第41話 貴族様は怖いですね……
◇◇
『まさか、愛人に敵意を向けられるなんて思ってもみなかったのよ』
「はあ」
『本当、落ち込むわ……』
いやー。落ち込んでいるのは、私の方なんですけどね……。
(エオール様に、新たな女性発覚なんですからね)
レイラとの恋路を応援していた私にとっては、衝撃的で悍ましい現実です。
そして、お相手が貴族の令嬢ということであれば、私との離婚の確率もぐんと上がります。
明日にでもエオールが離婚を迫りに来るかもしれないのです。
それなのに……。
『わたくし、幽体になってから、食事に毒を盛った給仕係と指示役の声を聞いたのよ。すべて、夫の「愛人のため」にやったんだって言っていたの』
すべてを思い出したわけではない……と前置きした割には、離れに戻って来るなり、ぺらぺらとセーラはよく喋ります。
大金を支払うと約束してくれましたが、私はまだ引き受けると答えたわけではありません。
大体、幽霊がどうやって、私にお金を用立ててくれるのでしょう?
さすが、自分主人公のお嬢様です。
呆然としている私は、完全に置き去りとなっていました。
『そこまで憎まれていたなんて、わたくし、気づきもしなかったのよ。でもね。百歩譲って、愛人がわたくしを邪魔だと思うのは分かるのよ。夫とわたくしは政略結婚だったし、わたくしさえいなければ、妻になることが出来るって安易に考える女がいてもおかしくはないって……』
ふふふっ……と、セーラは上品に微笑していますが、内容はえげつない話です。
貴族様は怖いですね。
私も一応、貴族の括りではあるのですが、田舎育ちで寝たきりだったので、いまいち、貴族特有の考え方が理解できなかったりします。
出来ることなら、あまり近づきたくないのですが……。
何の因果か、戸籍上は公爵様の妻なのですよね。
「私の常識によると、そこまでする女性っていうのも、なかなかいないんですけどね?」
毒を盛ったら、人殺しですからね。重罪ですよ。
『わたくしが許せないのは、あのまま二人同時に食事を摂っていたら、夫も死んでいたかもしれないってことよ』
「セーラ様の食事だけが、毒入りだったんじゃないんですか?」
『わたくしが先に手をつけて倒れたから、夫は食べなかったけれど、夫の方にも毒は混入していたのよ。私、死んだ直後に……そう聞こえたもの』
――夫婦心中を狙う愛人?
何だか、血を血で洗う展開を迎えていますね。
エオールのことで、悩んでいる私が莫迦みたいではないですか。
「自爆型の……愛人さんなんですかね?」
何処の怖い小説の話でしょう?
しかし、セーラも私の常識から乖離しているのか、特段感情的にもならずに、淡々と話し続けます。
『わたくしにもよく分からないけど。二人の間に何かあったのかもしれないわね。でも、夫まで殺そうとした女なんて。このまま二人が交際していても、ロクなことがないじゃない?』
「だから、セーラ様はその危険な愛人を捕まえようとしている……と?」
『夫から引き離しておかないと……。わたくしも安心して死ねないわ』
「しかし、益々それだったら、エオール様は関係ないですよね?」
『いいえ。大アリよ。夫とミノス公爵は近しい存在なの。元々、公爵と愛人は仲良くないから、この機会に彼も何か感づいて……実害を受けているかもしれないわ』
「実……害ですか……」
何か異変が起こっているのかもしれませんね。
今のところ、新愛人といちゃいちゃしている姿しか想像できませんけど……。
『ですが……セーラさん。それと、舞踏会に旦那様の愛人が来るっていう話は、まったく結びつきませんよ?』
今まで黙って話を聞いていたミネルヴァが首を傾げていました。
そうですね。
そのとおりです。
どうして、私が舞踏会なんて注目されてしまう会に参加しなければならないのか、今の説明と欠片も結びつきません。
私もミネルヴァと同じように首を傾げてみせると、セーラは分からないのかと言わんばかりに、苛々しながら答えました。




