第14話 幸運を拾った
「ネクロマンサー? ブラインさん。それは死霊使いの事でしょうか?」
「そう。あれだと物を操るタイプの敵だ」
「なるほど。それでは魂タイプじゃなくてよかったですね」
「ん。マリアンナ。それを知ってるのか」
「はい。教会の訓練所で、本を読んだことがあります」
それって聖女訓練所の事か。
なるほど。あそこなら資料があるんだな。
ネクロマンサーには、死体を操るタイプと魂を操るタイプの二種があって、双方のタイプもいるが、どちらかに偏るのが基本だ。
マリアンナがぶっ飛ばした敵の男の腕が、いまだに回復しない事から、あれは死体を操るタイプだ。
魂タイプだと、具現化すればいいから、あの腕はすぐに再生する。
「それってどういう事。ボクの魔法は無理?」
アシッドレインを準備していたレインがオレたちのそばに来てくれた。
右手には高密度な魔力が展開されている。発動一歩手前の状態だ。
「いや、効くには効く。でも人間がベースだから」
「そっか。即効性がないんだね」
「そういうこと」
そして厄介なのは。
「本体がどこだ。あれを倒したってな。本体を倒さない限り、オレたちはまだまだ襲われるぞ」
「・・・探せるの?」
「わからない。このダンジョン内のどこに潜めるんだろうか。もっと上位の階層にいるのか?」
マリアンナがジッと敵を見つめていた。
「・・・・・」
何かがあるのかと思って聞く。
「どうした?」
「ブラインさん。皆さん、少し試したい事があります。あれを止められますか?」
「あの死体をか」
「そうです。止めて頂ければ、逆探知が出来るかもしれません」
「わかった。やってみよう」
会話する相手を切り替える。
「ナオ!」
「なんだ」
戦闘に集中したいから、オレの判断よりも彼女の判断の方がいい。
「指揮を任せる。オレも戦いたいから指示を頼む」
「了解。あーしにまかせろ」
指示を任せると彼女は的確に戦いを導く。
「エリオン。あんたが先手だ。動きだけで攪乱してくれ。攻撃はしなくていい」
「了解」
「次にブラタン。相手との殴り合いをしてくれ。タンクの役割だ」
「了解」
「あーしが必中の効果をレインに渡す。そんでレインで足止めをするから、それまで前線二人で耐えてくれ」
「わかった。ボクに任せて」
最後に彼女は。
「ガラタン。クレタン。二人は聖女を守れ。マリアンナを死守だ」
「「はい」」
本当は逆だけど指示を出した。その意味は皆が分かってる。彼らが何も出来ないと嘆かないようにだ。
皆でマリアンナを守る。
その優しい思いが彼女にあるんだ。
「いくぞ。散!」
オレたちは指示通りに、バラバラに敵に向かう。
◇
敵の正面がオレ。敵の背後がエリオン。
彼から行動に出てくれた。
「影縫い」
エリオンが敵の男の影にナイフを刺す。本来はそれで相手の動きを止める技だが。
「敵の影が薄い。これだと効果が弱いな。すまないブライン」
「いや、十分に遅くなった。ありがとうエリオン!」
オレの為に彼は動きを封じてくれた。
遅い動きになっているので、何とかして躱しながら、相手に一撃を入れる。
守り一辺倒だと、いつかは崩れる均衡だ。
オレは時間を稼げればそれでいい。
今の役割はタンクだからな。
「片腕になったのも助かるぞ・・・オレでもいけそうだ」
相手の攻撃は片腕のみ。食らいつく要素は多々ある。
「効果が弱まり始めた。もう一つ入れる。影縫い!」
インターバルを上手く活用して、彼がもう一度動きを封鎖。
オレの疲れる頃合いに合わせてくれているから、上手くタンクの役割が出来る。
「ブラタン。エリオン。下がれ。必中魔法を入れる」
二人の用意が完成。
魔法が発動されるようだ。
「「了解」」
オレは自分のタイミングで離れたのに、二人が同時に離れた。
エリオンがオレに息を合わせてくれている。
彼は、戦場がよく見えているんだ。
「いくよ。ボクとナオの必殺! パルデだ」
必中の水沼。沼に足を滑らせるのではなく、相手の足に沼を嵌めこむ。二人揃うとその効果になる。
「止まれぇえええ」
敵の足が止まれば、あとはオレたちが動く。
「ブライン。俺がきっかけを作る。そこに体重をかけてくれ」
「ん?」
先に動いたのはエリオン。
敵の残りの腕に対して攻撃を仕掛けるよう。高くジャンプして、三本の短刀を持った。
「弱化短刀」
敵の左肩に三本の短刀が入った。
「ブライン。そこに一撃入れてくれ」
「了解」
エリオンが狙って欲しい位置に対して、オレは渾身の一撃を決め込む。
「黄龍麒麟拳。黄龍・龍鯨」
ジャンケンパーで、全開の平手打ち。渾身の一撃を全体重で仕掛ける。
「くらえ。ここだああああ」
三本の短刀周辺にオレの手の平が入った。
彼の弱化短刀の効果は、ステータス低下だ。
たぶん防御力低下を組み込んだ短刀であるはずだ。
オレの一撃でも押し込めばいいだけにしてくれているはず。たとえクリティカル攻撃じゃなくてもいける。
そうだ。彼の狙いはダメージにない。別にあるんだ!
「砕け散れ。その左腕ぇええええ」
狙いは部位破壊だ。
脆くなってるはずの所に、オレの全体重の一撃。
これは攻撃力じゃない。行動力の勝利を目指している。
「いった! 落としたぞ」
敵の左腕を破壊した。根元から腕が落ちた。
「ありがとうございます。これで私が・・・」
マリアンナが敵に近づく。
敵の足が止まり、腕が無くなれば、こうして近づいても、彼女に危険性はない。
敵のお腹にマリアンナが手を伸ばす。
触れた瞬間から、聖女の純白の光が敵を包みこんだ。
「探ります。邪悪な力を感じ取ればいいのです」
逆探知の始まりだ。
ダンジョンに入ってから、今が最も静かだった。彼女が黙り込む。皆も固唾を飲んで待つ。
戦い続けるはずのダンジョン内で静けさが生じる。
「黒い力は、ここじゃありません。階層をあがっています・・・」
本体が上の階層にいるのか。
「見つけました。いました。十三階層です」
「さすがだ。いくぞ。急いでいこう」
「ええ、ではお眠りください。どなたか」
マリアンナは聖なる力を持って、目の前の敵に最後の慈悲を与えた。
その姿は美しい女神のよう。
人形のように膝から崩れ落ちる敵を見てから、マリアンナは深々と一礼して走り出した。
「こっちです。光で印を作りました。これでどこに移動しようと、その人までいけます」
完全追跡が出来たらしい。
相手にマーキングしたんだ。
「凄い・・・そんなことが聖女って出来るのか」
オレも知らない能力。
不思議な事って、まだまだあるもんだ。
◇
全体で移動。
聖女を先頭にするが、彼女は追跡がメイン。
だから、攻撃はエリオンとレインが起点だった。
二人が迫ってくるモンスターを蹴散らしていく。
ナオがオレのそばに来た。
「ブラタン。辿り着いた時にはこっちの二人には疲労感があるかも知れねえ。ブラタンが勝負所になるかもだ」
「かもね。それは思ってた」
「そうか。じゃあ頼むことが多くなるかもな」
「了解」
ここの階層は一年でも上位陣が駆け上がれる階層だ。
いくら二人が一年生を超える実力者でも、そろそろしんどくなるはずだ。
限界が来たら、オレが出るしかない。
あとは聖女とナオの三人で戦うしかない。
十階層の終盤。
聞き覚えのある声に会う。
「お? ブラインだお。何してんのだお。こんな所で」
「え?! こ、ここに居たのか。シャオさん」
「どこいくだお」
「ごめんなさい。時間がないんで」
もう一つ聞いたことがある声が聞こえた。
「ちょっと待て。一年坊が何やってんだ。見学はどうした」
あれは学年主任の声だ。
そうか。適性検査は十階層で行なわれていたのか。
「まさかこれ。この先はボス戦があるんですか?」
思い出した。十階層はボスが出る。
このまま進むと突入してしまうぞ。
「倒したお」
オレの隣にシャオさんが来た。余裕の顔で並走中。
「シャオさんが?」
「うん」
「シャオさん、敵がこの先にいるんです。力を貸してくれませんか」
「いいだお。何の敵?」
「変な敵なんです。正体も不明で。でも職業はネクロマンサーだと思います」
「死霊使いだお?」
「ええ。おそらく」
「了解だお。わっちにまかせんしゃい!」
この人がいるなら。
「レイン。エリオン。二人とも下がってくれ。彼女に先頭を譲って欲しい」
「「了解」」
先頭に立ってくれるのが頼もしいこの背中だ。
「いくだお。黄龍麒麟拳。龍麒!」
黄金の闘気を身に纏い。先頭を駆ける女性は超天才シャオリン・ジンセだ。
「黄龍・龍鷹爪!」
龍麒の欠片を正拳突きに乗せて、遠くにぶっ放す。
黄龍麒麟拳の遠距離技だ。
「ほいほいほいほい」
掛け声は、やたらと軽いけど。
その一撃は重たい一撃。
モンスターのコアを寸分違わず撃ち抜いて何もかもを無効化している。
このレベル帯では彼女を止めるモンスターはいないだろう。
このダンジョンなら、彼女はソロで三十階層突破できる。
怪物だぞ。
こんなところで査定をつける意味がねえんだわ。
学年主任。もっと先で見ないと、彼女は力を発揮してくれないぞ。
でも助かった。この人がここにいたおかげで、運を拾えたぞ。
勝機は見えた。
「待て待て。何を勝手に進んでんだ。一年生はこの先禁止だぞ」
「先生! すみません。今敵が来てます。気になるならついて来てください。オレたちは説明では動きを止められない。足を動かし続けるしかないんです」
「なに。仕方ねえ。俺もいく」
学年主任のオラシオンもついてくることになったのだった。




