第22話 最終話
やがて冬弥くんは、
母の真っ白な骨の欠片を
ひとつつまんで取り出した。
しばらく陽の光に透かすようにして、
かざしてから、
ふいに口に含んだ。
「あっ」
思わず声が出た。
「ごめん。食べちゃった」
「あはは、びっくりした」妹が屈託ない様子で笑った。
緊迫した空気が緩む。
「ほんと、びっくりした」
私もできるだけ何気ないように続く。
ちゃんと笑えていたかどうかはわからない。
でも私たちは、
今はじめて冬弥くんの
本当の悲しみに触れた気がした。
妹が、
遺骨を粉にして小さな瓶に詰めて、
ネックレスにしてくれたりもできるみたいよと
提案してみたが、
彼はその提案は丁重に断っていた。
私は、
まあ、そうだろうなと思った。
彼にとって母は
決して思い出にできるような関係ではない。
自分の身体の中に摂り入れて、
母そのものと生きていく、
そんな覚悟のようなものを感じられた。
冬弥くんは母になりたかったのだ。
というか、
同化したかったのか。
今まで感じていた彼の母に対する思いの違和感が、
ここですべて回収された気がした。
姉ヶ崎の駅に到着した頃は、
辺りはすっかり暗くなっていた。
冬弥くんは
帰りにお弁当を持たせてくれた。
「あんまりなにもしてあげられなくて、ごめん。
弁当よかったら新幹線の中でも食べて」
「こちらこそ色々ありがとう」
そして、それぞれ握手して別れた。
こんな時、握手なんてするものだろうか。
ただ、それ以外に別れの方法は思いつかない。
冬弥くんの手のひらは
びっくりするくらい冷たかった。
母に会いに千葉に遊びに来る度、
別れ際はいつも駅まで送ってくれた。
発車する電車から、いつまでも手を振る母。
見えなくなるまで、
小さくなっていく母を必死で見つめる
まだ幼い妹の背中。
私の中にある芒の原のイメージが増幅。
がんがんと耳鳴りがして、
吐き気がした。
べりべりと剥がれていく。
この街が。
ああ、もう、
二度とここに戻ってくることはない。
「さよなら。冬弥くん」
「うん」
歪んだ月は、
今夜も私たちを照らす。
人は一人では生きてはいけないけど、
一人で死ぬこともできない。
冷たい冬弥くんの手のひらを思い出しながら、
これは現実だったのだろうかと、
不思議な気持ちになった。




