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嵐、来襲

パシャンと水が跳ね、七色に輝く魚が飛び跳ねた。やけに大きくて、結構遠い位置だと思うけどはっきりと見えた。

思わず手を止めて、魚を目で追ってしまう。


なんだアレは。滅茶苦茶不味そう。


私は今、町の近くにあった川に連れて来られて、子供と行水中だ。どの道血だらけだったから二人とも洋服のまま入ってしまった。

自分は後回しで、ジークに手渡された布で子供の煤にだらけの顔や手を拭っていた。そう、どうやらこの子はセシルリールという名前らしい。らしいというのは、日本語出来る奴ゲットしたと思ったら、ジークは蓮に多少習った程度で片言しか解らないからだ。まぁ、世の中そんなに上手くいく訳がないってやつだね。片言でも解るだけマシだし、蓮の友達だから安心できる。


この異世界ってトコで、蓮の数少ない知り合いに拾われるなんて、どんだけ運がいいんだ私って。いや、飛ばされた時点で最高に不運な気もするけどさ。


元の世界では見たこともない川魚を見て、やっぱりここ日本じゃないよなぁ、とため息を漏らし、私はそもそもここに来るハメになった状況を思い返してしまった。


結局蓮は私の部屋に居ついてしまい、当面就職と家が見つかるまでは仕方ないと諦めた所だった。

家事は蓮がやってくれるし、まぁ気心しれた仲だったからあまり邪魔にはならないし、まぁまぁ一人より快適かも。なんて思ってた。

だって、家に帰ったらあったかい夕飯が待ってるんだよ?お風呂が沸いてるんだよ?実家にいる時は当たり前の事だったけど、一人暮らしになってからはとんとご無沙汰なそれらが、涙が出るほど嬉しかった。温かいご飯サイコー。すぐに入れるお風呂サイコー!!

ちょっと実家と疎遠になっていたから、久しぶりの家庭の暖かさだった。しかも、蓮の作るご飯が美味しいんだよ。独身男性の嫁を求める気持ちを理解したね。毎日少しずづ蓮の今までの話を聞きながら、自分の事を話したり、穏やかな日常だった・・・・・・・・んだけど。


嵐はやってきた。高笑いと共に。


土曜日の朝、二度寝、三度寝とごろごろまったりと過ごしていた。蓮は床に敷いた布団の上でタブレットを使ってネットサーフィンをしていた。こっちに帰って来てからネット環境の激変に感動して、家事をやる以外の時間をネットに費やしている。10年間の情報を埋める為だったはずなんだけど、最近別の楽しみを見つけているようにしか見えない。働き口探してこいって。


もうそろそろ起きて朝ごはん食べようかなぁと、ごそごそしているとガンガンガンと扉を叩く音がする。

ここはセキュリティがしっかりしているからマンションの住人以外は、玄関に直接来客ということはない。と、いう事はご近所さんだ。ここは私が対応しないと面倒だ。自治会費は先月一年分納めたはずなのに。蓮に自分がでるからと手をふって、ちょっと洗面所で鏡を覗いてから、玄関に向かう。そのあいだにもドンドン五月蝿いほどに扉は叩かれいた。


あのさ、世の中にはインターホンってものがね。ったく、誰だよ。


インターホンを押そうともしない来客に半ば腹を立てながら、顔には営業スマイルを浮かべてドアを開けた。近所付き合いは大事、うん。

でも、そこにご近所さんはいなかった。


『おぉぉほほほほほほほほっ』


奇抜な格好の女性が、小指を立てた手の甲を口元にあて仁王立ちで豊な胸をどーんと突き出して笑っていた。

速攻で扉を閉めた私を責めないで欲しい。

アレは無理だ。自分の身の危険を感じたよ。


奇抜って言ったけどね、ちょっと頭大丈夫なのかと疑うくらいには凄い格好だったからね。基本はアレだ、女王様とお呼びってやるボンテージ?だっけ?黒革のボンッキュンッボンの体のライン丸見えなアレな感じ。でも腰骨ギリギリでドピンクのロングスカートというか、中世のお姫様が着るドレスのようなスカートを履いていた。そして、襟が頭の半分ほどまで立った同じくショッキングピンクのマントを身につけていた。目がつぶれるかと思うくらいにギラッギラに光る大きな宝石の装飾品も大量につけていた。


素早く鍵とチェーンをかけていると、蓮が駆け寄ってきた。よく見ると顔から血の気が失せている。


「やべっ。見つかった。追いかけて来ちゃったのかよ」


「え?!知り合い?!」


それはそれで引くんだけど。あんな格好の知り合いとか・・・・・・・・あぁ、異世界の。


「知り合いというか、仲間というか・・・・・・・・・・・・危ないっ!!」


無理矢理納得していると、蓮が私の腰を引き寄せ反対の手を前に突き出す。次の瞬間目の前の玄関が吹っ飛んだ。凄まじい音と爆風にそして、目の前の残骸と化した玄関に自分の正気を疑う。何となく、私が無傷なのは蓮が守ってくれたんだろうという事ぐらいは解る。けれど、解るのはそれだけだ。更に高笑いを続けていた女は、蓮を目にした途端に顔を真っ赤に染め喜色を浮かべ、蓮にしがみついていた私に気づいた途端におっそろしい眼力で私を睨みつけた。その視線で私一人ぐらい簡単に殺せるんじゃないかと思うほど殺気のこもった目だった。


それから、私が全く解らない言語で二人はやり取りを始めてしまった。表情で読めたのは、彼女は蓮が好きな様子で、蓮は迷惑だと思っているという事だ。多分間違いないと思う。彼女のあまりの迫力と、目の前で吹っ飛んだ玄関に、ただ、ただ、怖くて蓮にしがみついていた。


しばらくやり取りした後、蓮がいきなり大声で怒鳴った。訳の解らない言語で言い合いをされると結構怖い。二人の間の空気も微妙に温度差がありすぎて怖い。よく、ドラマとかで見る超ポティジブシンキングって奴なんだか、暖簾に腕押しというか。蓮がなにをいっても彼女の目にハートが見える。もう、蓮にメロメロなのがわかりすぎくらいに分かった。蓮は結構本気で怒ってなにかを言ってると思うんだけどなぁ。


時々蓮が言うエメローディアっていうのが、聞き取れて彼女の正体が私にも分かった。

向こうの世界で蓮と一緒に魔王を倒したっていう、お姫様だ。格好は女王様っぽいけど、マジで王族ってやつだ。いいのか?王族がこんなに趣味悪そうな格好してて。


たしか、彼女と蓮はむこうで当然のように婚約するという話が出ていた筈だ。なにしろ勇者とお姫様、王道だ。だけど、エメローディアと結婚なんて蓮は死んでも嫌だったらしい。魔王も倒したし、約束通りにこっちに帰る方法を教えろと国の偉い人を脅して帰って来たって言っていた。そうか、お姫様は蓮にメロメロなのか。


とろんとした目で蓮を見るお姫様。


背景は城でもなく、美しい景色の湖とかでもなく、ボロボロの玄関だけど。どうしてくれるんだ。ここ賃貸なのに。


私の思いが伝わったのか、蓮が私の顔見て少し笑う。


「そんか顔しなくても大丈夫。俺がなおすから。時間魔法って便利な奴があるんだよ」


蓮が左手を翻した途端にぐにゃりと景色が歪んで、瞬きをした私が見たものは元通りの玄関だった。ほっとしたのも束の間、綺麗に修復した玄関の中にはお姫様がちゃっかり立っていた。あぁ、もう外にいてくれて構わないのに。ついでにそのまま向こうの世界に帰ってくれればいいのに。


「来ちゃったものはしょうがないから、ちょっと話をしてくるわ。ここじゃ花蓮に迷惑かけるだけだし」


ボリボリと頭をかき回しなが、のんびりと蓮がそんな事をいう。その後、お姫様を促して綺麗に直った玄関から出て行ってしまった。

なんだか蓮が消えてしまいそうで、不安に襲われる。私一人では手にあまるって事で幼馴染を呼び出す事にした。ベットに戻ってスマホを手に取る。


聖司を呼び出した後にこっそり蓮の後をつければいいや。


電話をかけようとロックを解除したところでいきなり背後に人の気配がした。驚いて振り返る。

そこには先程蓮と出て行ったはずのお姫様がそれはもう、嬉しそうに意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。


腕を掴まれた瞬間に、頭の中に声が響いた。


『貴方とっても邪魔なんですの。レーンの幸せの為に死んでいただきます』


その後すぐにまたもや高笑いが続き、体の中かから熱が込み上げてきて眩しい光に包まれた。眩しくて目を閉じて開けたらさっきの火の海の町の中だったんだ。


あの馬鹿女。なにが死んでいただきますだよ。

絶対に帰るまで死んでなんかやるもんか。

って言ってもジークが助けてくれなかったら間違いないく死んでたけどね。


少しは綺麗になったセシルリールを川からあげて、自分の髪を洗い流しながらやっと私はこれからどうしようかと途方にくれる事ができたのだった。

読んで頂きありがとうございます。

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