ロームロームが半端なく美味しかった件
この世界がちょっと面白くなってきた。今、私がいるのは、ロームアル国の首都、ヌギーマだ。なにが面白いって、建物がまんま中国だからだ。色彩感覚も中国みたいで、赤や、黄色、濃いピンク、濃い緑と、色に溢れている。
まぁ、ここの人々も冒険者のような恰好をしている人のほうが多いんだけど、服がサテン生地の綺麗な色あいの服を着ている。
そんな訳で、今日のファーランの衣装は、勿論チャイナ服だ。しかもスリットが足の付け根の近くまで入っている、目のやり場に困るやつ。相変わらず、街行く男性方の視線を独り占め状態だね。
どうもファーランは露出の高い服で、男心を転がす事が好きなようだ。まぁ、見た目は滅多にみない美しいおねぇさんだから、違和感ないんだけど。
「それにしても、なんでこの世界は、行くところ行くところ建築様式が全く違うだけじゃなくて、あっちと似通ってるんだろうね?」
「そりゃ、向こうの人が時々紛れ込むからね。地球の技術が広まるっていうのは、ここの建築技術があまり進まないからよ。ほら、魔王のおかげで資源がなくなるわ、家は壊されるわ、技術者が殺されるわで、中々文明が進まないのよ」
「そのわりには、ほら、アレとか、彫刻技術が進んでない?さっと建てちゃうならこんな風に飾りを優先しなくてもいい気がするんだけど。こういうのって、裕福な人達が財力を見せる為に、飾りたてるものじゃないの?この前のムーリスの街も、建物が結構きれいだったよね」
窓枠の上にほどこされた、木彫りのなんの生き物か分からない、極彩色の彫刻を指さすと、ファーランが目を細めて、木彫りを見る。
「そうねぇ、そこは願いが込められているのよ。この世界に信仰はないけれど、魔除けとか、おまじないはあるの。あの木彫りはスースーっていう、魔物が嫌う生き物なのよ。家が壊されないように、魔物に襲われないように願いをこめているのね。ムーリスの街の幾何学模様もやっぱり魔物が嫌う模様なのよ。まぁ、効果はないと思うけれど、人間じゃこれくらいしか出来ないじゃない?」
勿論、竜族は戦うわよ?とファーランは攻撃的な笑みを浮かべる。
「まぁ、故郷がなくなるのは、やはり悲しいからな。生まれ育った家はずっとそこにあって欲しい物だろう」
そう言ったのは、ロッキードさんだ。
なんでロッキードさんが一緒にいるかっていうと、リーが『死ぬ覚悟があるなら、僕に仕えなよ』と言ったからだ。一緒に蓮を探しながら、旅をすることになったんだ。冒険者として一緒に組んでいたパーティは、幼馴染ばかりだったらしく、ロッキードさんの本気の恋を応援してくれたらしい。たぶん、幼馴染はファーランが竜だってことも、男だっていうことも知らない。知らないから、応援してくれたのだ思う。
ロッキードさんは、近い将来ムーリスが無くなる事を知らせなくてもいいから、ファーランについて街を出ると言っておいたほうがいいのだと笑った。
だから、ロッキードさんにしてみれば、自分の街の事を言ったのだと分かっている。だけど、その一言が、胸に突き刺さった。
「レーン、あっちにロームロームの串焼きが売っていたぞ。アイツが牛の味と同じだと言っていた肉だ。食べるか?」
ジークがロッキードさんから私の表情を隠すように、隣に立ってくれて、左斜めを指さす。これは、気を使われているなぁと思う。
新しい街を作ってお詫びしたとはいえ、キリュームを壊した事実は変わらない。
街の人達に、許されているとは思う。それと、自分を許すのかっていうのは別の話なんだろう。
あの、力の暴走をどう受け入れていけばいいのか、まだ、心の中の折り合いがつかない。
あの時、暴走を止めようとしなかったのは、間違いない。それどころか、どうせならと感情を爆発させていたのだから。
「牛?久しぶりに食べたいなぁ。ちょっと買ってくるよ。先に行くね」
なるべく普段通りの声を出し、お店を探しに駆け出す。リー達は後からすぐに来るだろう。
ちょっと気まずくて、少しの間だけだとしても、一人になりたかった。
目の前の道を、左に曲がれば、市場が広がっていた。沢山の露店が並んで、人が行き来している。ロームロームがどんな生き物なのか分からないから、取り合えず牛肉を焼く香りがしないかと香りに集中しながら、串焼きのお店を探してみる。
しばらく進んだところで、魔法で串焼きをあぶっている人を見つけた。
火の精霊を肩に座らせて、自分の手のひらから、炎を吹きだしながら、お肉をあぶっている。
精霊使いは貴重だって聞いたんだけど、なんで冒険者じゃなくて、屋台を経営してるんだろう。
近づいていくと、人型の火の精霊が目を真ん丸にして、私を凝視している。子供姿だから、とても可愛い。
「こんにちは。五本下さい」
精霊に微笑みかけながら、注文すると、精霊使いの出す火が勢いよく燃え上がってしまった。
「うわぁ。ヒーフォイどうしたんだよ。材料を無駄にしたら勿体ないだろう?すいませんお客さん、びっくりしたでしょう?今、こっちの肉を温めますからちょっとお待ちください。五本で銅貨二枚と半銅貨一枚ね」
屋台には似つかわしくない、色白のいかにも文学少年という風情の少年だ。前髪が長くて顔は良く見えないけれど、雰囲気が人懐こくて、口元に浮かべる笑みが良い印象だった。
「僕のヒーフォイは、滅多に失敗しないんですよ。お客さんが美人だからびっくりしちゃったみたい」
それはない、ただ単に、一目で精霊王の妃だと分かっただけだ。それで思わず失敗しちゃったなんで可愛いじゃないか、火の精霊。
わたわたと、落ち着かなげに少年の肩上でぐるぐる回る姿が可愛らしい。
くすりと笑うと、お肉をあぶっていた少年が不思議そうに私を見た。
「お客さん、ヒーフォイが見えるの?精霊使いの気配はしないけれど、まだ、契約が決まってないだけ?」
「えぇ、そんな感じです。はい、おつりはいりませんから」
私のせいで一本無駄にさせてしまったので、銅貨三枚を渡して、紙に包んでくれた串焼き五本を受け取った。そうして、こっそりヒーフォイと呼ばれた精霊に手を振って、そのお店を後にした。
さてと、リー達もいるはずなんだけど。
先ほどより、人が増えているのか、けっこう混雑してきている。あまり先が見通せなくなっていた。
ジークも、ロッキードさんも、背が高いからすぐに見つかるだろうけどね。
思った通り、すぐにジークを見つけた。ジークはキョロキョロと辺りを見渡して私を探しているみたいだ。気づかないみたいだから、私から近づいて後ろ姿に声をかけた。ジーク一人だ。リー達はどこ行ったんだろう。
「ジーク、お待たせ。はい、ジークも食べるでしょ?リー達はどこ?見たいお店でもあったのかな?」
そう言いながら、串を一本差し出した。
「はぁ?俺は……………………」
振り向いたジークが私の顔を見て、フリーズした。なにを驚いているのか分からないけれど、なにか信じられないものを見たみたいだ。差し出した串も受け取らないので、仕方ないからその串を自分の口に運んで、ジークの復活を待つことにした。
本当にジークって、たまに意味が分からない反応示すからね。
でもロボットじゃないんだから、フリーズする癖はさっさと直してほしいよ。
お腹がすいていた訳じゃないけど、懐かしい牛の焼く匂いが、食欲を誘った。
一口食べれば、ジュワッと肉汁が広がる。シンプルな塩と胡椒だけの味付けが、肉のうまみを引き立てていた。しかも、これが屋台のお肉だなんて、信じられないほどに柔らかく、すぐに口の中で溶けてしまう。これって、最高級肉の美味しさだよ。
「おぉっ!ロームローム、美味しいっ!!やだ、これ、半銅貨一枚とか、冗談じゃないの?安く売りすぎだよっ!!あぁ、もう一個買ってこようかな?肉がとろけるよっ!!感動!なにこれ、美味しい。やっぱりもう一本っ!」
あっという間に、お肉はお腹の中におさまってしまった。手元にあと四本あるけど、これは、みんなの分だし……………………。
これはみんなの分として確保して、とりあえずもう一本いや、二本、食べれるかも。よし、後二本、買ってこよう。
まだ、思考停止しているらしい、ジークを見上げて、顔をのぞきこんでみる。
「ジーク?聞こえてる?これ、もう一回買ってくるから、ここでちょっと待っててね?ほら、手を出してよ。これリー達に渡しておいて。温かいうちに食べなきゃ勿体ないよ」
動かないジークの手に無理矢理紙袋を押し付けて持たせる。
くるりと、方向転換した所で、頭を上から掴まれた。
「ったぁ。ジーク、力入れすぎ。痛いよ。なによ、もぉ。わけわかんない」
ギリギリと、力を入れらているから、文句を言うと、恐ろしく低い怒声が響き渡った。
「わけわかんないのは俺だっ!てめぇっ、なんだこの頭はっ?とうとう頭が可笑しくなったか?あぁ?一瞬誰かと思っただろうがっ。なにのんびり肉食べてやがんだよっ!!」
なにを言ってるんだ。お肉食べるか?って聞いたの自分じゃん。
お肉のお店を後回しにして、振り返ると鬼の形相のジークが私を睨んでいる。そして……………………その後ろに武装した兵隊さんらしき人が、槍を持って走ってきていた。
「ジークハルト・アルダイト。貴様を誘拐の罪で拘束するっ!」
何かを言う間もなく、両側から首の下に槍を差し出され、動きを止められたと思ったら、引き倒され、首筋に痛みを感じ、お肉が落ちて土にまみれる所が見えた。同時にスゥと意識が遠くなっていく。
ジークっ!あんた、私の護衛するって誓ったじゃんっ!
魔王相手に戦ったくせに、なにあっさりヤラれて拘束されてるのよっ!!
という私の叫びは、当然、口から発せられることはなかった。
この兵隊、あとで覚えてろよっ!食べ物の恨みは、忘れないんだからなっ!!
あぁ、私のお肉っ!!




