第12話 同時ルートだと思われる
少女のような男の子が、短剣でモンスターの群れと戦っていた。
15,6体の甲羅型モンスター『ガンマジロ』
アルマジロみたいな丸い背中の部分が甲羅になっているモンスターだ。
刃が通りにくい事で有名で、これは打撃で破壊するか。魔法で消失させるかの二択のモンスターだ。
刃で倒す場合は、背中の甲羅の隙間から、刃を通して切り殺さないといけない。
「はぁはぁ。面倒な奴だ」
「エリオンさん。やっぱり結界の中に・・・」
「駄目だ。結界に負担が掛かれば、あんたは解除せざるを得なくなる。そしたらいざ結界内で生き残りたい場合にあんたが機能しなくなる」
「で。ですが」
「大丈夫だ。これくらい。俺が斬る」
針の穴を通す正確性で、彼は短剣をガンマジロの背中に突き刺した。
「全て斬る。かかって来い!」
絶対不利のモンスターの群れの中に、恐れずに飛び込んだ少年は、己の刃を全て通して撃破した。
「斬り切った。よし。ん!? だ、誰だ。人だな」
マリアンナかどうかが、オレたちの位置からだと分からなかった。
だからオレたちは向こうから見えない位置で待機していた。
そのオレたちを警戒してきたのが、彼女らだった。
「ああわりい。あーしらは1ーAの生徒だ。そこの聖女の仲間仲間。その刃しまってくれよ」
「仲間だと。聖女を狙う教会の奴らじゃないのか」
「狙う? それはねえわ。マリアンナに聞いてくれよ。そこの結界内にいるんだろ」
「聖女にか」
少年が振り返り、結界内にマリアンナに聞く。
「聖女。こいつが言ってるのは本当の事か」
「はい。ナオさんです。友人です。こちらに来てくれたみたいです」
「そうか。じゃあ、結界に入れるか」
皆で結界内に入った。
「無事だったんだね。マリアンナ!」
「はい。レインさん、来てくれてありがとうございます。皆さんも・・・嬉しいです」
レインに抱き着かれてもマリアンナはいつもと同じで淡々としていた。
「ふぅ。無事。間に合ったんだな。ん? 君は・・・クレアさん」
オレは隣にいたクレアを見た。
暗い表情で沈んだ雰囲気だ。
「・・は、はい」
「君がどうしてここに?」
「・・う、うちのせいなんです・・・うちが・・・聖女様を巻き込んで・・・あああ」
「ん?」
頭を抱え込んだ彼女を見て、マリアンナを見た。
彼女が暗い顔をするのも珍しい。
よほどのことが起きたのだ。
「なにがあった? マリアンナ?」
「はい。それが・・・」
事情を聞いた。
クレアが貰ったロザリオが転移の力を得ていたらしく、モンスターを引き寄せる力も同時に持っていたようで、ここで襲われていたらしい。
だから、彼女は駒として使われたようだった。
「セシオでいいのか。そいつは」
「・・・は、はい。セシオ様です」
クレアが答えてくれた。
セシオと言えば、あいつしかいない。
ゲームと同じであれば、聖女支援ルートの教皇選挙戦で対抗馬として出てくる奴の一人だ。
セシオかフリオネのどちらかが立候補してくる。
これはランダムだった。オレが何回か教皇戦のルートを踏んだ事があるから分かる。
どちらかが出てくるんだ。
その理由がついに分かったぞ。
こいつら同じ考えの奴らだったんだ。
聖女反対派だったんだ。
なるほどな。だから最後まで粘られるわけだ。
「それでこの子の弱みに付け込んでか・・・許せん。セシオを潰すか。ついでにフリオネもだな」
「「「「え!?」」」」
オレの顔を見た全員が動きを止めた。
これは、オレの顔が怖すぎたのかも。すげえ怒ってたから、顔に出てしまったかもしれない。
「あいつらはよくねえ。ずっと思ってたんだよな。選挙戦の時も不正を働くしな」
「選挙戦?」
「あ。いや、こっちの話だ」
怒りが、ついつい言葉になって出ていた。
余計な事だったわ。まだ未来の話だったし。
「あいつらの狙いって聖女の死だろ。マリアンナを殺す気満々なわけだ。このままだと、ここから脱出できてもしつこいんじゃないのか」
「おそらくそうなりますね。残念ながら・・・」
マリアンナも自分の運命を理解していた。
「だよな。ってことは、反撃するべきじゃないのか」
「反撃?」
「ああ。そろそろ教皇戦が始まるはず」
「・・・な、なぜそれを教皇様にお会いした事があるのですか」
「いや、予知夢でね。そんな夢を見たんだ」
とりあえず何かあれば予知夢にしよう。
そうすればこいつは夢見がちボーイだからで諦めてくれるだろう。
「そ。そうですか。ええ、ブラインさんの言う通りなんです。教皇様は引退されると言ってました」
「いつ?」
「ここ数年・・・そろそろだと。私が入学する前に教えてくれました」
これはタイミングが合ってる。
教皇が引退するのは三年後。
120ターン目だ。
聖女ルートの後半戦で、教皇は引退だ。
そこから、脱走ルートか三国調停ルートに入っていれば、教皇戦は無視。
でもそれ以外の支援ルートだと、教皇戦に入る。
選挙で勝ち切って彼女を教皇にする事で、聖教会を盛り立てて終わりになる。
ブラインは死ぬけど・・・。
ってことは、それって聖女を殺せなかったから、代わりに殺しておこうみたいなことなのかな。
あいつらがブラインを殺した?
まあよく分からないけど、ブラインは死ぬんだわ。
「そうか。じゃあ、そいつらよりも上にいくしかない。まずは候補から外れるべきだな」
「え!? 候補?」
「ああ。聖女の力を得るべきだ。完璧な力だ」
「私の成長って事ですね」
「そうだ。学校にいる間に強くなるべきだ。手出し無用なくらいにな」
「・・・・」
「それに立場も強化したい。それであんたは何者なんだ」
オレはエリオンに聞いた。
疾風のエリオンは、獣王国で対モンスター退治をすることで有名になるのは知っているんだけど。
このエリオンには何かの事情があると見た。
「俺は、チャリオットの部下だ」
「チャリオットだと」
大神官チャリオットだな。
四人いる大神官の一人だ。
「あんた、教会の人間だったのか?」
「いいや、朝焼けの五つ星の人間だ」
教会とは別組織?
「それは教会の組織じゃないのか」
「朝焼けの五つ星は聖女を支援・保護する組織。だからチャリオットは逆なんだ」
「・・・逆・・・そうか。朝焼けの五つ星の構成員が、教会に入り込んだって事か」
「そういうことだ」
なるほど。それでエリオンはそばで守ってくれていたのか。
じゃあ獣王国で活躍するってのは・・・。
ああ、そうか。脱走ルートに三国調停ルートの時だ。
教会からマリアンナがほぼ離れる動きをした時に彼も離れるんだな。
「って事はチャリオットとは接触しない方がいいな」
「ど。どうしてですか?」
マリアンナが聞いて来た。
「影で守ってもらった方が好都合だ。接触すれば、チャリオットも窮地に陥る可能性があるからな。勢力を保ってもらえた方がいいし、それをあいつらにぶつける事が出来る。それに・・・」
「それに?」
「マリアンナは、聖女勢力を作るんだ。その勢力で、馬鹿二人にぶつける」
「私がですか」
「ああ。教会内で力を生み出すんだ。ほら、この子もいる事だし」
「・・へ!?」
ずっと暗い顔をしたままのクレアを指差した。
驚きで暗さが取れる。
「君も、何かしたいんじゃないのか。罪に苛まれてるんだろその顔」
「・・・は、はい。う。うちが聖女様を・・・」
「それやめな。そればっかりじゃ前に進めないから」
「え?」
「前に進もう。やってしまったことを後悔しても遅い。次に挑戦だ」
「次・・・挑戦・・・」
「そう。それに幸いな事に、マリアンナが全然気にしてないぞ。この状況が、あんたの失敗だとも思ってないから」
「え!?」
彼女の顔がマリアンナの方を見た。オレがここでクレアを見て初めての事だった。
「はい。まったく気にしてません。仕方のない事なんですよ。私が聖女ですから」
「そ。それは・・・でも」
この女性はそもそも胆力が違う。
ちょっとやそっとの出来事じゃ、動揺なんてしない。
オレは色んなルートで見てきているから知ってる。
美しさに似合わない。諦めねえど根性の女性だからな。
「大丈夫。これから私と一緒に頑張りましょう。クレアさん」
「せ、聖女様・・う、うち・・・ごめんなさい」
クレアの目から涙が溢れる。苦しさが流れていってくれたみたいで、表情は明るくなった。
「まだ聖女じゃないですけどね。ハハハ」
マリアンナは苦笑いした。
たしかに候補生であるだけだ。
「おい。でもよ。それってなんとかできるもんなのか。ブラタン」
「うん。難しいね。綿密な計画が必要だと思う」
「・・・んじゃ。こんなかだったら、あーしがやるか。それとガラタンだな」
「え。おら!?」
「この中で聖教会にすんなり入れそうなのは、一般のあーしとガラタンだけだ。こいつ、クレアだっけ」
ナオが指差すと、クレアは頷いた。
「クレタンと友達になったとかで、あーしらも潜入出来るわ」
「なるほど。でもオレもいいんじゃ・・」
「駄目だな。ブラタンは、領主の肩書きがあるからよ。一般の方が中に入り込みやすい」
「・・・そうか。なるほど」
ナオが潜入してくれるって話か。
「ガラタン。いけっか?」
「いいよ。ついにおらも役に立てそうだね。戦闘じゃないならさ」
「いいや、ガラタンはいっつも役に立ってるぞ。あーしを起こしてくれる」
「それ・・・誰でもいいんじゃ」
「いいの。とにかく助かってるんだよ」
「そうなの」
こんな時でも仲の良い二人組だった。
「あの。それはつまりですね。ナオさんたちが勢力作りをするって事ですか?」
マリアンナがナオに聞いた。
「んんん。どっちかと言ったら、どいつが悪意を持ってるかを調べるわ」
「調べる方ですね」
「そう。仲間の引き入れはたぶんあんたがした方がいい。勢力作りは組織の頂点がするべきだ」
「私が・・・・」
「組織ってのは、長がしっかりしていた方がいい。あーしらの今みたいにな」
「・・・たしかに」
マリアンナがこっちを見た。
え、オレ?
何の長???
戸惑ってると皆がこっちを見だした。
「ブライン組だね」
レインが言ってきた。
「え? オレ組?」
「うん。ボクら、ブライン君と一緒にいたいと思ってるよ」
「オレ!? え、だって、ここには姫様も。聖女様も・・・」
なんで。オレ?
超弱小領主だよ。ブライン・レッドピックなんてさ。
「ブライン君がいいんだ。だよね皆」
レインの言葉で全員が頷いた。
なぜか、クレアもエリオンもだ。
オレ何かしたか。この二人にもさ。
「オレでいいのか。本当に・・・」
オレはとんでもないことになり始めたのである。
姫様・聖女。
どちらのルートも踏み込み始めたようだ。
いずれはどちらかになるとしても、両フラグの最初を踏んだ。




