幼馴染が美形に育ってました
ペチペチと頬を叩かれている気がする。
いや叩かれてる。
あれ、私なんで寝てるんだ?
あっ!!変質者っ!!
カッと目を見開いて、飛び起きれば見慣れた自分のベットの上だった。
「おっ?目が覚めた?香蓮、なんか着替えない?おっきめのジャージとか」
見知らぬ男が立っている。しかも、腰にタオルを巻いているだけの状態で。
今、お風呂から上がったぞバリの濡れた髪をオールバックにして、滅多にお目にかかれないような美形の男が寝ている私を覗き込むようにして立っていた。
「きゃ・・・・・」
「きゃ?」
男はひょこんと首をかしげた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁむぐぐぐぐぐ」
咄嗟に出た悲鳴を慌てた男に口を塞がれて抑えられてしまう。
なんで?なんで、私の部屋に腰にタオルを巻いただけの男がいるんだよっ!!!
てか離せっ!!私は暴れた。そりゃぁもう、死にもの狂いで暴れた。口を塞がれる事がありえなければ、裸の男に押さえつけられるのもあり得ないっ!!貞操の危機だし、命の危機かもしれないじゃん!
なにか男が言っている気もするけれど、知るもんかっ!
「ちっ」
男の舌打ちする音だけは、やけによく聞こえた。次の瞬間先ほどのように、体が動かなくなる。
なにこれ?金縛り?!また?
「ん~ん~っ!!」
離せと言いたいけれど、口はまだ塞がれている。
「とにかく一度落ち着けよ」
呆れたように呟かれた声は、先ほど聞いた気がする。あの蓮だと名乗った男の声のような・・・・。
「僕だって、蓮だよ。まさかそれ付けてて僕の事を憶えてないとか言わないだろ?」
口を塞いでないほうの手でネックレスを指差す。憶えてないとは言わないけれど、目の前の男が蓮だと信じられない。
「いいか、手を離すから大きな声を出すなよ?今何時だと思ってるんだよ、近所迷惑考えろよ」
いや、お前にだけは言われたくない。なに人のうちに勝手に上がりこんでるんだよ。
それでも、塞がれた口を放して欲しくて、必死でうなづいた。
それを見て、大きな手が離れていく。私が本当に大声を出さないのかと疑っているように、その動作はゆっくりだった。
大きな声は出さないけれど、確かめなきゃならないことはある。
「ちょっと、なんで勝手に人の家に上がり込んで、挙句に風呂まで使ってるのよ。てか、あんたみたいのが蓮の訳ないでしょ!!蓮はそりゃぁもう、可愛くて可愛くて可愛くて、花も恥じらう乙女のような美少年なんだからっ!!あんたみたいに・・・・・・・」
それ以上言葉が続かなかった。この男が嬉しそうに笑ったっていうのもあるけれど、体中に酷い傷跡があることに気づいてしまったんだ。それも火傷のような痕から刃物で傷付られたようなものまで。古いものからまだ肉が盛り上がっているような新しいものまで、数え切れない程沢山ある。私が言葉に詰まってしまうくらには衝撃的な光景だった。
目を見開いて口を閉ざしてしまった私に気づいて、男は自分の体に視線を落とした。
「あぁ、これ?今は気にしなくていいよ。香蓮が気を失うからいけないんだよ。鞄に鍵が付いてたから開けて入ったんだ。お風呂は勝手に使っちゃ悪いと思って、一応声はかけたんだけど香蓮が全く起きなかったんだ。それに流石に一ヶ月近く風呂に入ってなかったから我慢の限界だったし。そうだ、香蓮のくせに男いるのかよ?一人暮らしっぽいのに男のひげ剃りがあったぞ?まぁ、それも使っちゃったけど。僕がいない間に男作るなんて酷いよ。ちゃんと聖司の許可もらってんだろうね?いや、許可もらってなくても、もう別れるんだし、まぁいいか。僕も色々あって帰って来れなかったし、そうだ、ねぇ香蓮、今って何年?香蓮大人っぽくなったけど今何歳?」
つらつらと後から後から出てくる言葉は、話し方が私の知ってる蓮そっくりでしかも聖司の名前まで出てきてしまった。この、怒涛のしゃべりも蓮そっくりなんだけど。最後になんだか聞き捨てならない事を言ってた気もするけど、今はスルーしておこう。
「ちょっと、まだ私あんたの事を蓮だって認めてないんだけど」
止まらないお喋りを止める為にそう言うと、濡れた髪を掻き上げながらニヤリと男が笑らう。
「僕が、蓮だって証拠が欲しいの?まぁ、随分俺の外見変わったしね。じゃぁ、手短に。香蓮の右の足首にある火傷は10歳の時に聖司のバカが花火を振り回した挙げ句に香蓮の足首に落としたのが原因。大した事はなかったけど、薄く痕が残ってるだろ?それから、香蓮が小学校4年の時にはスカートを巻き込んで前回りする鉄棒が流行ってお前加減を知らないから、スカートビリビリに破いて、泣きながらパンツ見えないようにって破れたとこ俺と聖司にガードさせて帰ったとか、あぁ、あと1年の時に、腹下して登校途中に・・・・・・・・」
「うわぁぁぁぁぁっ!!!黒歴史っ!!!あんたソレ記憶の彼方に放り捨てて、すっかりきっぱり忘れろって言ったじゃない!!だいたいあのお腹壊したのだって、蓮が可愛く初めて作ったから食べてって持ってきたホットケーキが原因じゃん!!生焼けだったのを残したら悪いと頑張って食べた私の努力に感謝して今すぐ忘れろっ!!!」
その、黒歴史は蓮しか知らない。あの日は聖司が風を引いて休みだったから蓮と私で登校したから。あぁ親は知ってる。だけど親が人に話すとは思えないんだけど。話してたらもう私お嫁にいけない。
「そうそう、あのホットケーキ殺人的な代物だったよねぇ?家に帰ったら父さんも寝込んでたからなぁ」
蓮か、蓮なのか。
キシリと音がしてベットが沈む。立っているのに疲れたのか蓮がベットに腰を下ろしたからだ。
「ねぇ、そいえばこの体が金縛りにあってるのは、あんたのせい?」
「あぁ、そうそう忘れてた。今解くよ。もう僕だって信じてくれたでしょ?」
フッと体が暖かくなったような気がして、強張っていた体の力が抜ける。ワシワシと手を動かせばキチンと動く。さっきからいくら動かそうとしても動くのは口だけだったのに。
それでも妙な圧迫感がなくなってホッとした。
「なに?これ?どうやったの?」
「う~ん。そうだねぇ。その話はおいおい。ね?」
おいおいね、じゃねぇ!!
そのままの勢いで蓮の頭をぶん殴った。勿論グーで。
いきなりだったのでまさかパンチが来ると思ってなかったらしく、蓮はそのま前のめりになって頭を抱える。私のこの十年間はこんな痛さじゃ済まない。蓮を探して半狂乱で泣きわめいた私は危うく病院に連れて行かれるところだったんだから。
「生きてるなら、連絡ぐらいしろっ!アンタが目の前で消えてアタシがドンだけ心配したと思ってんのよ!!挙句にみんなに蓮なんて知らないって言われて、私の頭が可笑しくなったのかと思ってたのに!今まで何処に居たの?!」
もうこの大男が蓮なのは間違いないと思った。口元が上がったときに右だけ出来るエクボや喋り方がとても蓮に似ている。何しろ私の黒歴史をしっかり覚えてる辺りがね。
「いってぇなぁもう。俺だって連絡したかったし、それどころか帰って来たかったに決まってるだろ。どうしようもなかったんだよ。帰り方を見つけるまで6年もかかったんだ」
「6年?10年だよ?なに言ってるの?」
「10年たってるのか?じゃぁ、香蓮は今24歳?」
何を当たり前の事を確認するのよ。
「当たり前でしょ?蓮だって24歳でしょうが」
チラリと私を見ると蓮はまだ私が殴った所を擦りながら首を横にふった。
か弱い私の力で殴ったんだからそんなに痛い訳がないのに、大袈裟なんだから。
「そうか、時間軸まで違うのか。あの野郎ふざけやがって」
ボソリとなんだか突っ込んではいけないような言葉を呟く。額にはくっきりと皺が寄せられ、何だか黒いオーラがでてますけど?
うん、ここは詳しい事情は聞かない方が私の精神安定上とても良い気がする。よし、ここも無視しよう。
「さっきから俺っていったり僕って言ったり気持ち悪いんだけど?どっちかに統一してくれない?」
そっちも気になっていたからそういうと、蓮はハシッと口元を押さえて眉を下げる。そんな捨てられた子犬みたいな目でみるのやめてよ。
「いや、もういい年だし、普段は俺を使ってるんだけど香蓮の前だとつい昔の喋り方に戻っちゃうんだよ」
カァァァと赤くなる、大男。でも美形。
改めて見ると、所々に蓮の面影が見えるけれど・・・・・・・・。
かなりの美青年に育ってるんですけど。なにこれ美味しすぎ?!
もじゃもじゃのヒゲと髪の毛のしたから現れたのは、昔と変わらない大きな二重の瞳とスッキリとした鼻梁。ちょっと薄いめの唇。日に焼けたのか、真っ白だった肌は浅黒くなっている。そして、なによりこの鍛え抜かれてますって体!!マッチョで筋肉隆々なのに太くない。
触りたいぞこれは!!触らないけどね!
さっきベソベソ泣いたのはマイナスだけど、補ってあまりあるこの体は眼福です。
いやぁ、よくもまぁこんだけ鍛えたわ。昔の蓮からは考えられないよ。完全なるインドアだったからね。
「ちょっと、香蓮あんまりじろじろ見るなよ。いくら俺でも恥ずかしいから、服貸してくれって」
あぁ、そうだったさっきそんな事言ってたね。
ベットから起き上がろうと体を前に倒した丁度その時、なんの前触れもなくガチャりと玄関のドアが開いた。
私のマンションは単身者用の1DKだ。玄関開ければソコから部屋の奥まで見渡せる。そう、見渡せるんだよ。
「香蓮?」
聞きなれた声が耳を打つ。
この言い訳もしようにもなんの説得力もない状況に、いったい私はどうすればいいんだよ!
私は無実だ!!!助けて神様!!
読んで頂きありがとうございます。