第1話:イケメンの敵国軍人、その綺麗な顔に囚われた私
私の婚約者は、二週間後に死刑になる。
これは、たった八ヶ月の物語。
彼が、どのように私の心を奪っていったのか。
愛してはいけない敵国の軍人に、私が、どのように恋をしたのか。
三年半前。
そこは、薄暗い倉庫だった。
ソフィーと、あと二人の少女が、囚われている。
ここがどこなのか、彼女たちにはわからない。
ただ、長い時間、車に乗せられてきたことだけを、覚えていた。
彼女たちは、縛られてもいなければ、猿ぐつわをかまされてもいない。
おそらく、周辺には人家がまったくなく、叫んでも誰にも聞こえないからだろう。
(彼らは、私たちに何をするつもりなの?)
(見逃してくれる可能性は、あるの?)
ソフィーには、その答えがわかっていた。
だが、深く考えることはできなかった。
なぜなら、隣にいる、自分より若い二人の少女を、守らなければならないからだ。
だから彼女は、平静を装って言った。
「大丈夫。ボスさんが、助けに来てくれる」
「ボスさんって、誰?」と、二人の少女が、同時に尋ねた。
「英雄よ。私たちを、必ず救け出してくれる、英雄なの」
ソフィーは、うつむきながら、強く言い切った。
ドン! ドン! ドン!
彼女たちを外界から隔てる、鋼鉄の扉が、激しく叩かれた。
そして、野太い声が、扉越しに響いた。
「おい、静かにしろ! さもないと——」
その言葉は、最後まで続かなかった。
外から、車のエンジン音が聞こえてくる。
エンジンが止まり、誰かが降りる音。
そして、鋼鉄の扉を、誰かが開けた。
扉が開くと、ソフィーの目には、三人の人影だけが見えた。
すぐに電気がつけられ、彼女の目が慣れるまでに、数秒かかった。
そのとき——目に飛び込んできたものに、彼女の心臓は、跳ね上がった。
(なんて、綺麗な顔……)
(もし今夜、この運命から逃れられないのなら、いっそこの人に……)
ソフィーは、そんな考えが浮かんだ自分を、責めた。
(相手は敵だ。自分は、ただの獲物に過ぎない。)
そう自分に言い聞かせても、彼女の目は、その美しい男の顔に、釘付けになっていた。
やがて、二人の視線が、絡み合った。
彼の目は、ソフィーの心の奥底まで、見透かしているようだった。
恥ずかしさで、消えてしまいたくなる。
でも、その目が——
ほんの一瞬、何かを思い出すように、とても優しくなった。
まるで、大切な誰かを、思い出しているかのように。
ソフィーは必死に目を逸らそうとしたが、できなかった。
五、六秒の後、先に視線を外したのは、彼のほうだった。
(かわいい……だめ)
ソフィーは、またしても自分を責めた。
それでも、彼の美しい顔から、目が離せない。
さらに彼女の心を奪ったのは——
彼が、自分のほうへまっすぐに歩いてきて、ためらいもなく、腰に手を回したことだった。
連れの二人の少女は、すでに他の軍人に捕まっている。
彼らの汚れた手が、好き放題に少女たちの体を這い回っているというのに。
隣の、この美しい男の手は——
ただ、腰の横に、置かれているだけだった。
もし彼が望めば、上へ、下へ、どこへでも動かせたはずだ。
でも彼の手は、衣服のように、ただそこにあるだけ。
それが、ソフィーには、不思議でならなかった。
仲間の泣き声で、ソフィーは我に返った。
無駄な抵抗と、誰にも届かない叫び。
そしてその時、自分もすぐに、同じ目に遭うのだと、彼女は悟った。
泣きたかった。でも彼女は、必死に感情を押し殺した。
(たとえ相手が、こんなに綺麗な人でも……)
(汚されるのは、嫌だ)
(敵の獣欲の、ただのはけ口になんか、なりたくない)
どうすることもできない。
だけど今、よりかかれるのは、自分をこれから辱めるはずの、この男だけだった。
彼女に残された道は、一つだけ。
ソフィーは、軍手をはめたままの、彼の手を、強く握った。
どれくらい時間が経ったのか。
やがて男は、彼女の腰を軽く押し、合図を送った。
ソフィーはその意味を理解し、泣きわめく二人の仲間を残し、彼についていく。
男は手を離そうとしたが、彼女は逆に、彼の手を握り返した。
そのまま、並んで歩き出す。
後ろは振り返らなかった。
振り返れば、抑えていた感情が、決壊してしまいそうで——怖かったから。




