氷の魔鉱石
誤字や脱字があったので一部修正しました。
氷菓を売り出して一ヶ月が経った頃だ。
ある夜、隣で寝ていたシヴァが不意に体を起こしたので、私も目が覚めた。
「シヴァ?・・・どうしたの?」
「複数の人間が近づいてきている。一人はダンだ。こんな夜更けに来るとは、よほどの緊急事態か・・・お前はこのまま寝ていろ」
「そんな訳にはいかないでしょう」
身支度を整えていると、来客を知らせる鐘の音がけたたましく鳴り響いた。
急いで門へ向い、ひとまず外壁の上から下を確認すると、ダンと見知らぬ男3人が立っていた。
「ダン!?一体こんな時間にどうしたんだ?何かあったのか?」
「シヴァ!大変な事になった。とにかく開けてくれ」
ダンはこれまでにない程取り乱していた。
シヴァが門を開けると、ダンと男達は少しホッとした顔をした。
「夜更けにすまない。緊急事態で朝まで待てなかったんだ」
「一体どうしたんだ?それに、この人たちは?」
シヴァが男達を見ると、口ひげを蓄えた年配の男が前に進み出た。
「夜分遅くにすみません。あなたがこちらの責任者のシヴァさんですね?」
「ああ、そうだが?」
「我々は首都の南エリアで警備に当たっているものです。実はダンの家に強盗が入りまして」
「「強盗!?」」
私とシヴァは驚いてダンに駆け寄った。
「襲われたのか?怪我はないか?」
「お母様は無事なの!?一人にしておいて大丈夫?」
「ああ、怪我はない。おふくろも無事だ。今は近所の友人の家に避難してる」
「よかった・・・」
二人とも無事で良かった。
ホッと息を吐いた後、警備の人が私達をじっと見ているのに気がついた。
「立ちっぱなしも何ですから、こちらにどうぞ。すぐにお茶を用意します」
私達は食堂に移動した。
私がお茶の準備をしている最中、シヴァが早速切り出した。
「それで?今日の売り上げが盗まれたのか?」
「いや、冷凍庫を壊されて中の部品を取られた」
ダンが苦々しく言った。
「夜、馬がえらく騒いだから何事かと行ってみたら、冷凍庫が壊されて棚は散乱してたんだ。確認してみたら、底板が剥がされて部品があった場所が空になってた。冷凍庫がただの箱になっちまった。賊は、荷馬車を入れている倉庫の鍵を壊して侵入してきたらしい」
「冷凍庫が壊された!?誰よそんなふざけた真似した奴は!アレを作ってもらうのに苦労して企画書書いたっていうのに」
「実際に書いたのは私だろう」
「これは完全な営業妨害よ。ドルチェに何か恨みでもあるのかしら?」
「少なくともよその菓子店の売り上げは減っただろうから、多少恨まれてるだろうな」
「シヴァ、さっきからうるさい」
「お前こそ興奮し過ぎだ。もう家に帰って寝ていろ。後はこっちで対処するから」
「こんな状況で寝られる訳ないでしょう!?」
ゴホン、と咳払いが聞こえて、私は慌てて冷茶を出した。
「・・・失礼しました。お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
冷茶を一口飲んだ警備員は、一瞬表情を緩めた後、すぐに引き締まった顔をしてこちらを見た。
「奪われた部品というのは、かなりの貴重品らしいですな」
「ええ。氷の魔鉱石です。売れば一生とは言わないまでも、かなり長い間遊んで暮らせるでしょうね」
シヴァが事も無げに言った。
「え?そうなの?そんな高価な物を部品として使ってたの?」
私の発言に、シヴァは呆れた顔をした。
「氷点下の温度に保つ機材が必要だと言ったのはお前だろう。その条件をクリアするのは、氷の魔鉱石しかなかったんだ。魔石は瞬間的にしか魔法を発動させられないからな」
「・・・オーナーからはすごく快くOKが貰えたけど」
「採算が見込めると思ったからだろう。だが、冷凍庫を作った技術者達は大変だったと思うぞ。魔鉱石の威力を押さえる呪を施す必要もあるからな」
「威力を押さえる?それは一体どういう意味ですかな?」
警備員の一人が尋ねてきた。
「そのままの意味ですよ。魔鉱石は永久凍土の中から発掘されますが、実はその環境を作っているのが魔鉱石自身なんです。鉱石でありながら意志を持ち、自分に適した環境を作る、生ける鉱石ですよ」
「そんな貴重な物が盗まれた割には、やけに落ち着いていますな」
口ひげのおっさんが尋ねた。
「まあ、犯人はすぐに見つかるでしょうから」
「なぜわかるんです?」
「言ったでしょう。壊された冷凍庫は魔鉱石の威力を押さえていたと。そこから解放された魔鉱石は本来の力を発揮して、周りを永久凍土に変えようとしているでしょうね」
シヴァはゆっくりとお茶を飲んだ。
「今は夏だ。ブリザードの吹き荒れる場所を見つけるのは子供でも出来ますよ」




