四色に輝く籠
ファーランとロッキードさんが持って帰って来た情報は、今夜からサードリュイ祭が始まるというものだった。年に二回変わり月であるファータルの十二日に行われるそうで、丁度今日が十二日だったわけだ。一カ月が三十二日で、曜日が月、火、水、木、光、土、時、闇というんだ。これは、暦の数え方が違うから、翻訳されなくて、覚えざるを得なかった。一週間が精霊にちなんで八日なんだよね。それに、季節が二つしかなくて、ミスリームが冬、デューセンが夏、これが五カ月に分かれていて、ミスリーム一ノ月って言い方で月が替わる。ミスリームからデューセルに変わるのに間にファータルデューという月があって、これが四週間じゃなくて三週間の二十四日、デューセルとミスリームに変わる月の間はファータルミスでやっぱり三週間。これが一年だから、一年が地球より三日多い三百六十八日で日付と曜日が毎月完全に一致していることになる。だから、本当は曜日っていうよりも、属性の日らしい。契約している精霊の属性の曜日だと力が強くなるんだって。
暦のことを考えているうちに、ロッキードさんが嬉しそうに説明を始めた。
「ここのサードリュイ祭は変わっていて面白いぞ。グールド様方をお鎮めする祭りなんだ。皆で、木の実の器に浄化の炎と酒を乗せて水路に流して、結界の維持を願うんだ。そのあとは城で酒と食べ物が振る舞われるから、一晩中馬鹿騒ぎできる。普段食べれねぇようなご馳走がずらりと並んでよ、酒も上等なものばかりだ。よそからきてようが、この国に住んでようが関係ねぇから、ファーランを誘ったんだ」
ロッキードさんは目を細めて隣に立つファーランを見る。とても愛おしそうに……………………まさか、まだ言ってないのか男だって。
「レーン、お洒落していきましょうよ。この国の神様を拝見することが出来るんですって」
神様?この世界には神様なんていないってジークが言ってたのに。「グールド様方」というのかが引っかかった。
「グールド様方」に興味はあるけれど、顔色が悪いリーが気になる。ロッキードさんが入って来て、素早く子供の姿になったリーの顔色が、さっきよりも更に白くなっている。心配で、膝の上のリーの頭をそっと撫でる。
「私はいいよ。ファーラン、ロッキードさんと楽しんでおいでよ。リーが具合悪そうだから、宿でゆっくりしたいの」
「あらぁ。レーンが行かないなら私も行かないわよ。ロッキードさん、ごめんなさいね、お祭りは行かないことにするわ」
さらりと断ったと思ったら、ロッキードさんが芝居がかった大きな動作で悲嘆にくれた。もう、劇団でもなんでも入ればいいと思う。
「そんなっ!!あぁ!ハニー、どうかそんな冷たいことを言わないでおくれ!君がいなければ、浄化の炎の美しさも、ご馳走も美酒も、すべて味気ないものになってしまう」
さっとファーランの腰を抱いて、瞳を覗き込むロッキードさん。どこからどう見てもただのラブラブカップルだ。ファーラン、男にはそういう意味で興味はないって言ってたけど、いい雰囲気じゃないか。ちょっとロッキードさんが鬱陶しいけど。
「ロッキードさん、そんなことより、お聞きしたい事があるのだけど、グルード様方ってどんな方なの?」
そっとロッキードさんの頬に片手をあてて、妖艶にほほ笑むファーランに、魔性の称号をプレゼントしよう。色気ただ漏れですよ、ファーランさん。そんな事とかデートの誘いの事を言ってるのにロッキードさん気づいてない。ファーランの色気にヤられてるのかっ!
「グルード様方を知らないのか?他の街にもいらっしゃるだろう?この街を守って下さる方々だよ」
でれっと鼻の下を伸ばしてる姿はちょっと情けない。けれど、話している内容が洒落にならなかった。
ジークがハッとしたように、ロッキードさんを見て、ファーランと目配せをする。小さく頷いたファーランは、唇を引上げて、ロッキードさんにしなだれかかった。
「聞いた事はないわね。具体的に教えて貰えるかしら?」
「あぁいいともハニー。今夜一緒に城に行けば、グルード様方の住まわれている籠を見る事が出来るんだ。一年に二度しか見る事ができないから、ハニーは運がいい。よっぽど徳が高くないとお姿は拝見できないのだが、四色に光る籠だけでも見る価値がある」
テースームイの話と、同じ事が起こっているのだとしたら、その籠の中に精霊が閉じ込められているはずだ。
「何色に光るの?」
「青と緑と黄色、それから濃淡のある白だな。どの色もこう、薄い色からドンドン濃くなっていくんだ。どんな宝石よりも神秘的で美しいんだ。あぁっ!勿論、ファーランのほうが何倍も美しいぞ!」
ロッキードさんも大概だな。どんだけファーランのこと好きなんだよ。ロッキードさんが言っている色を精霊の色に当てはめると、水、緑、土、風だ。イヤな予感しかしない。
「香蓮、僕は大丈夫だから、行ってみようよ。僕、見てみたいよ」
リーから、ほんのりとダークな雰囲気が漂っているのは、気づかないふりだ。
人間、気づかない鈍感さも必要ははずだよ、きっと。
やっぱり精霊が閉じ込められているのかな。
その時、ゆらりとロッキードさんの大きな体が揺らぐ。
あっと思う間もなく、崩れるようにロッキードさんが床に倒れこむ。精霊の力が働いたのかふわりと少し浮いてから静かに床に横になっていた。いきなりどうしたっていうんだよ。
「邪魔だから、ちょっとね」
驚いて、ロッキードさんを見る私に、ファーランがウィンクする。ファーランの仕業だったのか。ちょっとねって一体何をしたんだろ。
「この世界に神様を信仰する風習はないの。それは断言できるわ。そのグルード様方って怪しすぎるわよ。どっかから、勇者みたいに召喚してきたとか言わないわよね?」
「その線もありか、だけど十中八九籠の中に閉じ込められているのは、精霊達だろうな」
「まさかっ! 精霊を閉じ込めるなんて、ありえないわ。それだったら、セシルリール様に分からないはずがないじゃないの」
さっき居なかったファーランの為に、ジークがテースームイの御伽話を聞かせる。
みるみるファーランが青ざめて、両腕を抱えながらブルリと震えた。
「なんて馬鹿な事を……………………。もし、本当に精霊だとしたら…………」
「とっても素敵な事になるだろうね」
愉快そうに言うのはリーだ。手のひらに大きな光の玉を作って転がしている。どんな素敵な事が起こるのか、考えたくはない。
「それで?煌主は香蓮に用事があるんじゃなかったの?」
リーの周りを飛んでいた煌主がピタリと止まった。
「そうでしたぁ。レーン様、青龍が暴れそうなんですよぅ」
可愛らしい天使のような煌主の言葉はちっとも可愛くなく、むしろ物騒な言葉だった。
さくっと、この街大洪水ですかねぇとか言わないで、お願いだからっ!




