表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吹奏万華鏡   作者: 幻創奏創造団
愛と狂気の先に… 瑠璃色の市営コンクール本編
350/350

第63楽章 繰り返される悲劇

――ホール練習終わりの翌日。

 市営コンクールまで2週間を切った。月曜日は憂鬱な優月のはずだが、更に憂鬱は重なる。

「みなさん、そろそろ進路を決めるときです。推薦される方は、条件を満たした上で、私たちに申請をお願いします」

それは進路の小難しい話しがあったからだ。


「ゆゆ、求人見たか?」

颯佚が優月へ問う。

「見た……っちゃ見た。でも、僕自身、何をやりたいか分からない」

「うーん……、てか大学は行かないのか?」

「うん。行くなら音大……くらいかな」

優月は考えた末、好きな音楽を学びたい……と思った。だが、成績が悪いからか、恐らく大学進学は、もう諦めざるを得なかった。

「うーん……、ゆゆに音大はちょっとなぁ」

すると案の定、颯佚は顔を渋めてきた。

「……井土先生も同じこと言ってた。鳳月さんに限っては、馬鹿笑いされた」

「いや、ゆなもゆなで不安や……」

颯佚がこう言った理由。


――その頃、ゆなは……

「せんせー!私は推薦受けられますか?」

「鳳月さんは、推薦条件満たしてないので、たぶん無理です」

普通に、推薦を蹴っ飛ばされていた。優月以下の総合成績に、遅刻や早退だけでなく欠席まで、条件を軽くオーバーしていたからだ。


 それを優月は小さく笑った。ゆなは、ゆならしく、自由に生きるのだろう。

「……ふふっ、鳳月さん大変だねえ」

「人の不幸を笑うんじゃない……」

優月はゆなに無上の恨みがある。

すると心音が、こちらへやってきた。

「おう、ふたりは就職?」

「いや、俺は大学」

「んおー!俺も大学!茨城の方に行く!」

颯佚と心音はどうやら、大学へと進学するらしい。ふたりの成績は、学年トップクラスなので、高望みでない限りは絶対に困らないだろう。


「……お前は?」

すると心音が、優月へ問うてきた。

「えっ……?就職だよ」

「ほおん。どこに就くん?」

「……んんーっ、やりたいこととか、思いつかないんだよね」

優月はそう言ってきて、顔を歪めた。そもそも、好きなことなど、音楽か絵を描くことくらいしかない。

「……んーっ、致命的だな。頑張れよ」

「痛ッ!!」

心音にたたかれ、背中がヒリヒリと痛んだ。



 市営コンクール2週間前だというのに、今日も2曲の楽譜を配るらしい。

「はい、私の作曲した『Forte』と『Sound Love Mind』を配ります」

「……今回は、誰がドラム?」

広一朗の言葉に、ゆなが反応する。

「えーっと、パーカッション、グロッケン、ドラムがありますが、ドラムはゆゆかむらこいで」

「んおーっ、勝手に決めてて」

そう言って、ゆながパーカッションの楽譜を奪う。その理由は無論、鍵盤をやりたくないからだ。


「……瑠璃ちゃん、僕がドラムでもいい?」

「う、うん……。私はどっちでも」

その時、瑠璃の顔が一瞬、悲哀を帯びた。

「……まぁ、ドラムの方がやりたいけど」

その刹那、彼女は本音を床へとこぼした。

「えっ……?そう?」

その時、ゆなが優月の手にあるドラムの楽譜を取り上げる。それを瑠璃に渡した。

「ゆゆは鍵盤やりな」

「えっ……」

(何を勝手に……!!)

その時、瑠璃は「いいの?」と問うてきた。

「えっ……ぜ、全然大丈夫だよ!」

優月は内にある呵責を黙殺する。好きな人が喜ぶのはやはり嬉しいし、それに優愛との約束だ。


「……まあ、ドラムはどっちでもどうぞ」

広一朗の進言に、ゆなは優月へ厳しい言葉をかける。

「ゆゆはドラム怪しいんだから、鍵盤を極めな。あと、むらこいに頼るな」

とても鍵盤嫌いの言うこととは思えなかったが、ドラムという取り柄がある以上、返す口もなかった。



 その言葉を食らった優月は、項垂れながら黙って練習することにした。

(はぁあ。譜読みの音符の数が多い……!!)

そして鍵盤となれば、ドレミを書かなければならない。優月は五線譜の1番下の線から、数えて譜読みを開始する。

楽器はグロッケンだった。グロッケンは音程がピアノと同じで、五線譜の1番下線は『ミ』となる。

「……はぁあ」

優月は、鍵盤を久しくやっていなかった。ずっと、ドラムかパーカッションでやり過ごしてきた。

「別に嫌いじゃないけど、早打ちとか苦手」

恐らく、自分はドラムが好き。こう結論付ければ、この湧き出る不満も納得の(ことわり)だ。


その間、ぼかぼかぼか!!と瑠璃のドラム乱打が、優月の譜読みを急かしているような気がした。


 30分後、ふたつの譜読みをヘトヘトになりつつ、ようやく終えられた。

「……お……終わったぁ」

しかし、既にヘトヘトだ。ずっと楽譜と見つめ合っていた為に、首はかなり痛い。そして集中力も切れつつあった。久々とは辛い、改めて思い知った。

 それにしても、このまま鍵盤が増えれば、更なる負担が掛かってしまう。これからも渡される楽曲すべてが、鍵盤であった場合、ドラムなどのリズム楽器の得意な優月には、ドラム以上の負担が掛かる。

(……鍵盤は嫌いじゃないけど、キツイ)

そんな不安が、優月を大波のように襲った。最悪な未来の可能性。それでも瑠璃には言えないジレンマ。

優月はすぅーっ……と深呼吸をすると、マレットを振り下ろした。


 ぽん♪ぱん♪ぴん☆

「……うあっ!ここシャープ?」

しかし大量の逆らうオタマジャクシは、予想以上に優月を苦しめた。何が厄介なのか、それは圧倒的なシャープとフラットの数である。

「多いなぁ……」

優月は悪党苦戦していた。


 広一朗の作曲した曲は、基本的に高難易度だ。その火を見るよりも明らかなミスが、優月のメンタルを削っていく。

――やりたくないんじゃない。できないんだ。――

 己の無力さを、ここぞとばかりに知らされた優月。最近、ようやく吸収できていたのに、ここで自信を失ってしまうのが、とにかく辛かった。


(……クソ。なんで、こんなに僕は……何も……!!)

普段は温厚かつ、優しい優月も、このミスの多さは、己を強く恨んだ。

(高校3年生!!もう初心者じゃないのに!)

焦って、焦って、もうどうしょうもない。そもそも、こんな焦り自体がいけないことだと、彼は気付いてすらいなかった。

(……このままじゃ、本当にお荷物だ)

何度たたいても、脳が正常な動きを受け付けない。同じミスばかりで精神を削られる。


 30分、休むことなくたたいた優月は、突然、スイッチが切れたように、床へと座った。

(……鳳月さんの言う通りだ。僕には素質がなかった)

たぶん、中学時代から始めていれば、基礎から始めていれば、絶対にできていた。

優月は、その挫折を胸に刻まれ、その目を閉じた。

 これから、引退までの数ヶ月。毎回、こんな気持ちになって努力するのか、そう思うと無力さで、涙が出そうになった。



 床へと座り込み、絶望を頭に被る優月。その様子は誰が見ても、挫折している人間のそれだ。

(……優月先輩)

それを見た瑠璃の中で、かつての記憶が刺激される。

(あの時の私みたい……。優月先輩は優しいから、私みたいに消えちゃうのかな………)

 中学時代、瑠璃はティンパニを破壊した。それを切っ掛けに、太鼓とは真反対の鍵盤楽器をやらされた。鍵盤の音は綺麗で美しい。

だが本音は、思い切りドラムとかティンパニを叩きたかった。結局、優愛にも心配させたくなくて、感情を押し殺し苦しんでいた。

(……苦しそう。やっぱり、優月くんのこと……苦しめたくない)

瑠璃も優月が好きだ。だからこそ、彼のそばへ歩み寄ることにした。



 優月が己の無力感に苛まれていたときだった。突然、甘い声と共に、右肩に手が伸びる。

「……優月先輩」

「る、瑠璃ちゃん」

そこにいた人物は瑠璃だった。

「優月先輩、私、やっぱりドラムはいいや」

すると、彼女はあろうことか、こう答えたのだ。

「……えっ?」

「ほら、私は1年生だし、失恋の詩でドラムやるし!1曲でもできれば充分だからさ!!」

瑠璃の元気づけるような声に、あからさまな強がりは感じられなかった。


「……ほんと?」

「うん!!瑠璃は来年があるし!その時はぜっったいにドラムやるから!!」

瑠璃は、もはや来年に希望を見いだしていた。

「……ごめん」

「ううん。そもそも、私は鍵盤できるのに、優月先輩に押しつけちゃうなんて、馬鹿だよね」

「い、いや…!そんなことは……!!」

優月は慌てて否定する。だが、瑠璃は自責の声を、表情にして滲ませる。

「……茂華中でやったら、怒られちゃう」

「……………」

何も言えなかった。


「……楽譜、見せてくれる?」

瑠璃が言うと、優月は楽譜を見せた。すると瑠璃は、あっという間に完璧な早打ちを見せる。

「ここは、フィルインみたいな感じだね。流石、元打楽器奏者だな〜」

そう言って、着々と進めていく瑠璃に、なんだか安心感すら感じた。


「優月先輩、ドラムやってください」

そんな瑠璃の頼み。もちろん、断ることができなかった。優しい瑠璃に、この時ばかりは甘えてみることにした。


大丈夫だと思った。

……繰り返される悲劇に、優月が知る由もなかった。





最後まで読んで頂きありがとうございました!

 読んでくださったみなさんの、アドバイスや感想は大きなモチベーションになります!総合ポイント100point 目指しております!

 良ければ、リアクション、ブックマーク、感想、評価をお願いしたいです!

 吹奏万華鏡では、様々な吹奏楽の話しの他にも、音楽に関わるすべての物語を描いています。また音楽や人間関係だけではなく、恋愛や非日常、過去から背中を押す物語を展開しています。

 初心者も、これから吹奏楽を始める方も楽しめる物語を作ることが目標です。

 皆さんの応援や、ページビューがモチベーションです。これからも魅力的なストーリーを更新できるよう頑張ってまいります。

 次回もお楽しみに!


【次回】 瑠璃に親から退部命令……!?

     妹 樂良の驚異……






♪Birthday情報 by 澤村(さわむら)叶夢(かのむ)

珠己・美玖「誕生日おめでとう!叶夢!」

叶夢「わぁあい!珠己(じゅき)ちゃーん、美玖(みく)ちゃん、ありがとうっ!!」

優月「……今日5月6日は、澤村叶夢さんの誕生日です!おめっとさん!」

叶夢「ありがとう!優月くん」

優月「なんで僕の名前知ってるの!?」

瑠璃「叶夢ちゃん、お誕生日おめでと〜!これからの活躍楽しみにしてるよ〜」

叶夢「瑠璃ちゃん、ありがとう!頑張るからね!」 

優月(なんで…僕たちの名前を知ってるんだ?)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ