第20話
火葬場は、
街のはずれのなだらかな丘の上にある。
タクシーを降りると、
ぐるりと街全体を見渡すことができた。
街の中にいると、だだっ広いだけで何にもないようだけど、
俯瞰すれば意外にごちゃごちゃとしている。
二日ぶりの母の遺体との対面だったが、
特に変わりはなかった。
係の人に菊の花を手渡され、
それぞれ一言かけながら花を遺体に添える。
母の身体は抜け殻で、
もうここにはいないような気がしていたので、
この茶番には付き合いきれないとは思ったが、
黙ってしきたりに従った。
「もう、よろしいですか」
係の人が何度もそう言って、
悲しみを強要する。
そんなに催促されても涙は一滴も流れない。
それは母との関係性の問題ではなく、
単に実感が湧かないという程度のものだと思う。
そして係の人にとっても、
それは事務処理の一部というだけのもので、
そこに感情など一ミリも存在しない。
唯一、
妹がまた涙をふんだんに流していたが、
それも、義務感のようなものではないのか。
この場面では泣くべきだというような。
冬弥くんは来なかった。
血族に対する遠慮なのか、後悔による恐怖なのか。
「俺はいいから。水入らずで送ってやれよ」
水入らずという言葉は、
冬弥くんに使うのがきっと正しい。
母を失って、
本当に悲しいのは冬弥くんだけだ。
最後の対面で、
真実の言葉をかけられるのは、
真実の涙を流せるのは、
世界中で彼だけ。
そう考えると、
少し近くなっていた冬弥くんの存在が、
また遠くに感じられた。
母の遺骨は大きな骨壺に収納されて手渡された。
大阪だと
小さなサイズと大きなサイズの骨壺に分けて
収納するのが主流なので、
かなり違和感がある。
大きな骨壺は冬弥くんに渡して、
海に撒くとか山に撒くとか
好きにしてもらうつもりだった。
そして私たちの方は
小さな骨壺だけを持って帰ろうと思っていたのだ。
「これ持って、大阪まで帰るん?」
妹が呆れるようにして言った。




