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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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選ばれし者6

 北のエリアは王国の中で一番面積が広いが、そのほとんどが険しい山で占められている。

 わずかな平地は乾燥した痩せた土地で、作物はほとんど育たない。

 にもかかわらず人が集まるのは、山に眠る豊富な資源の為だ。

 金・銀・銅・鉄・錫・鉛などの他、建築素材として使われる質のいい石が採れる。

 運が良ければ、宝石の原石を掘り当てる事もある。

 働く場所はいくらでもあった。

 人々は一攫千金を狙って集まり、狭い土地に街を作って発展していった。

 しかし成功できたのは、ほんの一握りの人間だ。

 山はとっくの昔に国や貴族の管理下に置かれ、多くの人々は鉱山で雇われ労働者として日銭を稼いでいた。

 また、食料や衣料は他のエリアに頼っているため、物価も少々割高だ。

 自給自足をしようにも、平地では碌な作物が育たないため農業や酪農はできない。

 その為、市民の多くは仕事を持ちながらも、暮らしに余裕があるとは言えなかった。


 エルマーは街に入って気を引き締めた。

 噂には聞いていたけれど、あまり治安が良くないというのが街の雰囲気から伝わってきたからだ。

 街全体が他のエリアと比べて暗い感じがするのは、薄いグレーの花崗岩(かこうがん)で出来た建物のせいだけではないだろう。

 乗り合い馬車の二階に座るエルマー達は、ジロジロと不躾な好奇の目にさらされた。

 無理もない。同じ年頃の少年達は顔も服も土埃で汚れているのに対し、二人は目にも鮮やかな空色の制服を身にまとっているのだ。

 馬車を降りてすぐ、二人は5〜6人の物乞いの子供達に囲まれた。


「悪いけど僕達は持ち合わせがない。神殿の遣いで先を急ぐんだ。道をあけてくれ」


 神殿という言葉が聞こえたからだろう。周りの大人達が物乞いの子供達を追い払った。


「こらっガキ共!聖騎士様の邪魔をするんじゃねぇ。(ばち)が当たるぞ!」


 大人に怒鳴られ、子供達は一斉に逃げていった。


「見苦しくってすみませんね。孤児院のガキ共は躾がなってなくて」


「お二人はこれからどちらに?よろしかったら案内しますよ」


「ありがとうございます。ストーンマーケットに祭事に使うクリスタルを貰いにきたんです」


「ああ、それならすぐそこだ。あそこに黄色い看板が見えるでしょう。あそこです」


 二人はお礼を言って、ストーンマーケットに歩いていった。

 その道中、レンは無言で何事かを考えている様子だった。

 

◆◇◆◇◆◇


 ストーンマーケットについた二人が神殿からの遣いである事を告げると、店の主人が愛想よく出迎えてくれた。


「よくいらっしゃいました。未来の聖騎士に二人もお会いできて光栄です」


 レンは持たされた書状を主人に渡した。


「神官様より預かってきたものです。ご確認ください」


 店主は書状を広げて中を確認すると、小さく頷いた。


「確かに。少々お待ちください。すぐにクリスタルをお持ち致します」


 そう言って奥に引っ込んだ店主は、拳くらいのクリスタルの結晶を(うやうや)しく持ってきた。


「最近採れた中で一番純度の高い物です」


 目の前に置かれた結晶は、透明な六角柱のクリスタルが何本も放射状に伸びており、まるで氷で出来た花の彫刻のように美しかった。

 エルマーが受け取ろうとすると、レンが静かにそれを遮り店主に質問した。


「あの、勝手なことを言って申し訳ないのですが、ここを出発するまでクリスタルを預かってもらえますか?少し街の様子を見たいんです」


「ええ、構いませんよ。はるばるここまで来たんだ。ゆっくりして行って下さい。お食事だったら魚のフライがおすすめですよ」


 レンはしばらく店主と世間話をした後、任務と関係ない事について質問した。


「さっき孤児院の子供に会ったんです。小さな子供が物乞いのような真似をしていました。定期的に神殿から食料が届いているはずなんですが、みんなガリガリに痩せていて・・・。もしかして彼らの元に届いていないんでしょうか?」


 レンに問われた店主は、困ったように首をひねった。


「いや、それは私には解りかねますな。何しろ気にした事もなかった。食事にありつきたいなら働けばいいんだ。少なくとも、ここらじゃそれが当たり前ですよ。ただ、神殿からの荷物を横取りするなんて罰当たりな真似をする奴はあまりいないと思います。ここいらの連中は皆貧しいが、信心深いんですよ」


「・・・確かに、街の皆さんは俺達に対して親切でした。ちょっと事情を確かめたいので、孤児院の場所を教えていただけますか?」


 孤児院の場所を聞いたレンは、店主にお礼を言ってそのまま店を出ようとしたので、エルマーは慌てて追いかけた。


「おい、レン。何をするつもりなんだ?」


「様子を見に行くだけだよ。北のエリアの孤児の数は国で一番少ないんだ。確か20人位だったと思う。それなのにあんな状態で放っておかれるのは、何か理由があるかもしれない。気が乗らないならエルマーは此処にいていいよ」


「何だってそんなに気にするんだ?そりゃ気の毒だとは思うけど、俺らでどうにかできる問題じゃないだろう?大人がどうにかしてくれるさ」


「さっき店主が言ってただろう?気にした事もなかったって。この街の人達は、孤児院の子供達が裸足でも、ガリガリに痩せてお腹を空かせていても、誰も何も気にしていないんだ。そんな無関心な大人が何をしてくれるって言うんだ?」


「何をそんなに怒ってるんだよ。お前には関係ないだろう?孤児という境遇に同情はするけど、それは彼らの責任だろう」


 レンは足を止めて真っ直ぐにエルマーを見た。


「俺のお父さんは事故で亡くなった。お母さんは魔物に襲われて亡くなった。孤児の俺に、どんな責任があるのか教えてよ」


「・・・悪い。失言だった」


 どういう経緯で神殿やアルヴィン隊長と関わるようになったかは解らないが、彼は自分の境遇を悲観する事はなかったし、エルマーと仲良くなってからは笑顔も増えた。それ故、レンが異国人の孤児だという事をすっかり忘れていた。


「両親がいないのは子供のせいじゃないし、望んだ事でもない。だけど周りの人間は哀れんで見下すんだ。あの子達と俺は何も違わないよ。街の人が見てるのは俺じゃなくて聖騎士の制服だ。このままじゃ、いつまでたっても何も変わらない。エルマーの言う通り、自分に何か出来ると思ってるわけじゃない。でも原因が解れば、神官様に進言して対策を立ててもらえるだろう」

 

 エルマーは何も言えなくなった。

 騎士になって街の人を守るというのが目標だった。強くなればなるほど、その夢に近づくと思っていた。でも、己の技を磨くのみで、こんな風に弱い立場の人々を思いやった事などなかった。

 それに比べ、レンは弱い立場の人間を思いやる優しさと強さを兼ね備えている。

 

(本当に、凄い奴だな)


 前を歩くレンの小さな背中が、なんだか眩しかった。

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― 新着の感想 ―
すごいな、13歳の子供が考える事じゃないんだよ。本来なら大人がどうにかしなくてはいけない事なのに自ら率先して動けるのは本当に凄いよ。
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