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最終章 神の計略の答え合わせ その2

「僕達には自身の経験から、神の領域へ到達するために必要な条件の1つに目星があった。それは種族としての限界を超越した強さを手に入れる事。だから僕は突出して強き者を、英雄と呼ばれる程の逸材を効率的に生み出すための世界を創ったんだ」


「もしかして……ダンジョンや迷宮はそのために? ずっと思ってたんだ。ダンジョンや迷宮にある罠って、すごく人為的だなって」


 創造神クリエは少し驚いた顔を見せると微笑んだ。


「君は本当に鋭いね。傍から見れば丸わかりな事でも、それが当たり前の環境で育った者には疑問すら沸かないものなのに。ご明察の通り、それらは英雄候補を鍛えるための、いわば訓練場として用意したものなんだ」


 創造神クリエの側の視点に立ってみると、ダンジョンの不思議は不思議でもなんでもなかった。


 冒険者は強くなるためにダンジョンへ行く訳じゃない。


 一番分かり易い理由はお金だ。


 だって冒険心だけではご飯は食べられないからね。


 危険なだけでメリットがない場所には誰も行かない。


 つまりダンジョン内に現れる宝箱は、英雄候補を訓練場へおびき寄せるためのエサだったんだ。


「僕が生まれ育った世界ではロールプレイングゲームと呼ばれる遊戯があってね。世界を救う勇者を操作して、フィールドやダンジョンにいる魔物と戦い、武器や防具、道具を揃え、レベルを上げて最後に魔王を倒すのが目的なんだけど、僕はそれを参考にさせてもらったんだ」


 魔王を倒して世界を救う……?


「だからあなたは魔界を作って……人の世界を襲わせるの?」


 私は怒りが湧き上がってきて、思わず創造神クリエを睨んだ。


「天魔戦争の事を言ってるのかい? 確かに最後の試練として天魔戦争を起こすこともあるけれど、滅多に……というか殆どないかな」


「じゃあ、何のために……?」


「天魔戦争にはね、もっと重要な、あと2つの目的があるんだよ」


 もっと重要な2つの目的……?


「その1つって……ひょっとして人族の文明の破壊?」


「すばらしいね。正解だよ。よくわかったね」


 私は首を横に振る。


「そうじゃないよ。ヴァレンテイルが話してくれた事を思い出したんだ。高度な文明を手に入れた人族は自らの手で絶滅するって。あなたの目的を達成するための手段が英雄を生み出すことなら、人族に絶滅されてしまっては本末転倒だもの」


 創造神クリエが静かに微笑む。


「僕が生まれ育った世界はね、魔法は存在しなかったけれど遥かに進んだ文明と科学力を持っていたんだ。決して大袈裟ではなく、国家レベルならボタン1つで敵国を滅ぼせるほどの武力を持っていたんだ」


「人同士の争いが絶えない世界だったの?」


「いいや。世界は至って平和だったよ。紛争地域と呼ばれる場所もなかった訳ではないけれど、それは広い世界の中の限られた一部の話さ。多くの人が命懸けの戦闘なんて経験することなく、平和に暮らして生涯を終えていたよ」


「良い世界だったんだね」


「まあ……そうだね。ただ兵器が強力過ぎるせいで、個人レベルの戦闘技能は戦況にほとんど影響を与えなくなっていたんだ。個々人が武を極めるよりも、最新の兵器や道具の使い方をマスターする方が、圧倒的に戦力の増加に繋がっていた。それでは種族としての限界を突破することなんて、到底無理だと思わないかい?」


 確かにそうかもしれない。


 Cランク級の魔物に苦戦する兵士でも、大型魔導兵器を使えばBランク級の魔物を討伐できてしまう。


 もし小型の魔導兵器で大型魔導兵器並みの威力を出せるようになったなら、その差は更に広がることになる。


 そういうのは創造神クリエが求めているものとは違うものだよね。


「じゃあもう1つの重要な目的は?」


「魂の循環の活性化さ」


「魂の循環?」


 私は首を傾げた。


「『神の箱庭(セオス・ジラディーノ)』ではね、死者の魂を洗浄して新しい命へ転生させる『輪廻転生システム』を採用しているんだ」


「それってまさか……死んだら生まれ変わるってこと!?」


 私は腰を浮かせるほど驚いた。


「そうよ、ティア。だからね、貴女のお父さんとお母さんの魂も、前世の記憶は失ってしまってはいるけれど、新しく生まれ変わって今も世界のどこかで生き続けているのよ」


 レイスリーが優しい目をして言った。


 そうか……そうだったんだ。


 だから私は……。


 私は熱を帯び始めた胸を、手の平でそっと抑えた。


「死んですぐ生まれ変わる訳じゃなくて、一旦キューに入って生まれ変わりの順番を待ってからだけどね」


 創造神クリエが補足する。


「そしてここからが本題だ。『輪廻転生システム』はその仕様上、魂の総量が決まっている。誰かの死が、新しい誰かの生になるんだ。つまり神の箱庭(セオス・ジラディーノ)では、誰も死ななければ新しい命は生まれる事が出来ない」


 私はじわじわと、創造神クリエの言わんとすることを理解し始めた。


 人には得手不得手がある。


 誰もが英雄の素質を持って生まれてくる訳じゃない。


 つまり……。


「新たな英雄の種が生まれてくるように、戦争で多くの命を落とさせる事。それが3つ目の目的なんだね」


 創造神クリエは肯定するように私に微笑んだ。


「”天の神子”の素質を持ったものが生まれ育った時、あるいは人の文明や人口が一定の水準を上回った時――僕は魔界の大魔王へ啓示を与えて天魔戦争を起こさせる。特に文明を潰す場合は首都を徹底的に叩かなければならない関係上、投入する戦力を上げざるを得ない。そんな時は天界の大天使に啓示を与え、魔族がその国を滅ぼしてしまわないように抑止力とした」


 アップルティーをひと口啜った創造神クリエは再び口を開く。


「そうやって裏から間接的に世界に干渉し、バランスを取りながら効率よく魂を循環させ、新しい命、すなわち新しい神の可能性の種を撒き続けてきたんだ。それこそ神となった僕でさえ、気が遠くなるくらいの長い長い時間をね」


「……神の箱庭(セオス・ジラディーノ)って、いつ創られたの?」


「さぁ? 10万年を越えた辺りから流石の僕も数えるのが面倒になっちゃってね。たぶん20万年には届いてないとは思うけど、どうだろう?」


 話を振られたレイスリーは首を横に振った。


「私が知る訳がないでしょう。忘れたの? 私は『神器システム』の件で貴方に相談されてからの途中参加よ」


 レイスリーに苦笑いでたしなめられた創造神クリエは、ぽかんとした顔を見せた。


「あれ、そうだったっけ? ずっと一緒にやってきたから、最初から居たような気になっていたよ」


 創造神クリエが苦笑いをして頭を掻く。


 姿形も、そぶりも、私達人間と何も変わらないように見えるけれど、この2人は数十万年の時を平然と生きる神様なんだよね……。


「まあ、そんな長い努力の末に、ついに神の箱庭(セオス・ジラディーノ)に待ち望んでいた特異点が観測されたんだ」


 創造神クリエが、テーブルの上にちょこんと座っているタイガに目を向ける。


「それが君だ、タイガ・ガルドノス」

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