開店でーす
開店20分前。カウンターに1人座り、丸い壁掛け時計を見た。重厚なアンティーク調の丸い壁掛け時計。絵が少し違う物を2箇所に掛けている。一目惚れで買ったお気に入り。実話プラスティック作りで激安だった。 営業時間はAM10時からPM9時。 父いわく、1階の母の店の客が小腹がすいたなので、ピラフやスパゲティなどを、注文するのではないかとの考えで、当面の間様子見の営業時間なのだ。大丈夫だろうか、1人での開店。仕込みは出来ている。試作品も作った。Wと2人家の台所で作っては茶の間に運び、また台所で作っては茶の間に運んだ。ナポリタン、ミートソース、山菜ピラフなどなど、最後お互い両手に皿をもって茶の間に行くと、ない。皿の上の物がない。2人は立ちすくんだ。マルチーズのタラちゃんだ。ヤツはもう隠れてどこかでぶるぶる震えているに違いない。試作品に集中しすぎた。いつもは警戒するのに。材料もないし、私達2人は「タラちゃんが食べたんだから美味しいに決まってるよ」なんていいながら無事だった両手の料理を食べた。
だから、大丈夫。大丈夫。 (あれ?待てよ、客第一号は誰だろう、イヤなヤツだったら嫌だな)私はふと思った。誰だろう。急に不安になった時、1階の玄関のドアが開いた。
ホットサンドやトースト用のパンを配達に来たFくんだった。Fくんは30歳くらい独身。東京の大学卒業後、そのまま東京で就職していたのだが、長男だからこっちに帰って来た。知り合いのおじさんと共同出資で食品雑貨のお店を経営していて、私は高校の時から店を利用していた。
野球をしていたと言うが、どちらかと言うと、重量挙げの選手みたいな体型で、母の店の客から「その太い腕、いいセックスアピールになるね」と、言われていて、(これが?まぁツボは人それぞれだけど)
少し気位が高い感じのFくん。なかなか好きになれない。妹の結婚式のスピーチで「妹をこの男に取られた」と言って会場をシーンとさせたらしい。冗談のつもりだったのに。と。よかったじゃないか、帰って来たんだから。
彼女もいない。高校の時、大失恋したとか、普段汽車通学で20キロくらいの距離を土砂降りの中、歩いて家に帰った。頭が真っ白で気が着いたら家だったらしい。なんか彼女の気持ちわかる。「コーヒーもらおうか」 へ?予期せぬセリフだった。マジで?
「Fくんが、お客第一号だね」 仕方なく言った。 「みたいだね」しれっと言った。 別に転がるほど感動しろとは言わない、せめて「やったぁ」くらい言えよ。
田舎の悪い所で、開店日は忙しいだろうからと、ぼろぼろの客の入りで、ゆったりとした開店日だった。何とか1人で1日を終え、手作りのプレートをクローズにして帰った。 そして次の日にはそのプレートは、無くなっていた。




