敗北
開店してほどなく、教習所の時ドライブしたキツイ顔の男の子と、のび太が来店してくれた。なんと片道3時間かけて。他に友達2人、計4人での来店だった。私が水を持って行くと、のび太が隣の男の子を指差し、「こいつ〇〇乗ってるんだよ」と、言った。車種を言われたが全然知らないけど「へぇカッコイイね゙」と、私が言うと、その男の子は、テヘヘって感じで照れながら笑った。その男の子は、のび太よりおぼこくて、サラサラの坊っちゃんヘアに銀ぶちメガネで、カツオの友人の中島くんみたいだった。この県の男の子らは、見た目と乗る車のギャップがありすぎる。のほほんとした顔で、秒でマッハの世界へと、いざなうのだから。私は遠くから来てくれたのだからできる限りの楽しい会話をして、帰ってもらった。
そして一週間後、土曜日の1時頃ボーっと低いエンジン音がしてその車は、駐車場に入った。私が厨房の窓から見てみると、中島くんが車のバックミラーを見ながら、くしで髪を整えていた。また来てくれた。3時間かけて今日は一人で。「遠くから、ありがとう、今日は一人?」と、私が聞くと 「うん」と、照れながら言った。そして2時間ほどいて3時に帰った。 そして次の週のまた、1時頃やってきた。ボーっと低いエンジン音。駐車場で、バックミラーを見ながらくしで髪を整えて。また2時間いて3時に帰った。そして3回目。もしかして私目当て?。私は、背中まである縦巻きロールの髪に、赤、白、黒の派手な服。長身にもかかわらず、ヒールを履いてカウンターに立っている私を、いったいどうしたいの中島くん。 はてさて、どうしたものか。往復6時間かけて来てくれるのは、ありがたいけど、君とは、友達も無理そうよ。 キャラが違い過ぎる。私は悪いけど彼を少し下に見ていて、頭の中で笑っていた。
3時になり、帰ると言ったので私は
「もう少しいたら?」と、高飛車に言った。すると
「聖闘士星矢見ないといけないから帰る」と、言われた。 私は頭の中のうすーいガラスが、パリンと割れる音を聞いた。 負けた。聖闘士星矢に負けた。往復6時間の恋路より、聖闘士星矢への情熱の方が強かった。 その言葉を最後に中島くんは来なくなった。 聖闘士星矢からの敗北から、少したったある日、店の掃除をしていたら、電話がかかってきた。私はお気に入りの電話ボックスの受話器を取った。 電話の相手は、あのキツイ顔の男の子だった。彼はいきなりこう言った。 「〇〇(のび太)とT(私と教習所に行っていた女の子)あいつら付き合う事になった、オレ等も付き合わない?」だった。私は、あっち向いてホイでつられたように「いいよ」と、速答してしまった。んじゃ、みたいな感じですぐに電話も切られた。 それっきり、今に至る。 顔もろくにわからない。名前も知らない。OKしたものの、それっきり何もなく38年以上。オレ達付き合ってるよなって今頃出てきたらどうしよう。なんて冗談ぽく思ったり。いや待てよ、彼はあれから不慮の事故で、とか変な事も考えてしまう。 でもその当時の私は、彼の事より、テーブルの灰皿が無くなる事が気になっていた。子供の頃から手癖の悪い奴らを見てきたから、取られた事のショックはなく、いつなくなったかが、気になる。おかしい。客が帰った後皿を引く、その時、灰皿も見る。キレイなら洗わないし。しかし、気がつく時はいつも、掃除とかしていて、あれ?となるのだ。毎回客が帰ったあと確認する。しかしなくなるのはフッとした時なのだ。今のところ3個無くなっている。どうしたものか。




