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第98話 事務所とジャンプ

 ステージ前に座りADの様に連絡事項をスケッチブックに書く吉田君からカンペが入り、話をまとめ一礼してステージを降りる。

 まばらな拍手を受けながら……



 講義も三十分ほどで終わり、重音雪さんとマネージャーと重音ちゃん専用メイドズが現れた。

 遅刻の理由も事故による高速の渋滞では怒るに怒れない。それを見越してスケジュールを建てなさいと言いたいが、絶賛売り出し中の新人アイドルだものオファーがあればできる限り出演させたいのだろう。

 土日はフルで仕事する重音ちゃんは少し痩せた気がする。ストレスから来るものじゃないといいが……


 「兄様申し訳ありません」と頭を下げる重音ちゃん。兄様呼びは孤児院に在籍中の為だ。

 年上の孤児院の子にも兄様と呼ばれている。その辺はもう中学生の時に慣れたので別にいいのだが。


 謝罪から始まった挨拶なのだが……

 「兄様……やっぱりお姉様とお呼びしてはダメですか?」


 うん、ダメだよ。


 「重音ちゃん、僕は男だからね。お姉様とは呼ばないでね」

 USAの姿で一緒にカラオケした時も同じ事を言っていた重音ちゃん。同一人物なのはしっかりと教えたのになぁ。


 「美しい君! 良かったら芸能界に興味ないかっ!」

 重音ちゃんを押しのけて僕の手を握り鼻息荒く血走った目で見つめてくるパンツスーツ姿の女性(重音ちゃんのマネージャー)さん。

 「君なら天下を取れる! アイドルから大女優までのステップアップを私にさせて欲しい! 絶対に君ならこの芸能界の覇者! いや、女帝になれっ」

 僕の手をブンブン振り力説するマネージャーさんの頭に重音ちゃん専属メイドズから丸めた文化祭のチラシでポコンと殴られ言葉が止まった。


 「何をする! 今大事なスカウトっ、だから叩くな!」

 数発叩いた後にメイドズが頭を下げ、

 「優様、申し訳ありません。この者はマネイジメントとしては優秀なのですが……昔アイドルを目指しており、挫折した今自分の得られなかった栄光を……」

 あぁ、はいはい。叶えられなかった夢を継いでくれる人を探していると。それなら重音ちゃんがいるでしょうに。


 「えぇっと、ですね。話は分かりました。それより重音ちゃんはライブに行かないと。ファンが待ってるよ」

 「はい、兄様! もし良かったら後で感想聞かせて下さい」

 ぺこりと頭を下げて走り出す重音ちゃんを見送った。

 「さて、初めましてですね。兎月優といいます。これでも七宝グループの会長をしています」

 話しながら秘書ちゃんを手招きした。

 「私は重音雪のマネージャーをしております田中花梨たなかかりんと申します」

 丁寧に頭を下げてくる田中さん。


 秘書ちゃんから名刺入れを受け取り、田中さんへ名刺を一枚丁寧に差し出す。

 「これはご丁寧に……うぇ!?」

 「あの何か?」

 何度も目を擦り名刺を見直す田中さん。

 「あのぅ……もしかして……うちの事務所の副取締役……」


 はい、そうです。

 アイドル事務所自体は母さんが立ち上げました。が! それをほぼ乗っ取る形で僕が副取締役として在籍しています。というか、いつか代表取締役の母さんを追い出すつもりです!

 事務所自体もまだ小さく従業員も二十名。アイドル事務所と銘打ってますがタレントさんも何人か他の事務所から移籍してきた。よし〇とから来たお笑い芸人さんなんかは手取りの給料に涙ながらに喜んだっけ……

 まだ起業して間もない事務所だが重音ちゃんのガンバリで、かなりの黒字経営させてもらってます。CMの出演料って凄いですね。


 「形なりにも副取締役なので、スカウトとかしないで貰えませんか?」

 「申し訳ありませんでしたぁ!!」


 それは見事なジャンピング土下座だった。




 時刻を確認。今十二時時四十五分……

 一時から女神降臨タイム。

 ダッシュで階段を駆け上がる途中で面白いものが見えた。


 家から家へと屋根の上を飛び回って逃げる田中美佐さんと、それを追いかける椿さん……


 その脚力はもう人間じゃないと思うよ。


 女神の控室に着いたのは一時十分前だった。



 お読み頂きありがとうございます。


 ポイント評価ありがとうございます。

 

 もうすぐ100話! 一話が短いので……


 これからもよろしくお願い致します。

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