表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/66

保護者ゲットしました

ジャッキーンと言う音が頭のすぐ上でする。

その後にグァッとか、グシャッとか。え??いや、グシャッてなんだ?グシャッってなにさーー?!


生暖かい何かが鉄臭い匂いと一緒に頭から降り注いでくる。


うん、首はつながってる。痛くない。生きてる私。

だけど、この、生暖かい何かはやっぱり。

あれですか?たちつてとの二番目?!考えたくないっ!切実にっ!


『あ』


あって聞こえた。言葉が違うのにソコは一緒なのか。やっちまったって雰囲気がただ漏れなんだけど。なにをやっちゃったんでしょうか、多分助けてくれてる人の筈なんだけど。


でも怖くて目が開けられない。腕の中の子供も私にしがみついている。子供の存在が私の意識を支えてくれていた。一人だったらあっという間に意識を飛ばして現実逃避してると思う。


しばらくそうして二人でいると、辺りがシンっと静まりかえった。

大勢に囲まれていたはずだったのに、人の気配が消えている。その代わりにハァハァと荒い呼吸が聞こえた。



『********』


切れ切れに何かを言われるけれど、解らない。そっと目を開けようとしたら何かに視界を遮られた。温かいそれは多分大きな手だと思う。見るなってこと?それに誰??聞こうと思った瞬間にふわりと体が浮いた。軽々と子供を抱えた私ごと抱き上げられている。この人が助けてくれたのは間違いないと思う。あの人数を一人で相手にして勝ったんだろうこの人は、男の人だと思う。それにしても凄い力だよ。片手で目隠しをしながら、片手で二人分の体重を支えている。子供は私の胸に顔を押し付けて震えているから、両腕で顔を上げないようにきっちりと抱えこんだ。今、周囲に広がるのは死体の山に違いない。この臭い、やけに静か過ぎる嫌な静けさ。顔に感じるぬるりとした感触。全てが考えたくもない光景を想像する材料になってしまう。


幸い助けてくれたこの彼は、私と子供を殺そうとはしていないようだった。だけど、気は抜けない。分からないことだらけだし、目の前で起きている物事に頭がついていかない。死にたくないってだけで考える事を放棄して、兎に角動いていただけだったから、自分が今、どうい状況に置かれているのか考えていなかった。


少しだけ彼が移動して、ゆっくりと地面に下ろされる。と同時に、目の前が明るくなって声がかけられた。



『*************』


なにを言っているのかさっばり分からないけれど、ひとまずお礼を言おうと彼を見上げようとして、先に先ほどから気になっていた顔を手の甲で拭う。べったりと手の甲に紛れもない血糊がついて、鉄の臭いが鼻腔を犯す。多分、おそらく、そうだろうとは思っていたけれど、実際目にしたインパクトは強烈だった。まだ震えている子供を引き剥がし、身を翻して嘔吐した。何かを気にする余裕もなかった。頭から誰かの血をかぶったんだ。そして、その誰かはもう生きてはいない。そう思った途端に吐き気どころか胃が逆流を始めて止めることなんか出来なかった。胃が捻られるような感覚がする。あまりの苦しさに涙が滲むけれど、嘔吐は胃液になっても続いた。


ようやく吐く物がなくなり、暴れる胃がおとなしくなった頃、背中をさすってくれる小さな手と、大きな手に気がついた。

涙やら、なにやらでぐちゃぐちゃになっているだろうなと、思いながらも傍らに立つ小さな子を見ると、心配そうに顔を歪めている。さっきは気づかなかったけれど、まるで西洋絵画のモチーフになっている天使のような可愛らしい男の子だ。取り乱してしまった自分が急に恥かしくなって、男の子を安心させるようにぎこちない笑みを無理矢理浮かべて、頭を撫でる。


「ゴメンネ。びっくりさせちゃったね。もう、大丈夫だよ」


多分私の言っていることは分からないだろうけど、そう口に出していた。少し伝わったのか男の子は、ほっとしたように力を抜く。六歳くらいに見える。


こんな小さいな子に心配かけてなにやってんだ、しっかりしなくちゃ。


気合をいれて、兎に角状況を把握しなくてはと、顔を上げるとスっと目の前にどこから出したのか、水が注がれた木のコップを差し出される。口の中が気持ち悪かったのでありがたく受け取りすっぱくなった口をすすがせてもらった。大きく息をついてコップを返そうと、助けてくれた人を見る。そうだ、お礼もまだだった。そうして、彼を見た私はそのまま大声を上げざるを得なかった。


「聖司?!えっ?なんでそんな変な格好・・・・・・・・・。って、あれ?」


そう、私の大声に眉をしかめて、片手で目を覆おってしまった目の前の男は、聖司と同じ顔をしていた。あっ、でも髪の色と目の色が違う。真っ黒な聖司の髪と目は、深い紫のような濃紺になっていた。そして、黒のシャツにズボン、ブーツ、極めつけにマント・・・・・・・・・・ってマント?!


「なんのコスプレ?!」


固まる私に、大きなため息を嫌味ったらしく吐いた聖司(仮。多分違う)は嫌そうな表情を顔に浮かべながら口を開いた。


「お前、レーン、同じ。日本人か」


「日本語?!わかるの?」


馬鹿女に飛ばされた→聖司と同じ顔の別人(しかも日本語OK)→レーンは多分蓮→ここは蓮が飛ばされた場所→やっぱり異世界


頭の中でカチカチと計算器を弾くように短い言葉の羅列が流れていく。言ってたよ、蓮が。聖司と同じ顔の大親友が出来たって。あの馬鹿女は許せないけれど、ここでこの人に会えたのは、大ラッキーだ。逃しちゃならんっ!!


私が素早くジーク(なんたらって名前だったと思う)を見ると、彼は大きな体を震わせた。失礼な。後ずさりをする彼を逃がさないように彼の左手を両手で握りこんだ。なんてったって、魔王を倒す仲間の一人でしょ、腕が立つってことじゃない。しかも日本語解って、蓮の大親友だもん。迷惑がられようが、嫌われようが食らいついて面倒みてもらわないと。私なんかがこの世界に一人で放り出されたら、間違いなくあっという間に死んでしまう。だいたい、私がここに来る元凶は元は蓮の仲間だっていうじゃん。ということは、この人の仲間でもあるわけだし、責任を少しばかりとって貰ってもいい筈だ。


「私、蓮の幼馴染の礼羽 香蓮といいます。いきなりここに連れてこられて困ってますっ!助けて下さい!あなた、ジークさんですよね?!」


縋るように両手に力をいれる。溺れる物は藁にもすがるってそのまんまだ。縋るさ、彼しか助けてくれそうな人いないもん。とっても頼りになりそうな藁だしね。


何故か真っ青になって、ジークさんは口をパクパクさせている。


よし、ここで一気に押せばなし崩しに頷いてくれそうだ。


「お願いします。本当に困ってるんです。助けて下さい!!」


ズイっとジークさんの顔に顔を近づければ、更にジークさんは顔を背け逃げようとする。


「・・・・・・・・・・っは」


「は?」


何かを言おうとするジークさんにさっさと頷いてうんと言えと念を込めながら返事をすると、ジークさんはそれはもう、先程の私など及びもつかないほど大声を出した。


「放せっ!女は!嫌いだーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


あぁ、女嫌いのゲイでしたか。

尚更安全パイゲット。

こうなったら、私を助けると確約するまで手は放さない。よく見たら鳥肌が左腕を覆おっている。弱点?それは一度つかんだらトコトン利用する為のものですよ。


そうして、私はこの世界での保護者を無事にゲット出来た。あぁ良かった。これで当面野垂れ死にする事はない。


しばらくたって、意志の疎通がスムーズにできるようになった時に、ジークに言われた言葉は一生忘れないだろう。曰く、『あられもない格好をした女が血まみれで、挙句に異様にギラギラした目で迫ってきてみろ。普通の男でも気絶するだろうよ。怖かった。ほんっとーーーーに怖かった!!』だそうだ。失礼だ、勇猛果敢な傭兵様の言う台詞じゃない。いつか絶対に痛い目に合わせてやる。



読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ