第15話:彼も、私のことが好きだった
大佐はモランお爺ちゃんの部屋のドアをノックすると、返事を待たずに中へ入った。
「モランお爺ちゃん、何かお話が?」
お爺ちゃんは大佐に座るよう促してから、言った。
「外の風向きが、少々きな臭くなってきた。しばらくは、新しい娘を匿うのはやめておけ。さもなければ、フィーちゃんやジャッキーにも危険が及ぶ。元々の手引き役とも、一週間以上連絡がついていない。当面、彼女たちを後方の安全地帯へ送り出すのは不可能だ。もうしばらく、ここに留め置くしかあるまい」
「しかし、まだあと二、三人は救えるだけの余裕はあります。食料は必ず確保します、どうかご安心を」
「餡ちゃん、お前の気持ちはわかっているつもりだ。お前のような善良な人間が、見殺しにするのは、どれほど辛いかもな。だが、掴んだ情報によると、部隊はもうお前の監視を始めている。自分の言動には細心の注意を払え。そして、どうか私の言うことを聞いてくれ。もう新しい娘を受け入れるのはやめろ。フィーちゃんとジャッキーのためにも、そうしてくれ」
「誰かが、私を監視していると?」
「お前が娘たちを助けているところを、誰かに見られて報告されたんだろう。幸い、部隊で数々の戦功を立ててきたお前のことを、今はまだルーチンの調査という体で見ているだけだ。調査期間中に何も問題がなければ、そのままうやむやになる。……だが、本当にお前は、ここまでよくやってきた。この半年で五十人以上の女性を救ったんだ、後方の連中がお前に『ボスさん』なんて綽名をつけたのも知っているだろう?」
「ボスさん? それは、皮肉を込めた罵倒の綽名だとばかり思っていました」
大佐は少しの間、言葉を切り、それから続けた。
「わかりました。あなたのおっしゃる通りにしましょう。ただ気がかりなのは、二人の娘が長期間ここに留め置かれることで、余計な想像を巡らせてしまわないかということです」
「それについては案ずるな。私と婆ちゃんが、家事の仕事を割り振ってみせよう。人は忙しければ、自然と雑念を抱く暇もなくなるものだ」
お爺ちゃんは更に言葉を続けた。
「お前の役目は、十分な食料と布地を確保することだ。他のことは、我々老夫婦に任せておけ」
お爺ちゃんが「もう行っていい」と目で合図を送ったが、大佐は立ち去ろうとはしなかった。何か言いたげでありながら、それを口に出せずにいた。
お爺ちゃんは、その胸の内を見抜いた。
「フィーちゃんのことだな?」
大佐は驚きを露わにしたが、すぐに、お爺ちゃんの目を見据えてから、頷いた。
「あの娘が好きなんだな?」
大佐は驚きの色を消し、今度は真剣に、もう一度深く頷いた。
「なら、何をぐずぐずしている。さっさとそう伝えてこい」
まだ言いたりなさそうな素振りの大佐を見透かして、お爺ちゃんは言葉を重ねた。
「ジェニーとベルのことが、まだ吹っ切れないのか?」
大佐はしばらく考え込んでから、もう一度、沈んだ様子で頷いた。
「起きてしまったことは、もう仕方がない。どうやっても、結果を変えることはできないんだ。お前はこのところずっと、抜け殻のように生きてきた。だが、フィーちゃんが来てからは、お前自身、見違えるほど明るくなったじゃないか。私も、婆ちゃんも、それを見てほっとしている」
お爺ちゃんは大佐の肩を軽く叩くと、諭すように言った。
「若いの、大切なのは、過去と折り合いをつけ、新しく歩き出すことだ。それが、お前とフィーちゃんにとって、一番公平な道だろう」
「モランお爺ちゃん。それでは、一つお聞きしたい。もしフィーちゃんに言い寄るなら、何か秘策はありますか?」
「無論、とっておきの秘策ならあるとも。何しろ婆ちゃんでさえも、若い頃はその秘策の前にイチコロだったからな。だが、まずはお前自身で、少しは考えてみることだな」
その言葉を半信半疑に思いながらも、大佐はそれ以上追及せずに、部屋を後にした。




