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幼馴染と彼と私

「ははっ、なんだ。そういう事か、丁度良かった」


あまりの事に固まる私に彼はそう言った。丁度良かったってなにが?


ベッドの上で寄り添うように見えるだろう私と裸の蓮。それを見て、怒るでもなく悲しむでもなく、晴々とした顔で彼が持っていた私の家の鍵を自分の顔の前で揺らすとコトンと音を立ててシューズボックスの上に置く。


「俺、今日はこれを返しに来たんだよ。結婚が決まったんだ。だから良かった。お互い様だよな?」


頭をかきながらいう彼の言葉がすんなりと頭に入って来ない。私はこの人になにを言われているのだろう。思考能力がドンドン落ちていって、何か言わなきゃ、誤解だと言わなきゃと焦るけれどまるで喉に何かが張り付いたかのように声が出なかった。その間に彼は邪魔して悪かったなとくるりと背を向け玄関のノブに手をかけていた。


「ま、ま、待って!!誤解!誤解だから!!これは違うよ!そんなんじゃない!」


連絡をしなかったのは大きなプロジェクトに関わらせてもらえて、連日帰宅が夜中だったからなのに。

昼間も会議や書類作成、外回りとちょっとメールを打つようなタイミングもなかった。本当に忙しくて連絡すら出来なくて…………いや、確かに存在は薄くなってたけど、だからって嫌いとか別れたいとかそんな事じゃないのに。


引きとめようとベットを降りようとした途端に後ろから蓮に抱き止められてしまった。

私の声で振り向いた彼が、うっすらと笑う。見た事がない、あからさまに私を馬鹿にした笑いだった。


「誤解?誤解でもいいよ。どうせもう別れるつもりだったんだ。裸の男とベットの上でよく誤解だなんて図々しい事が言えるよ。まぁ?どうせお前とは条件のいい結婚相手と会うまでのつなぎだったんだ。お前の事なんてたいして好きでもなかったんだから、言い訳?なんてする必要もないよ。これで縁が切れると思えば清々するしな。ちょっとお前の愛情重たすぎだし?お前と合うのって体の相性ぐらいだったしな。じゃぁな、その男に捨てられないようせいぜい頑張れよ」


今度こそ出ていこうとする彼を追おうと思っても蓮が放してくれない。


待って、納得なんて出来ないよ。結婚相手が決まったってなに?どうしてそういう話になるの?二人に子供ができたらとか、結婚したらとかそんな話いっぱいしてたのに??この間会った時には全然普通だったじゃない。


混乱していても、次から次へと思いが駆け巡っていくのに、何一つ声が出せない。

つなぎ?愛情が重い?体の相性だけ?

私って恋人でもなかったって事?


「へぇ香蓮、男見る目ないなぁ。こんなののどこが良かったわけ?こいつクズじゃん?」


今まで黙っていた蓮がのんびりと言った。


「それに、あんたも女見る目がないね。香蓮ってばこんなに可愛くて可愛くていい女なのに」


「お前にクズ呼ばわりされる謂れはない。俺を誰だと思ってる」


彼は大蔵省に務め、期待の星と持ち上げられている、所謂エリートだ。出身大学も官僚を多く排出することでも有名な大学だった。でも、今までこんな風に上からの物言いで見下された事はなかったのに。


「さぁ?初めて会ったんだから知る訳ないでしょ?でも香蓮と別れてないのに他の人と結婚が決まったっていう二股のクズ男だって事はわかるよ」


「二股?お前も香蓮に二股かけられてんだよ。香蓮の本命は俺だろ。まぁ、それももうどうでもいいけどな」


彼は鼻で笑うと今度こそ部屋を出て行ってしまった。もう、彼を追いかけて弁解をしようとか、結婚相手のことを聞こうとか、行動を起こす気力がなかった。私の浮気現場を押さえたと嬉しそうに笑う彼の顔がちらつく。


「香蓮」


相変わらず蓮の腕は私のお腹に回っている。私は蓮の膝の上に座っているような格好だった。

今は話もしたくなくて、力なく首を振る。


結婚するなら彼なんだと思っていた。彼となら穏やかな家庭が築けるのだと。

でも、違ったのか。私は彼の中で結婚相手どころか、恋人ですらなかった。体の相性って私、彼の捌け口だったってこと?


優しい言葉も、甘い言葉も、将来二人が築くはずだった未来の話も全部嘘だったの?


「香蓮、泣かないでよ」


蓮が私の肩に額をあてて腕に力をこめる。その声音は消え入りそうで弱々しい。

そうか、私泣いてるのか。

そういば視界が歪んでるかも。

自覚したん途端に声が漏れた。


「ふぇ。っっ…………。蓮が、蓮が悪いんだ!!」


蓮が勝手に私の部屋入って、お風呂なんか入るから。

本当は結婚するなんて嘘で、私が浮気をしたのだと勘違いしてあんな事いったのかもしれない。

蓮がいなかったら、普通に久しぶりに会った恋人同士、仲良く過ごせる時間だったのかもしれない。


頭のどこかでそれはないだろうと思いながらも、蓮を責めた。


行方不明になって、久しぶりに帰ってきたと思ったら、ロクに話もしないうちから一体なんなんだ。

完全に八つ当たりだった。体を離そうとしても、蓮の腕はピクリとも動かない。放して欲しくて何度も腕を叩いたのに、蓮は何も言わずに私の肩に顔を埋めるだけだった。


しばらく言いたい事をいって、八つ当たりして、流石に言葉が尽きてもう、離れる事も諦めて蓮の胸に背中を預けた。泣き疲れちゃったよ。沢山泣いているのに、まだ涙は止まりそうにもないんだけど。


「香蓮、元気出してよ。ほら」


耳元で蓮の優しい響きの声がする。どんなに抵抗しても離れなかった腕が離れた。なんとなく、その左手を目で追っていると、急に部屋が薄暗くなったように感じる。


ポゥと蓮の人差指が光ったと思うと、蓮はゆっくりと光った指でなにかを空中に書いていく。

目の前で繰り広げられる幻想的な光景に、目を奪われていると映画でみたような魔法陣のようなものが空中に描き出され、淡い紫色に瞬いたと思ったらパァンと光が弾け、部屋中に極彩色の光が溢れる。

瞬きも出来ずにいると、光は蝶になって部屋を飛び回ったり、小さい花火の様に光の模様を描いたりと、小さい頃絵本を読んで想像したような光景が次から次へと繰り出された。花や虹や、鳥、幻想的なユニコーンまで飛び出して私にまとわりついては消えていく。


あまりに美しくて、でも儚く消えていく様に何も言葉が出ずに、最後の光の渦が消えるまでただ見蕩れていた。


「なに?これ……………」


呆然と明るさを取り戻したいつもの私の部屋を見渡した。

さっきまでの光の洪水は消えてしまい、あるのは見慣れたものばかりだ。


チュと耳にキスを落とされ、驚いて体をひねり蓮を見るとうっすらと笑っている。だけど、今の不思議なものを作り出したのは蓮だよね?そう思うと得体のしれない人間を見ているような気持ちになる。


なにをどう、聞こうかと思いあぐねていると、蓮が私の頬に大きな手をあて、親指で涙を拭う。


「もう、涙は止まったね?あーゆうの、香蓮好きだったでしょ?昔よく、魔法の国の話とかお伽話をよく読んでたもんね」


「やっぱり今のは蓮が?なに?今の?マジック……………じゃないよね?」


「香蓮の大好きな魔法だよ。今日まで異世界って奴に無理矢理呼ばれてたんだ。すげぇよ?俺、勇者になって魔王を倒して帰ってきたんだ。魔法だって使えるようになったんだよ」


満面の笑みでそう言うと、蓮はもう一度左手を振る。また指先からキラキラと光の粒が舞う。


…………勇者って、勇者?!ド○クエで一躍有名になった世界を救うぜってアレ?!


どうしよう!!蓮が厨二病にかかってる!!


フラれたことも、どこか現実感のない事なのに、さらに非現実的なものを目の当たりにして、私に出来ることといったら、蓮の正気を疑うことぐらいだった。

読んで頂きありがとう御座います。

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