鳥籠
ひとしきり、絶望と言う名の罵りを叫んだ後に、ロッキードさんは突然立ち直った。
「だがしか――――しっ!!我が愛に一点の曇りな――――し!!ファーランに捧げる我が愛の前には性別などないも等しいっ!」
両手のこぶしを振り上げて、ロッキードさんが雄叫びをあげる。
すごい、ハートが鋼鉄製だよ。暑苦しいのきたなぁ。
「アタシ、ちやほやされるのは大好きだし、人間も大好きだけど、恋愛対象じゃないわよ?」
「あぁ、ファーラン種族なぞ、関係ないといっただろう?」
「アタシには関係ありありよ。とにかく貴方の気持ちには答えられないって、最初から言っているわよね?」
「勿論、わかっているさ、ハニー。例え返されなくとも俺の愛はすべて君のものだ」
うわぁ、なにがそうさせたんだ。知り合ってぜんぜん時間がたってないのに。
「あのねぇ、まぁ、ここで言っても仕方ないわね。この話はまた後でにしましょう」
ファーランがそう言うと、ロッキードさんは、満面の笑顔で頷く。そして、小さく『ファーランなら男でもあり』と呟いている。男でもありなら、竜でもありとなるのかな。
ファーランは前世が人間だから、人間の感覚に近そうだけど、やっぱり恋愛対象は竜なのかと私が驚いた。
ジークがファーランとロッキードさんの間に挟まれて、居心地が悪そうに、リーを抱え直している。そんなやり取りをしている内に、列が進み、建物の中に人混みに押されながら入っていく。お城の中の通路はわりと広くて、横幅は人が八人くらい余裕で通れそうなくらいある。今は、大勢の人がなだれ込むように通路に入っているから、八人どころかその倍は横一列に並んでいるような気もするけれど。
そして、息がつまりそうになりながら進んだ先に、ソレはあった。
ドーム型の広間らしきところに出た途端に、時折聞こえていた泣き声が、いきなり大音量になった。咄嗟に耳をふさいでも、音量は小さくならない。直接頭に響いているんだ。
周りの人達は、なにも感じないのか、顔を輝かせて、上を仰ぎ見ている。口ぐちに何かを呟きながら、上を見たまま部屋を横断して、出口にむかっているようだ。
この部屋が謁見の間というヤツなんだろうかと、皆が仰ぎ見る天井を見た。
繊細な細工が施され、優美な曲線を重ねるような、釣鐘型の『鳥籠』が天井から吊るされている。
その『鳥籠』の中で、幼子の姿をした四人の精霊が泣き叫んでいた。感情が高ぶると光を発するのか、それぞれ青、赤、黄色、緑と点滅するように体を発光させている。
こちらが見えていなのか、下の人間たちを気にする様子もないし、精霊王のリーを感じるような気配もない。
まさかと思っていたけれど、本当に精霊が捕まっている事実に、リーを見上げると、不思議そうに天井を見ていた。その表情に怒りはない。
「リー?」
おそるおそる名前を呼ぶと、怪訝そうな表情で私に問いかけた。
「香蓮はなにか見える?皆は、なにを見ているの?」
頭を殴られたような衝撃だった。見えてないんだ。リーには、この『鳥籠』自体が見えていないし、この魂を持っていかれそうなほどの叫びが聞こえいていないのだ。
「籠が吊るされているだけだな。光ると言えばほんのり光っているようにも見えるが……………………。俺にはただの籠に見える」
と、ジーク。
「アタシにも何も見えないわ。籠?ただの天井だけしかないわよね?」
「なにを言っているんだ。ハニー。よく見てるといい。神々しく輝いているじゃないか。グールド様方がいらっしゃる証拠だよ」
ファーランの声も、ロッキードさんの声もどんどん遠くなっていく。泣き声が大きくなり、助けてと、人間が憎いと、許さないと、頭に直接鳴り響く。
茫然と『鳥籠』を見上げながら、見ている光景が信じられなくて声がでた。
「嘘でしょ」
途端に、ピタリと泣き声がやんだ。そして、四人の視線が私に集まる。
「おきさきさま?」
呟くその声が、やけにクリアに聞こえて、次の瞬間、光が爆発した。
その光の強さは皆に伝わったのか、皆が一瞬足を止めてざわめいた。
「グールド様方が祝福して下さっている」と感極まって、人々が『鳥籠』に向けて両手をつきだしはじめ、涙する人までいる。
この光は決してそんないいものではないのに。
「お妃様!!助けて下さい!!王にお知らせください!!逃げて下さい!!ここは危ないのです!!お妃様!!逃げて、逃げて、逃げて!」
支離滅裂だ。助けて下さいと言いながら、逃げて下さいとは。今はもう、逃げて下さい、しか言ってくれなくなってしまう。四人とも、必死の形相で私を見ていた。とにかく逃げろと訴えてきている。
「逃げろと言っても、貴方達を置いていけないよ。泣いてたじゃない」
「あぁ、お妃様、私達の願いを聞いて下さったんですね。でも、いけません、この鳥籠は危険なのです。今すぐ逃げて下さい。この鳥籠の真下に来てはいけません。精霊は吸い込まれてしまうのです」
なんて危険なものをっ!
考えるよりも早く、自分がいる場所を確認する。あと少しで『鳥籠』の下に入ってしまう。
あの下に入ってしまったら、リーや、精霊の長達が鳥籠の中に吸い込まれてしまうということだ。
ファーランだって、精霊の血が流れている、『鳥籠』の下に行ったらどうなるか分からなかった。
咄嗟に、トッキーを呼んだ。
「トッキー、今すぐ空間を開けて、私達を宿へ!!」
もう、鳥籠は目の前に迫っている。リーも長もいなくなってしまったら、私に出来る事などなにもなくなってしまう。どうして、閉じ込められているのか、その『鳥籠』はいったいなんなのか、確かめたい事は沢山あるけれど、とりあえず逃げるしかない。
「ごめんね、ごめんね。後でまた、助けにくるから待っていてね。本当にごめんね」
上を見上げて、呟く。小さな声でも、届くのか、籠の中から、八つの瞳が私を見た。
音もなく、足元の空間が開き、トッキーの力を感じた。さすが、トッキー仕事が早い。吸い込まれるように、私達の体が床へと消えている。戸惑っていたリーの表情が怒りに変わった。
「香蓮、どういうこと?精霊がいるんだね?なぜ、空間を開いた?」
凍るような冷たい声だったけれど、説明している暇もない。
「とりあえず、今は宿へ。すぐに説明するから」
「お?おぉぉぉ?なんだ?体が沈むぞ?!」
あれ?ロッキードさんも沈んでる。いつの間にか仲間認定されていたんだね。なんて思っている場合じゃない。
トッキーの空間が閉じる瞬間、『鳥籠』の中から、身を切り裂くような声が上がった。
「きっと、きっと精霊王様にお伝え下さい。『勇者』がこの檻を作ったのだと!!精霊は触れもできず、見えもしないのだと!!」
耳をふさいで、聞かなかったことにしたかった。
『勇者』それは、蓮のことに他ならない。
なんてことだ。あの蓮がこんなものを作るなんて。
もう、精霊は私にとってすごく身近な存在で大切な仲間だ。
その、精霊を閉じ込めるようなものを作った相手を許せるのか。
あの、心優しい、可愛い蓮が、そんなものを作ったなどと信じたくはなかった。




