表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/559

選ばれし者7

 孤児院は街の中心から少し離れた郊外にあった。

 施設は3階建てで白い美しい石で出来ており、周りの貧相な家屋よりもしっかりした造りをしていた。

 レンは物怖じする事なく真っ直ぐに施設の玄関まで行くと、名乗りを上げた。


「突然の訪問失礼します。神殿より遣いとして参ったレンと申します。どなたかいらっしゃいますか?」


 しばらくすると扉が空き、中から痩せた中年の女性が出てきた。瞳の色は上品にまとめられた髪と同じ薄いグレーで、儚げな印象の女性だった。

 扉の外に立っていたのが聖騎士見習いだったので驚いたのだろう、女性は目を丸くしてレンとエルマーを交互に見ていたけれど、すぐに微笑を浮かべて二人を招き入れた。


「ようこそ。院長をしているマーサと言います。どうぞ中へお入り下さい」


 玄関ホールは広く吹き抜けとなっており、正面の壁には女神様のモチーフが描かれていた。

 掃除も行き届いており清潔ではあったけど、エルマーは何となく寒々しく味気ない感じがした。

 20人以上の人間が暮らす施設にしては静かすぎるのだ。

 二人は応接間に通されたけれども、長机と背もたれのないベンチという質素な家具があるだけの寂しい部屋だった。


 (花とか子供達が書いた絵とか、飾っても良さそうなのに)


 そう思ったが、エルマーは孤児院に訪れるのはこれが初めてだったので、こういうもんかと思った。


「今すぐお茶を用意しますので」


 そう言って出て行こうとするマーサをレンがひきとめた。


「どうぞお構いなく。こちらに来る用事があったついでに様子を見に来ただけです。神殿からの物資は滞りなく来ていますか?」


「はい。おかげさまで助かっています。温かい食事を毎日子供達に与える事が出来るので、大変感謝していると神官様にお伝えください」


 レンとエルマーは顔を見合わせた。彼女が嘘を言っている様子はない。けれど、毎日食事を与えられているという割には、街で見た子供はガリガリにやせ細っていた。


「職員はあなただけですか?」


「いいえ、私を含めて3人です。1人は今、子供達と一緒に水汲みに行っています。もう1人は具合が悪くて臥せっています」


「そうでしたか。大変な時にお邪魔してすみません」


「いえ、いつもの事ですので慣れています」


 マーサが疲れたように笑った。


「実は街でこちらの子供達に会ったんです。ガリガリに痩せてたので、もしかしたら食料が足りてないんじゃないかと心配になりまして」


 レンの言葉にマーサは顔を赤くした。


「あの子達ったら、また・・・申し訳ありません」


「いえ、でも何かお困りの事があれば遠慮なくおっしゃって下さい」


「確かに、食べ盛りの子供達には物足りないかもしれません。ですが毎日きちんと食事は与えていますし、私達も同じ物を食べています。これ以上を望むのは贅沢ではないでしょうか?」


「そんなことないです。他のエリアからは時々要望がきますよ。例えば乳児が増えたからミルク代やおむつ代を増やして欲しいとか、臨時の職員を増やして欲しいとか。実際調査に行って、事実と認められたらすぐに手配されるようです。逆に何も言われなかったら、神殿は問題ないと見なして動きません」


「そうなんですか。知らなかった。私、院長になって日が浅いものですから」


 しばらく物思いに耽ったマーサは、ためらいがちに口を開いた。


「この孤児院に来ると、みんな体調不良になって痩せていくんです。信じられないかもしれませんが、私ここに来る前はすごく太っていたんですよ。職員もだんだん病気がちになって長く続きません。前の院長も病に倒れ辞められました。子供達がガリガリに痩せているのも恐らく同じ理由です」


「具体的にどんな症状なんですか?」


「腹痛と慢性的な下痢です。ときどき熱を出す子もいます」


「医者か癒し手に見てもらった事は?」


 マーサは首を振った。


「そんな余裕はありません。それに私達はここで暮らしていくだけで感謝しなくては」


「どうしてそんな風に思うんですか?助けて欲しいと訴えるのは、悪い事ではないですよ」


「孤児院の運営は神殿ですが、実際にお金を出しているのは国です。私達は国民の税金で養われているんです。私達は慎ましく生きていかなくては」


 レンの目が暗い光を宿した。


「では質問を変えます。半年程前、この施設にいる孤児の人数は21人だったと記憶しています。新しく入所した子供は1人もいなかったんですか?」


 マーサの体がびくりと震えた。


「支給する物資の数を計算したり、書類の整理を手伝っているから知っています。この半年の内、入所者が2名増えたはずです。なのに物資申請の人数は以前と変わらない。何故ですか?」


 マーサの目にみるみる涙が溜まった。


「・・・別の2名の子供が亡くなったからです。仕方ありません。冬を越せない弱い子供は、毎年いるんです」


 エルマーはひどくショックを受けた。

 子供の自分でもここが問題だらけなのはわかるのに、当人達の自覚がないのだ。

 レンが、悲しそうにマーサを見た。


「故意ではなくても、毎年死者を出している施設が正常な状態とは思えません。この状況は神殿に報告します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ