こめかみ
結局、その日はガロンに会いに行く事は出来なかった。
シヴァは帰るとすぐに眠ってしまったからだ。体力と魔力を回復させる為らしい。
そして夜中に起きてきて、軽く夜食を食べてから魔王様へ謁見する為に一人で登城していった。
今回の件を報告する為だ。
私はベッドの中で、自分なりに考えを整理してみた。
貴族の間でドルチェの菓子が話題になっているという事は、上流階級の監視の目が下町に行き渡っているという事だ。今日、シヴァが店頭にたったことも報告されていると考えた方がいいだろう。
・・・何となく、一波乱ありそうな気がする。
また、オーティスというあの男がドルトの上客だったことが判明した。
意外だったのは、グラードで有数の豪商が、小悪党を使ってわかりやすい嫌がらせを仕掛けてきたことだ。てっきり、金に物を言わせてこちらの身動きを取れなくすると思ってた。
念のため、そう言った場合を想定して対策は考えているけれど。多分、下町は治安が悪いから、やはりヘキサドマーケットに店を構えた方がいいとか言って、再び交渉しにくるつもりなんだろう。
しかし、そうと知った以上、あの男に甘い汁を吸わせるつもりは毛頭ない。
シヴァから、お前は首を突っ込むなと言われてるけど、子供達の仇でもあるのだ。真っ当な商売であいつに地団駄踏ませてやろうじゃないか。
気になるのはシヴァの体調不良についてだ。ダンの家にいる時は案外平気そうだった。私は実際に行ってないからわからないけど、もしかしたら中央広場に何か秘密があるのかもしれない。
つらつらとそんな事を考えていたら、シヴァが帰ってきた。
「なんだ、まだ起きていたのか」
「うん。眠れなくて。具合はどう?」
「ああ、大丈夫だ。心配かけてすまなかった」
「魔王様は何て?」
私の問いに、シヴァは小さくため息をついた。
「・・・ミホの好きなように反撃していいとおっしゃった」
「よっしゃあ!さすが魔王様、わかってるわね。ふふふ、どう料理してやろうかしら?」
ガッツポーツを取った私に、シヴァは頭を抱えた。
「なんでそう、殺る気に満ちあふれてるんだ・・・」
「だって、あいつのせいでダンのお母様は怪我をしたし、シヴァは体調不良になったし、ガロンにも会えなかったわ。私は怒ってるのよ」
私の言葉に、シヴァは顔を上げた。
「そんなに元気なら、今からガロンに会いに行くか?」
「え?いいの?」
「実はさっき魔王様にお願いして、訓練場の倉庫の扉を繋ぐ許可を取ってきた」
私は嬉しくなってシヴァに抱きついた。
「良くやったわ!褒めてつかわす」
「ありがたき幸せ」
「うん、冗談を返せるようなら大丈夫ね。早速行きましょう。ガロン、きっとビックリするわね」
シヴァは答える代わりに微笑んで、私のこめかみに軽くキスをした。
◇◆◇◆◇◆
日をまたいでしまったけれど、ガロンは真夜中の訪問をとても喜んでくれた。
ただし訓練の始まる時間帯だった為、私達はそれを見守るという参観日のような状態になってしまったが。
ガロンは私達に格好いい所を見せようと張り切っていた。模擬戦の最中も、相手を倒す度にチラチラこちらを見るので、「見てるよ〜」との思いを込めて手を振ると、嬉しそうに長い尻尾をブンブン振り回した。
「ふふふ、ガロンってば嬉しそうね。来て良かったわ」
「そうだな。反抗期だと心配していたが、まだまだ可愛い所が残ってるな」
二人でガロンの活躍を微笑ましく見守ってると、ベルガーが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あの光景を微笑ましく見ているお前らの感覚は異常だ。親バカも大概にしろ」
よくよく見れば、ガロンの尻尾の犠牲者が敵味方関係なく転がっていた。
「あらまあ、ガロンは相変わらず力持ちね。というか、アレぐらい避けられなきゃだめじゃない」
「そうだな。戦闘中は感覚を研ぎすませて常に周りに気を配らなければ」
訓練だからって少し詰めが甘いんじゃないか?という私達に、ベルガーはこめかみを押さえた。
「もういい、お前ら、もう帰れ。訓練の邪魔だ」




