ペイジュへ その1
Bランク冒険者の3人が一様に考え込む。
しばらくしてレグランが言った。
「すまんが俺は、お前が求める有用な情報を持ち合わせていないようだ」
「俺もあんたの目的に沿う情報はもってねえなァ。俺の知る限り、ナザーユ雪山でダンジョンの噂は聞いた事がねえし」
ガッシュも続く。
「そっかぁ。何か知ってればと思っただけだから気にしないで」
「ティアズさんが探してるのは何かを祀ってるような祠とか伝承とか、そーゆうのでしょ?」
カリーナが言った。
「まぁそんな感じのかな? 場所に限らず、曰く付きの絵とか物、なんならダンジョンや迷宮、変わった建造物でもなんでもいいんだけど……ごめん、とりとめがなくて分かりづらいね」
言ってる自分が漠然としてるんだもんなぁ。
でもこれまで見つけた封印があった場所からは、共通項を見出せないのだから他に表現のしようがないんだよね。
強いて挙げるなら人気のない場所?
でもそんなのなんら範囲を狭める条件にならない。
というか7つの封印のうち残すところあと2つだよ?
ここまでくると実際は封印の場所には理由とか意味なんてなくて、単にタイガの躯体を封印した大天使の趣味や気まぐれなんじゃないかという気がしてくる。
だとしたら封印の場所に共通項を求めるのは時間の無駄だ。
「うーん……そういうのは私の村でも聞いた事ないなー」
むぅ。ナザーユ雪山に近い村で生まれ育ったというカリーナには、内心期待していたんだけどなぁ。
「でも私のお師匠さまなら、もしかしたら何か知ってるかもしれない」
「カリーナのお師匠さまって、魔法の?」
「そー。私のお師匠さまってフレイディールでは有名な魔法使いなんだけど、もう4年近く前になるのかな? ナザーユ雪山の観察をするためにわざわざ王都から私の村にやって来たんだよね。村には宿屋なんてないから私の家に寝泊りすることになってさ! あの時は驚いたな~。それからずーーーっと山を観察し続けてたから、きっと詳しいはずだよ」
「雪山の観察って、そんな仕事があるんだ?」
「さー? 大事な事だとは言ってたけど、詳しい事は弟子入りした後も話してくれなかったし。私は弟子にしてもらえた事がうれしくて魔法の勉強と訓練に夢中だったからねー。ホント、私はついてたよ。こんなことでもなければ田舎者の私なんて絶対弟子入り出来なかったし」
カリーナがうれしそうに笑う。
私なんてって言うけれど、カリーナの魔法の実力は努力だけじゃ届かないレベルだと思うけどなぁ。
「山の観察って、実際に上まで登ったりしたの?」
有名な魔法使いなら魔物を蹴散らす術も、身を守る術も持ち合わせていそうだ。
結構深いところまで足を伸ばしてないかな?
「お師匠さまは雪山には一度も入ってないよ。あくまでも観察だからねー。山の雲が晴れた日に裾野の端っこの方へ出向いて観察してただけだよ。こうやってね」
カリーナが両手を目の上にかざして覗き込む仕草を取る。
視野を狭めると遠くの物が見易くなるというけれど、したのは高名な魔法使いだ。
……もしかすると望遠の魔法を使っていた?
それも景色をただ眺めていたのではなく、観察していたとなると……。
「カリーナのお師匠さまに会ってみたいんだけど、どうしたら会えるかな?」
「それなら紹介状と地図を描いてあげる。ティアズさん、紙と書くもの持ってる?」
「あるよ」
私は肩掛け鞄から紙と羽ペンを取り出すとカリーナに手渡した。
「ティアズさんよろしいですか?」
かしこまって受付嬢が言った。
「こちらのキングデスストーカーの各種素材ですが、どうなさいますか?」
「手元に残したい物なんてないから、荷物にならないように全部引き取ってもらえると助かるんだけど……さすがにこの大量のお肉は処理しきれないかな?」
「おそらく問題ないと思います。この国にはお肉を長期保存する方法がいくつもありますから」
「ほんと? じゃあそれでお願い。あとはギルドのいいようにしてもらえるかな。運搬費とか色々全部お任せしちゃいたいんだ」
「よろしいのですか?」
流石にこの大きさだと私にも一度で運ぶことは出来ないからね。
かと言って街まで何度も往復するのは時間が惜しい。
なので申し訳ないけどまる投げにさせてもらう。
「予定より大分遅れちゃってるからね。旅を急ぎたいんだ。諸々の手数料で足が出なければ私は構わないから」
「かしこまりました。ではそのように手配させていただきます」
「うん。お願い」
「書けたよ。はい、ティアズさん」
「ありがとう」
カリーナから紹介状と地図を受け取る。
「あれ? 王都じゃないんだ?」
地図を見ると街の名前がペイジュになっている。
「お師匠さまは何時来るとも知れない人を待ってるらしくてねー。今はペイジュにいるはずだよ。もしも入れ違いで王都へ帰ってたら、王都の冒険者ギルドで聞いてみるといいよ。お師匠さまは現役のAランク冒険者だから、ギルドに頼めば繋ぎを取ってもらえるはずだよ」
「わかった。ありがとう、カリーナ」
「ガッシュさん、ちょっとよろしいでしょうか?」
受付嬢がガッシュの側へ近づく。
「あ? なんだ」
「明日の朝までこのキングデスストーカーの見張りをお願いできますでしょうか? もちろんこれはギルドからの正式な依頼です」
「魔物避けか。構わねえが、1つ条件があるぜ」
「なんでしょうか?」
「通常の報酬の他に、見張ってる間キングデスストーカーの肉食い放題をつけてくれ」
受付嬢が確認するように私を見る。
私は両腕を広げると、全部任せたんだからお好きなようにと手振りで答えた。
「わかりました。その条件でお願いします」
「よし!」
ガッシュったらうれしそうだ。
それにしても、あぁ見えて根は真面目なんだね。
そもそもガッシュ達がどんなに食いしん坊だったとしても、3食たべたからってキングデスストーカーの一番小さい足の爪1本分にも満たない。
はっきりいって無いも同然の誤差だ。
こんなにあるんだからちょっとくらいよくない? とか、どうせわかんないし? って感じで、黙って食べちゃう人もいるのにね。
「さて、お腹も膨れたし、そろそろシャンダサーラへ戻ろうか」
私が言うと若い男性騎士が立ち上がる。
「了解っす」
「あの、私もギルドまで送ってもらってもいいですか?」
「もちろんだよ。それじゃガッシュ達も」
「おう。肉は任せな。ちゃんと魔物から護ってやんぜ」
「お師匠さまによろしくねー」
「またな」
「うん。ありがとうね。また」
ガッシュ達がフレイディールを拠点としているなら、もしかすると再会する機会があるかもしれないね。
そんなことを思いながら、私は黒猫の姿になったタイガと一緒に馬車に乗り込んだ。




