第57楽章 華高祭の終焉
優月や想大たちが去ったあと、叶夢も、珠己たちとお化け屋敷に入っていた。
「いやぁー!!」
「こわぁい!」
「……」
後ろからゾンビが来ようと、妖怪サダ子が追いかけてこようと、美玖だけは驚かなかった。
「……ぜんぜん怖くない」
「えーっ!怖いよぉ!ねぇ、叶夢?」
「うん!すっごく怖い!!」
怖がる珠己と叶夢に、美玖は肩をすくめた。
「いや、だって、さっき……、彩本さんがお化けを見て……ニコニコ笑ってたから」
美玖の涼やかな声に、叶夢たちは目を点にした。
その頃、優月は優愛と別れようとしていた。
「……じゃあ、私はバンド見てくるから」
「えっ?バンド?」
「うん。ほら、演奏を参考にしたいし」
「そっか……」
優愛の言葉に、優月はそっと手を振る。
「じゃあ、またね」
「うん!会えたら会おうね!!」
「それ絶対会わないやつ……」
想大がツッコミを入れつつも、彼女はふふっと笑った。
「小林先輩もまた!」
「あ、ああ……」
優愛は愛想よく笑い、階段を踊るように下って行った。
「じゃ、美玖音ちゃんの所行く?」
「行く!!」
「オイオイ……」
想大の豹変振りに、優月は少し呆れてしまった。
その頃、瑠璃と抹茶は友達と再会していた。
「瑠璃!来てくれたもんね!」
「抹茶、やっぱり来てくれた」
瑠璃に話し掛けるのはクラリネットの伊崎凪咲、抹茶に話し掛けるのは打楽器の初芽花琳だ。
「凪咲の演奏!とっても良かったよ!」
「ありがと。でも全国金行きたいし、もっと頑張らないと」
「そっか……。茂華高校は全国行くのが当たり前だもんね」
「去年は佐野業堂高校とかに、枠を取られたみたいだけど」
凪咲はそう言って肩をすくめた。しかし凪咲の実力は、一騎当千の強者と呼ばれるほどだ。
「凪咲たちなら、大丈夫」
「瑠璃……、ありがと」
瑠璃は凪咲へ応援の言葉をかけてあげた。
「花琳、コンクールの自由曲、めっちゃ良かったぞ」
抹茶が花琳の肩をつかんで、そう言った。
「……ありがと。結構頑張ったんだからね」
「ふふ、来年はドラム期待してるよ」
「私もやりたーい……」
花琳はそう言って、美玖音たちの方を見た。いつかできれば良いな、と思った。
その頃、想大は美玖音と再会していた。
「美玖音ちゃーん!ちょーカッコよかった!」
「ありがとう」
美玖音はにっこりと笑い返す。言われ慣れているからか、白い頬に変化はなかった。
「そういえば、優月くんは?」
「優月くんなら、体育館に行くって」
「体育館?私も行こうかな?いい?」
「おう、全然いいよ!」
「想大くんは面白いね」
美玖音はそう言って、想大と共に体育館へ向かう。
体育館――
『愛憎愛憎渦巻いて〜♪』
1年生男子だけで作ったバンドが、体育館を熱狂させていた。
優月は、白夜と優愛を見つける。
「あ、優愛ちゃん……と香坂さん」
すると、白夜が優愛の肩をたたいた。
「……優月くん」
すると優愛が、こちらへ手を振ってきた。白夜が優愛に知らせたのだろう。
「隣、いいよ」
「ありがとう」
優愛の隣に招かれ、優月は優愛の隣へ座る。
「優愛ちゃん、あのバンド凄いよね」
優月が同意を求めるように問う。
「うん。たたくってより、ペンライトを振ってるみたい……」
優愛の言葉はまさしくだった。
ドラムをたたく奏者は、あの鈴木優臣。通常より細く長いスティックを、鞭のようにしならせる。それは叩くより、閃光を走らせるような撓りと速度だった。
『逢いましょう〜!!♪』
演奏技術の切り替えの速さも、きっと才能だけでなく、努力あってのものなのだろう。優月と優愛は、レンガで殴られたような衝撃を受けた。
「……すごいね」
「ね」
優月と優愛が、優臣という少年を褒める。彼は、ただ強く打つだけでなく、手首のスナップを充分に利かせている。明らか、ただの経験者でないことは、火を見るより明らかだ。
「……それは、まぁ、元マーチングバンド日本1位の子だから」
その時、美玖音の声が、優月の耳を震わせる。
「…え、美玖音ちゃん」
「んあっ、」
それと同時、優愛が美玖音に頭を下げる。
「お、お久しぶりでーす!朱雀先輩!」
「あ、優愛ちゃんだよね?久しぶり」
優愛と美玖音は、2年前に会っていたことがあった。
「……嘘泣きしてた子……だったよね」
美玖音が過去を懐かしむように言う。
「あ、えへへ」
その言葉に、優愛はばつが悪そうに笑った。
「嘘泣き?」
優月は目を何度もパチパチと開閉しながら、優愛の反応を訝しんだ。
そして、バンドが終わると、優月たちは美玖音たちのクラスの出し物へと向かった。
出し物は、かき氷や焼きそばの出店だった。
「……ふー、体育館ちょっと暑かった」
「確かにね」
結局、優愛とふたりきりになり、ベンチへ座る。それでも優月は、いたたまれなかった。
「でも、白夜ちゃんたちがシフトで、私ひとりだったから助かったよ」
優愛はこう言うが、何だか申し訳なく思ってしまう。
「う、うん」
(……何だろう、優愛といるのも楽しいけど、なんだか……)
それに、胸の奥がなにかに焼かれているような感覚。まるで誰かに嫉妬されているようだ。
優愛といるのは楽しい。だが、内なる自分が何やら嫉妬……いや、焦っているような感覚がした。
「……そうだ、優月くん」
そのとき、優愛が答えを出すような口調で問う。
「瑠璃ちゃんとは……うまくいってるの?」
「……瑠璃ちゃん?」
(……そっか)
その時、ようやく優月は、違和感の正体に気がついた。瑠璃と一緒におらず、なぜ優愛といるのか。優月にとって、瑠璃の存在は当たり前となっていたのだ。
「……瑠璃ちゃんのこと……」
「?」
優月は無意識に何かを言いそうになった。
(そうだ)
瑠璃ちゃんの事が好きなんだ………。
優愛のように、優しくて明るい。そして打楽器が大好きで、部活や部員を愛している。
(……優愛と似てるんだ、瑠璃ちゃん。まるで優愛の妹……みたいに……)
底なしの優しさと、懐く彼女は、優愛のようだった。まるで、本当に優愛の妹みたいだった。
「……ねぇ、優愛ちゃん。僕、」
「ん?どひた?」
優愛は買った焼きそばを口に含み、こちらを見てきた。ソースが唇に付いている。
「……僕、」
「?」
優月は殴られる覚悟で言う。
「……瑠璃ちゃんのことが、好き」
「………」
優愛には伝えておきたかった。この事実を、今さっき気付いた事実を。
「えぇーっ…!」
すると優愛は、口に手を当て目を丸めた。
「…がち?」
「うん!」
優月は、優愛が何と言おうと、心の奥にある恋情を貫き通す。
「……ふふっ、瑠璃ちゃんは良い子だもんね」
すると優愛は、優しく笑い返した。好意的な反応で、優月は胸をなで下ろす。
「うん」
想大は瑠璃に未練がない。それは美玖音への態度で分かってしまう。傍から見れば『最低な男』と称されるかもしれないが違う。想大と瑠璃はお互い思いやった上で別れたのだから。
「……でも、優月くん、陰キャっちゃ駄目だよ。優月くんったら、中学の時に私に対して奥手だったでしょ?」
すると優愛が、忠告するように言う。
「……そ、それは…ごめん。そうだよね」
すると優愛の柔らかい手が、優月のだらけた手を取った。ふんわりと温かい優愛の手。
『……私が優月くんのことを、好きじゃなかったら、大変なことになってたよ』
「え……っ?」
その時、耳元で優愛がそう言った。
「……まぁ、がんば!」
そう言って優愛は、人混みに飛び込むように消えた。まるで、先ほどの言葉を無かったことにするように。
(………)
優月はその時、無性に喉が渇いた。
《かき氷、残り少しですよー!》
その時、目の前の出店が、そろそろ売り切れると告げてきた。
「……食べよ」
優月はベンチから腰を上げ、かき氷を購入した。
シャリ……
そこで食べたかき氷の味は、ほんのり甘かった。まるで両づる恋のように。
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【次回】 ホール練習スタート!




