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異世界事情のお勉強タイム

 私は今、お城の一室にいる。予想を裏切らずだだっ広い畳の部屋だ。殿様いるよこれ的な部屋だった。掛け軸の代わりに油絵が飾ってあるけど。もうなにも言うまい。


 ジークの説明によれば先程のお店は、ファンタジー小説で良く聞く冒険者ギルドというやつだったらしい。私とリーは身分証がなかったので、ギルドで作らなければいけなかったらしい。これがないと街の行き来ができないんだって。持ってなければ作ってもらわないと、最終的にはこの街を追い出されてしまう事になるそうだ。でも、精霊王だなんだ言われて結局身分証なんか作ってもらえてないけどいいのか?


「で、だ。精霊王がなぜここまで歓迎を受けるか知っているか?」


「知る訳ないじゃん」


「まず大前提で、精霊王が闇に染まり切ると魔族に堕ち魔王になる。だから精霊王と魔王は同時に存在しない。精霊王は世界に実りをもたらし加護する。反対に魔王は全てを破壊しようとする。だから、精霊王が魔王に堕ちたとなれば勇者が選ばれ魔王を倒す事になる。魔王が倒されてやっと次代の精霊王が世界のどこかで誕生するんだ。だが、それでこの世界に加護が貰えるわけではない。精霊王はとにかく気紛れで、基本人間のことはどうでもいいと思っているんだよ。まぁ、種族が違うから当たり前だけどな。でも精霊王は人間の中から妃を選ぶ。后と真名を交わして初めてこの世界に精霊王の加護がもたらされるんだ」


「ふーん。じゃぁ、私と真名を交わしたから、この世界に加護とやらが貰えるようになったって事?」


「そうだ、精霊王の加護があるとないとでは、全くこの世界のありようは違うんだ。気候が安定して天災がなくなる。だから食糧受給率があがるんだ。土の質も良くなるから病気にも強い植物が増える。加護がない年数が長くなるほど飢饉に襲われる。土地は荒れ、天災が増え、人が死に国が乱れる。正直これを聞いてお前に色々と察してほしい」


 珍しく滅茶苦茶話すジークに驚いて、聞き流していた私は何を言われたのか良く分からなかった。


「察して欲しいって?なにを?」


 私がそう言うと、ジークは本当に嫌そうな顔をした。自分の口からは言いたくないって気持ちが手に取るように分かる。少しの間逡巡したジークは、私にへばりついて離れないリーを見てから意を決したように私を見た。


「言いにくいんだが、お前がレーンと同じ国から来たと言う事は分かっている。帰りたいと思っている事も知っている。だが、お前が国に帰るとこの世界の加護が消えてしまう。恐らくこの世界の人間すべてがお前がこの世界から消える事を許さない」


 許さないと言われても、私には私の生活がある。あのバカ女のおかげでこの世界に飛ばされただけだ。ここに永住するつもりはさらさらないんだけどな。


「もう一度お妃様ってのを探せばいいじゃない。本当のお妃さまがいるはずでしょう?私はこの世界の人間じゃないんだから。ちょっとリーが勘違いしてるだけだよ。もの珍しくてうっかり真名ってやつを交換しちゃっただけでしょ?」


「妃の条件はね、8精霊の長に好かれる事。僕たちは人間があまり好きではないんだ。けれど稀にもの凄く惹かれる人間がいる。そういう人間と契約を交わして力を貸したりするんだけどね。この契約は真名はいらないしさ。でも長を惹きつける人間は滅多にいない。いても1属性の精霊の長が精々なんだよ、8つの属性の精霊を全て惹きつけるなんてそれこそ奇跡に近いんだ。香蓮がこの世界に来た瞬間は凄かったんだから。長達が一瞬で呼び寄せられて集まった挙句に僕まで引っ張られたよ。でもそれはあくまで条件ってだけ。いくら8精霊の長が惹かれたって僕が惹かれなきゃ真名は教えない。うっかりなんて教えるもんか。香蓮だからだよ」


 リーが私の肩口に頭を擦り寄せながら言った。成人男性の大きさになっているのに、子供みたいに甘えてくる。こっちはたまったものじゃないけどね。自慢じゃないけど、私は儚げな美形に弱い。理想の塊が私の腰に華奢な腕を回して後ろから抱き込むように座って、甘えて肩に擦り寄っているんだよ。違うことを考えていなくちゃ、理性がどっかに吹っ飛んでいきそうだよ。こんな変な話じゃなきゃ小躍りしてもいいくらいに素敵な状況なのにっ!


「でも私は帰りたいんだよ。リー」


「別に帰ればいいと思うけど?僕もついていくから。でも僕は異世界渡りの方法は知らないよ?知識として知っても多分使えない。ソレは世界の理を乱す魔法のはずだから」


 あっさり帰っていいとリーは言った。


 あれ?リーってこの世界の守護神みたいな存在じゃないの?


 私の予想をはるかに裏切った話の内容に、嬉しくて涙が出そうだ。でも待って、リーは私についてくるから帰っていいっていうけれど、そうするとこの世界に加護はなくなるってことだよね。という事は、この世界の人は私を元の世界に戻すことは許さないんじゃない?


「実は、俺は加護がある状態を知らないんだ。倒した魔王は百五十年間倒す事ができなかった。だから今生きている人間のほとんどは平穏な気候も時代も知らない。けれど、このまま加護が失われたままの状態が続けば今よりもっと酷いことになるのだとは思う。レーンと出会った街からこの街までのあいだに村すらなかっただろう?おかしいと思わなかったか?」


 この世界には冒険者がいる。という事は旅をしている人がそれなりにいるはずだ。私達が歩いてきた道は人の手入れを感じさせる道だった。せめて二日に一つくらい村があって泊まれるように宿があってもおかしくないと思う。だから、うんと頷いた。


「昔はあったんだ。国と国を結ぶ街道が整備されて、一定の距離に宿場を作って早馬を走らせることができるようになっていた。旅人も多かったから宿場には自然と店が寄り集まったし賑わいもあったって聞いてる。だけど、魔王との戦いが始まると魔族が街を襲って宿場もほとんどなくなってしまった。旅に出る人も少なくなって街から離れなくなったしね。今じゃご覧のとおり世界が疲弊している。魔王を倒したって魔族は街を襲うし、食糧難からの飢饉は収まらない。国どころかこの世界はもう限界なんだ。だから、精霊王が妃を連れて姿を見せればあの騒ぎになるんだよ。彼らにとってもう、レーンはこの世界の希望なんだ」


 魔王を倒しても根本的な解決には精霊王の加護が必要ってことか。すごいよこの世界。全てにおいて他人まかせだ。もう、そういうシステムだからと誰も疑問に思ってないのかもしれないけれど、勇者を召喚だなんて言って勝手に呼びつけて魔王を倒させてるでしょう?蓮にこの世界の事情は全く関係ないって分かってるんだろうか。しかもその魔王は元々この世界の加護をしているはずの精霊王でしたって、人にさしても興味もない精霊王が魔に堕ちるってことは人間が精霊王に対してとんでもない事をしている可能性があるんじゃないのだろうか。加護は精霊王の后まかせってことになるし。話を聞いていると別に加護のない状態でも人々は生きていけてるみたいだから、実際加護がなくても良いのではないかと思ってしまうんだけどなぁ。あれ?ジークって今、彼らにとってって言った。じゃぁジーク個人はどんな風に考えているんだろうか。


 今聞いたばかりの情報を頭の中で整理しようとしたら、後ろの襖から声をかけられ、スっと襖が横に滑る。そこに立っていたのは、全身筋肉で覆われているのではないかと疑ってしまうほど筋肉隆々の大男だった。

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