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第5話

私が幼稚園に入園して1ヶ月がたった。

2012年5月6日、日曜日。快晴。

この日は幼稚園の遠足であった。


この遠足では幼稚園側の企画として、親子での参加が推奨されている。子供同士の繋がりだけでなく親同士の繋がりも作るため、というのはあくまで表向きの理由。

本当は子供たちを見守る大人の目を少しでも多くするためだろう。


目的地は幼稚園から500メートルほど離れた『六本松公園』。この辺りで1番大きい公園だ。


前世の母の話では、この日に私はマイカと仲良くなったらしい。

私たちの繋がりもあり、私の母とマイカのお母さんは早速仲良くなっていた。


私とマイカは公園の隅っこにある大きな松の陰に体を寄せ合って話をしていた。


「お母さんたち仲良くなってよかったね」

「そうね」


マイカが口の中で飴玉を転がしながら言う。


「ところでミカ。YouTubeの収益の方はどうなの?」


この1ヶ月間で私は8つの動画を投稿した。

投稿するたびに他の動画の再生数も伸び、徐々に閲覧数が上がっている。


「今の所、合計で400閲覧くらい。高評価が35くらいで低評価は7くらいついてる」

「あら、いい感じじゃない」

「うん……でも低評価が意外に多くて」

「幼稚園生が動画投稿なんてしたら反感を買うのは当たり前よ。むしろ少ない方じゃないかしら」


そう言って微笑むマイカ。少し心が救われる。


「マイカの方はどうなの?」

「ああ、私ね。鍵盤ハーモニカを始めたわ」

「へぇ! やっぱり暗記って役に立つの?」

「そうね。一度楽譜と指の動きを覚えれば大概のものはいけるわ。最近は『熊蜂の飛行』が弾けるようになったわ」


熊蜂の飛行ってそこそこ難しい曲じゃなかったか?


「じゃあさ、本格的にピアノを習って見たらどう? 私の叔母さんがピアノ教室を開いているんだけど」

「あら、そうなの? じゃあ早速おねだりしてみようかしら」


マイカは顎に手を当て首をひねる。かわいいなコイツ。


マイカは月曜日に早速入会手続きを果たしたと嬉しそうに報告した。



〇●


それから1年が経った。


〇●


動画の投稿数は96本。

チャンネル登録者数は3万人を超えた。

おかげさまで一本動画を投稿するたびに5万円ほど稼がせてもらっている。ぐへへ。


口コミで話題になっているのか視聴数もうなぎ登りだ。

それに比例する形で素顔を見せて欲しいという要望も増えている。


さすがに両親は私にまるっと収入分を渡してくることはなかったが、おねだりすれば大体のものは買ってくれるようになった。


父の動画編集のクオリティも上がってきている。今は週に2回の投稿だができればもっと増やしていきたい。


なかなかいい調子だが、私の身近にもっとエグい奴がいる。


『今日お越しいただいたのは天才バイオリニスト 姫野舞華ちゃんでーす!』


金曜日のゴールデン番組に私の親友の姿があった。


「よろしくお願いします」


司会のお笑い芸人に頭を下げるマイカ。司会の芸人はマイカの礼儀正しさを絶賛する。


マイカは半年ほど前にYouTubeに自分の楽器を演奏する姿を公表した。


初めはハーモニカ。

次にリコーダー。

続いてバイオリン。これが受けた。


わずか5歳の少女が難易度の高い曲を弾きこなす。


日本だけでなく世界が度肝を抜いた。


『音は1度聞いたら覚えるんです。後は同じ音が出るようにバイオリンを弾くだけです。最初はゆっくりしか弾けませんが徐々になれれば弾けるようになります』


画面の向こう側でそう言って笑うマイカ。


彼女は音階を『暗記』している。つまりは絶対音階なのである。それどころか曲自体を覚えるため言わば頭の中に楽譜ができるようなもの。


その後ゆっくりと脳内の楽譜を読み解きながら自分の動作を覚えていくわけだ。


マイカはバイオリンでE戦場のアリアを披露した。


放送後マイカのアカウント登録者は17万人に登った。


●〇


「マイカはいいなぁ〜。たった半年で人気者になって。私なんか自信なくしちゃうよ」

「そんな事ないわ。ミカだって本当に歌が上手じゃない。まだそれに世間が気がついていないだけよ」

「でもでも〜」

「……そうね、強いてアドバイスをするなら投稿頻度を増やしたらどうかしら?」

「投稿頻度?」

「そう。私は毎日投稿しているでしょ。動画はやっぱり多ければ多いほどいろんな人の目にとまるものよ」

「そっか。じゃあ私も……と言いたいところだけど出来ないんだよね」

「あら?どうして?」

「ほら、私の動画って音源が必要じゃん。著作権に引っかからないためにも、オリジナルで作るしかないんだよ。でも、それをやってるのが叔母さんだから……」

「叔母さんの負担を考えるとこれ以上の頻度で動画の投稿はできないというわけね」

「うん……そういうこと」


「だったらさ……」


マイカはおもむろに言った。


「私とコラボするってのはどう?」

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