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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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隠された真実

一部、誤字修正しました。

 帰らずの森に入った軍からの報告が途絶えてから1週間後。

 王女アンジェリカが聖騎士達と共に城に帰還したとの知らせを受け、国王は喜んだ。参戦を許したものの、ずっと愛娘の安否を気遣っていたのだ。


(勇者も一緒に帰還したという事は、無事に魔王を討伐出来たに違いない)


 報告を受ける為に上機嫌で謁見の間で玉座についた国王は、次第にその表情を曇らせた。

 眼下に跪く者達の様子があまりにも悲惨だったからだ。城に到着した時に疲れているだろうからと食事をとらせ、十分な休憩も与えた。だと言うのに彼等の表情は一様に暗く疲れきった様子だ。鎧や衣服は返り血や泥で汚れ、戦闘の激しさを物語っている。

 聖騎士と共に控える王女は流石に身支度を整えていたが、美しい金髪にはいつもよりツヤがなく、いつもキラキラと輝いている宝石のような瞳は伏せられたままだった。

 

(この場にクリフォード将軍と賢者ショーン・クラークの姿がないのは何故だ?まずは話を聞かなければ)


「皆の者、面を上げよ」


 言った瞬間、国王は後悔した。

 皆、悲痛な表情をしており、愛娘に至っては静かに涙を零しながら震えていた。


「まずはここにいる皆の無事を喜ぼう。その様子を見るに、激しい戦いだったと容易にわかる。皆、大儀であった」


 その言葉を聞き、何人かの聖騎士達が唇を噛み締めて俯いた。


「森に入るのに苦労しているとの報告は受けていたが、その後連絡が途絶えて気を揉んでいた。援軍や支援物資を送ろうにも状況が分からなくてな。何があった?戦況を報告せよ」

「恐れながら申し上げます」


 聖騎士隊長のアルヴィンが語る戦況報告は、惨憺さんたんたるものだった。

 進軍中に敵の術中に嵌り、兵力を分断されてクリフォード将軍の安否も分からない事。

 砦に辿り着いたものの、魔王軍の攻撃に手も足も出なかった事。

 戦闘中のどさくさに紛れ、異国人が王女を拉致した事。そして逃れようとした王女が魔力を暴走させて竜巻を起こし、多くの味方が犠牲となった事。

 その犠牲者達がアンデッド化し、敵となって襲いかかってきた事。

 賢者ショーン・クラークが勇者を庇って巨大な花に飲み込まれ、命を落とした事。


 賢者の死が伝えられると、広間のあちこちか息をのむ音がした。


「夜になって味方とアンデッドの区別ができず、統率がとれないままの退却となりました。軍の兵士達と別行動になった為、どれだけ生き残っているかも把握できておりません。ひとまず王女様を無事に城に届け、戦況を知らせようとした次第です」


 報告を受けた国王は頭を抱えた。


(悪夢だ…。誰か嘘だと言ってくれ)


 国を滅亡から救う為に魔王を討伐しようとした。民を守るのは王の務めだ。だから無理を言って勇者まで召喚した。

 ああ、それなのに何と言う事だ。

 故意でないとは言え、王女が自国の民を死に追いやるとは。そしてその勇者を守る為に、国の宝とも言うべき賢者を失う事になった。

 その上、最高責任者であるクリフォード将軍は行方が知れないという。


 開戦前は良くなった景気は一時的なものだった。徴兵で働き手を失ったのに物価は上昇したままで、このままでは生活が出来ないと庶民から不満の声が毎日のように上がってきている。そしてアビラス軍が出兵したのを見計らったように、他国の者達が首都に入り込んでそのまま居座っている。


(この状況下で、この事が知れ渡れば、民の怒りはアンジェリカと王家に向ってしまう)


 半数以上の兵力が手元にない今、内乱が起きると鎮圧するにも一苦労だ。そんな中で他国が軍事侵入してきたらひとたまりもない。民の血をこれ以上流すわけにはいかない。

 そんな胸の内も知らず、王女はすすり泣きをしながら懺悔をし始めた。


「身を守るためとは言え、私が魔力を暴走させたばかりに、多くの罪もない兵士達が命を落とす結果となってしまいました。賢者様の言う通り、私は戦争に参加すべきではなかったのです。愚かな私は、自分の罪をどう償えばよいか分かりません。父上、いえ、陛下。どうぞ私に罰をお与えください」

「いえ、戦闘中とは言え一時でも王女様より目を離した我々の落ち度です。王女様が不埒な輩に攫われるのを未然に防げていれば、少なくともこのような悲劇は避けられたはずです」

「聖騎士の皆様に罪はありません。むしろ今日までこんな私を守っていただいた事に感謝しております」


 これが天真爛漫で我が侭だったアンジェリカだろうか?

 以前は他人から奉仕されるのが当然といった態度だったのに、この謙虚さはどうした事だ?

 成人の儀を終えてから勉強熱心になったとは聞いていたが、ここまで性格が変わるとは。

 戦争の悲惨な体験が、娘を成長させたのだろうか?

 こんな状況でなかったら、娘の成長を素直に喜んだだろうに。


 国王は複雑な思いで娘を見つめながら頭をフル回転させた。


(何とかしなければ)


 国を守る為にも、民に真実を知らせる事は出来ない。


「アンジェリカ、そなたは戦争で多くの者が死ぬところを見たショックで神経が衰弱しているのであろう。心身が回復するまで、しばらく公務を離れて休養する事を命ずる」

「父上!?」

「誰か、アンジェリカを休ませてやれ。北の塔ならば静かで良いだろう」


 北の塔、と聞いてアンジェリカは自分が幽閉されるのだと悟ったのだろう。


「わかりました。北の塔で己の罪を悔い、犠牲となった民の為に祈りを捧げたいと思います」


 王女は静かにカーテシーをした後、やってきた侍従に抵抗する事なく連れられて行った。

 国王は謁見の間から王女の姿が見えなくなると、声を張り上げた。


「衛兵、聖騎士たちを一人残らず捕らえて地下牢に入れよ!この者達は味方を見捨てて戦線離脱した不届きものである!」

「なっ!?」

「国王陛下!一体なぜ!?」


 聖騎士達は皆、信じられないという面持ちで国王を見上げた。

 国王の命を受けた衛兵達が、戸惑いながらも槍や剣を聖騎士達に向けた。それに対して聖騎士達は、謁見の間に入る際に武器を預けていたため、抵抗できないまま拘束されて行く。


「陛下っ!我々は決して味方を見捨てたわけではありません。王女様をお届けした後は、戦場に戻るつもりでした。女神様に誓っ「黙れ!」」


 国王はアルヴィンの訴えを途中で遮った。女神様の誓いを宣言させるわけにはいかない。


「この者達は戦線離脱する際に、足手まといとなった味方の兵士達を切り捨てた。戦争という恐慌状態で起きた事だ。これまでの功績を加味し、命を取る事はせぬ。そなた達の処遇は神殿側と話し合って決めることとする。それまで地下牢で大人しくしておれ」


 拘束に抗った若い聖騎士を、衛兵が乱暴に殴りつけた。


「エルマー!」


 勇者が倒れた聖騎士に近寄り、それを阻止しようとした衛兵達は弾かれたように吹き飛ばされた。仲間を守る為に立ちはだかった勇者に睨まれ、衛兵達は動けない。武器はなくとも魔法が使えるのだ。


「勇者レンよ。己の罪を忘れたか!?賢者ショーンが死んだのは、そなたの不甲斐なさの所為であろう!!」


 国王の言葉に勇者はビクッと体を揺らし、やがて力なく項垂れた。複数の衛兵が取り押さえようと一斉に飛びかかったが、勇者は一切抵抗をしなかった。後ろ手に拘束された勇者は死んだ魚のような目をしており、表情がごっそりと抜け落ちていた。


「連れて行け。追って沙汰を下すまで、乱暴な事はするでないぞ」


 やがて、残された大臣達や書記達に向って国王は命令を下した。


「今日、この場で見た事、聞いた事は他言無用だ。民や他国に真実が知れ渡れば、由々しき事態になることは想像に難くない。もしも秘密を漏らすような者がいたら、その舌を切り落とすぞ」


◆◇◆◇◆◇


(嘘だろう!?こんな事、許されるはずがない)


 広間の隅でやり取りを記録していた若き書記官は、ブルブルと震えながら手を止めた。


「アレックス、そのまま記録を続けなさい」

「書記長…しかし陛下が…」

「国王に提出する公式文書は私が作ろう。真実の記録は、開かずの箱へ保存する事にする」

「しかし万が一バレたら…」

「速記を読めるのはごく僅かだ。それに開かずの箱を開けられるのは我が一族しかいない。大丈夫だ」


 それでも不安そうな表情の部下に、書記長は頷いた。


「時に政治の都合で真実が歪められる事がある。我々の使命は、真実を記録し後世に伝える事だ。聖騎士の中には君の友達もいるんだろう?」

「…はい。自慢の友達です」

「その記録は、いつかきっと君の友達を救う事が出来るだろう」

読んで下さってありがとうございます。

エルマーの友人のアレックス君、皆様、覚えておられるでしょうか?

反省した彼は、剣の道を捨てて書記官になっておりました。

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― 新着の感想 ―
アレックスお前立派になって…
[良い点] 王様の所業、一応は親バカだけでなく国の行く末を案じてのものだった。 …色々考えてるようで全然考え足りてないけど。
[一言] うおおおおお!!!ここでアレックス!!!!!ペンは剣よりも強しをいくのか…!?!? 1話目からずっとどきどきしながら読んでいて止まりません!
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