第7話 赤らめる白雪姫
「ねぇ、篠原くん」
「どうした、橘」
碧と白雪は、ショッピングモールに向かうためバスを利用していた。
住宅街から目的地まではそこまで遠くはないものの、歩いていくには時間ロスしてしまう。かといって、自転車で行くのは考えていなかったので、現在、二人はバスに乗っている。
碧は吊革を右手で持ち、バスに揺られながら立っており、白雪はその目の前で座っている。
「篠原くんも座ったらどう? 別にバスが込んでいるわけでもないんだから。私の横の席、空いているし」
白雪は、立っている葵を見ては自分が座って申し訳なさそうにへにゃとした顔を見せながら声を抑えて言う。
「別に大丈夫だ。もうすぐ目的地にはつくし、別に苦だったりしないよ。白雪は座っていてもいいよ。午前中、部活して疲れているんだろ?」
「まぁ、そうだけど……」
白雪本人は、本当は内心隣に座っても問題ないのにと思っているのだが、碧は、隣に座って、このような狭い空間で密着するのはいかがなものかと思っていた。
「私は気にしないわよ。隣に男の子が座っていようとも何も感じないし、こういう公共交通機関だったら普通じゃないかしら?」
「いや、だってなぁ……」
そう言われると相手が言い返せないことを白雪は知っている。さすが成績優秀といったところだろうか、嫌な所を突いてくる。
「そもそも席自体空いているんだから座って方がいいわよ。さっきから運転手のおじさんがミラー越しにこっちを何度か見ているから」
「それは分かっているが……」
ちらちらと何度かこちらを見てくる運転手の視線を感じてはいるものの、おそらく急ブレーキとかで怪我されるのを嫌っているのは分かる。座っている方より立っている方が危ない。いくらバスが安全運転で走行しているとはいえ、運転手にとっては微妙な感情を持っているのだろう。
「分かった……」
碧はため息を漏らしながら、白雪の説得に応じる。
それを聞いた白雪は、そそくさに緩めていた両足を座席の方へと寄せ、碧が窓側の席に座れるように通るスペースを確保する。
だが、碧は他にも座る場所が隣の座席にもあったのを知っていたので、迷わず白雪とは反対側の座席に座った。
それを見ていた白雪は残念そうにしょんぼりとして、何も言わずに無言のまま碧の方をムッと見つめてくる。
「ばか……」
と、碧に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟く。
『ばか』と言われても、その意味は本当の『馬鹿』とは全く違うのを白雪は心の内に留めておいた。
ぐぬぬと自分の袖を軽く引っ張っては、衝動を何とか抑えようとしている。
◆ ◆ ◆
バスに揺られて十分から十五分ほどで、目的地のバス停に辿り着いて、
二人はそれぞれ料金を払い、下車する。
先に碧が降りて、それから白雪が降りようとする。
「うわぁっ!」
白雪は思わず段差で躓き、前に倒れようとしている。
それに気づいた碧は、白雪が怪我しないように右腕で彼女の体を支え、倒れるのを防ごうとする。
白雪の体重が全身前のめりに掛かり、少し重くなるが、白雪の体が軽いのか、そこまで重たく感じない。
「――っ‼」
受け止められた白雪は、顔が真っ赤になり、視線を右に向けると、碧の顔が至近距離で視界に入ってくる。
「あ、これは、その‼」
受け止められた白雪はオーバーヒート状態で、ぺちぺちと碧の腕を叩く。
「はいはい、暴れるな。落ち着け」
碧は、白雪の体を離さずにゆっくりと状態を起こす。
落ち着きを取り戻した白雪は、我に戻って、すぐに運転手に謝り、バスを降りる。
白雪が降りる際に運転手の表情は微笑ましそうにこちらを見ていたのを碧は見て見ぬふりをして、スルーした。
バスが通過してから白雪は顔を俯いたままである。
見かねた碧は、ポンと白雪の頭に手を置き、優しく撫でる。
「おーい、橘。落ち着いたか?」
白雪は頭を撫でられ、さらに沸騰した状態になりかけている。
「ふぁ、ふぁい……」
いつもの威厳がそがれた赤子の如く、思考の回転が遅くなっている。
「そっか、じゃあ行くか」
「うん……」
白雪の頭から手が離れると、それを残念そうにする。
碧が先に歩くと、その後ろから白雪がゆっくりと大人しくついてくる。
後ろから「もう、もう……」と言いながら、白雪は碧の行動に何か言いたげにしてそうであるが、怒ってはいない。
怒るところがどこにもないからこそ不服なのである。
「ばか、ばか……」
頬を膨らませながら白雪は碧に追いついて、碧は歩幅を合わせるようにゆっくりと歩く。




