をこちらの世界に呼び寄せる事。
そうすれば、新たな指導者を望む人間達と、家族の再会を望むソレイユの願いを同時に叶える事が出来る。
かなり強引だし荒唐無稽だけれど、そう考えれば色々と辻褄があう。
もともと女神様は人間達に甘い。まるで子供を甘やかすように、望まれるままに物を与えていた。
それこそが人間が発展しなかった原因だと思うのだけれど、そもそも神様の感覚はスケールが大きすぎて、私達と違うのだろう。
(それにしても…大雑把というか、詰めが甘いというか…)
尊い神様とは言え、万能ではないのかもしれない。
そもそもギリシャ神話の神々や日本の神様達だって、失礼ながらかなり俗っぽいと思う。
まあ、だからこそ親しみやすいけれど、神々の気まぐれな言動でとばっちりを食うほうはたまらない。
ギリシャ神話では、とばっちりを食った人間が星座になったりしてるけれど、あれって本人的にはどうなんだろう?
私だったら星座にされるより、謝ってもらった方がいいけど。
うん、やっぱり神様の感覚って、私達とは根本的に違う気がする。
女神様には悪気はなく、100%善意だったかもしれない。
けれどそのとばっちりを食ったのは、ソレイユとその子孫だ。
「…これまでに魔王様の復活や国の滅亡に関する神託はあったの?」
「国の滅亡はないですが、昼と夜の時代の交代を示す神託は、これまでもありましたね」
「そうなのね」
つまり魔王様の復活の神託は従来通りだった。
これまで人間達は、夜の時代に備えはしても魔王に手を出そうとはしなかった。
そうやって昼の時代と夜の時代を繰り返し、人間と魔物はバランスを取っていたのだ。
判断を誤ったのは、アビラス国王だ。
恐らく魔物と戦争を起こさずとも、あの愚王には国を治める器量がなく、滅亡していただろう。
自然災害ではないのに神託が下ったのは、本来ならいないはずの存在により未来が変わるからだ。
勇者の母というイレギュラーの存在によって。
『あなたの存在は危険だ。あなたの思想は、我々の勇者育成計画、ひいては世界の調和を乱しかねない』
かつてリアムに言われた時は腹が立ったけれど、彼は間違ったことは言ってなかった。
この国はもうすぐ神託通り滅亡するし、私も少なからずそれに関わっている。
アビラス国王は自業自得なので同情の余地はないけれど、国という拠り所を失った民達はしばらく不安だろう。
私の存在は、この世界の多くの人達に影響を与えてしまった。
(…考えても仕方がない。今は自分を信じて出来る事をするだけよ)
読んで下さってありがとうございます。




