表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/67

第42話 謎のお客様(今度は生身の人間?)

◇◇


『それは当然、舞踏会に私の夫が行くからに決まっているでしょう』

「奥さんが殺されたのに、舞踏会ってありえませんよね?」

「それは……夫もわたくしの実家との兼ね合いがあって、わたくしが死んだことは直ぐに表沙汰に出来ないのよ。犯人を捕まえてから、公式に公表したいはず……。それに、夫は愛人が自分を殺そうとしたなんて思ってもいないでしょうから』

「セーラ様はそんなに強かで、狡賢い愛人を私に捕まえろと仰せなのですか?」

『だ、だから……。貴方は何もしなくて良いって言ったでしょう。舞踏会に行けば、わたくしの姿が視える人間もいるはずよ。あの女を現行犯で捕えることだって出来るはずだわ』

「でも、セーラ様。私、舞踏会に招待なんかされていないんですよ。勝手に行って不法侵入で捕まったら、それこそ、エオール様に殺されてしまいます」

『何よ、そんなことを気にしているの? 貴方と同じく社交界に顔を出さずに幽霊化している貴族ならごまんといるわよ。名前なんてどうとでも』


 ……うーん。

 それって、名前を偽って参加しろということですか?

 どうなのでしょう?

 すぐにバレると思いますよ。


(それに、視える人間がいたところで、セーラ様に協力するかどうか?)


 やはり……変です。

 彼女の話していることは、大半は筋が通っていますが、肝心な部分で想像の域が出ない感じです。

 私はこの半年ばかり、離れで大勢の幽霊たちと出会い、話したのですが、彼らは大方、死の直前の意思に引っ張られていました。

 亡くなる前の記憶が曖昧になっていって、どんどん視野が狭くなってしまうのです。

 彼女は「舞踏会に行かなければならない」という義務と「夫の愛人をどうにかしたい」という、一念だけで行動している気がします。

 これは危ういことではないでしょうか?


「セーラ様が旦那様に会って、直接、愛人さんの危機を訴えることは出来ないのですか? それか、私……匿名でセーラ様の旦那様宛に手紙を書いて知らせることは出来ますよ。手紙の送料代だけ頂けたら、私……」

『あのね。夫は結界の効きまくった場所にいるから、幽体のわたくしは近付くことすらできないし、匿名の手紙なんて、夫に届く前に捨てられてしまうわ。大体、貴方がもう少しミノス公爵と仲が良ければ、こんなことしなくても済んだのに……』


 はい、その通りですね。

 私がエオールと離婚危機中のせいです。

 しかし、セーラの旦那様は、よほど結界が張り巡らされているお宅にお住まいなんですね?

 どう考えても、直接旦那様に訴えた方が早いと思うのですが……。


(上流貴族ですよね? 聖統御三家に匹敵するほどの大貴族?)


 そもそも、エオールの身分に関しても無頓着な私なので、彼女の身分なんて見当もつきません。


「でも、せめて、旦那様、愛人さんの御名前くらい教えてくださいよ。分からなきゃ、私だって困りますよ。舞踏会に行くだけで良いって、それだけで済むわけないじゃないですか?」

『分かったわよ。仕方ないわね。余り言いたくないけれど、夫の名なら……ユリ』


 ――と、その時でした。

 こんこんと、扉を叩く音がしました。


「ラトナさま」


 執事長のトリスです。

 息が止まるかと思いました。


(なぜ?)


 昼下がり。食事も終えたので、私も使用人も、自由時間のはずでず。


(……まさか、エオール様じゃ?)


 昨日の今日です。

 十分、考えられます。


(ともかく、寝たふりをして通用するかどうか?)


 現金なことに、こんな時だけ、手際よくミネルヴァもセーラもいなくなってしまったので、私はいそいそと毛布の中に潜りこみました。

  

「お客様がお見えなのですが」

「……客?」


 ――誰?

 エオールではないのでしょうか?

 しかし、トリスは旦那様とは言いませんでした。

 正直、彼以外に離れにやって来る人なんて、思いつかないのですが……。

 毛布の中で身を硬くして丸くなっていると、トリスの回答を待たずに、扉を全開した男が、ずかずかと踏みこんできたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ