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第97話 前座

 気を取り直して今日はクラスの展示を回ろうと、わんこと未だ眠る向日葵ちゃんと抱っこするお嬢にメイドゲレンデを誘った。が、校内放送で呼び出しが……


 「一年一組の兎月優さん、文化祭実行委員長からのっぴきならない事案が発生し、どうしても協力してほしいとの事です。つきましては校庭にある文化祭実行委員のテントまで至急お越し下さい。 繰り返します……」


 「何この放送……」

 今控室にいるメンバーで一番怪しい人を見つめて言うが、

 「わたくしは何も知りませんわ」とお嬢。

 「行くだけ行ったらどうだ?」とゲレンデ。

 もしかして椿さんと田中さんの暴走おっ駆けっこが原因とか? 何それ怖い。


 「取り敢えずゲレンデの言う通り行く方が良さそうだな。みんなはどうする?」

 「俺は行くよ。師匠と美佐さんの事も気になるし」

 「わたくしはここで向日葵ちゃんを見ていますわ」

 「わんこはどうす……」言い終わる前に手を握って来た。お手て繋いで一緒に行きましょう。


 チャイナ装備でわんこと歩く。すれ違う人からワーキャーの叫び声。

 そんなにワーキャー言わなくてもいいだろう女子。男子生徒も固まるな。通行の邪魔になるだろうが。


 叫び声を後にしながら校庭につくと、実行委員の吉田君が僕の前まで走って来る。

 「兄様すいません。ここだと人を集めてしまうのでこちらへ」と誘導された。


 吉田君も完全に孤児院の子達に洗脳されたようだ。

 以前吉田君の家庭の事情(第31話参照)で色々あり、それを解決してからは孤児院にある従業員用の社宅に家族で住んでいる。孤児院の子供達の世話も積極的にしてくれているのでアルバイト待遇です。

 いつの間にか僕の呼び方も兄様に変わってしまった。


 吉田君の案内を受け実行委員テントに入ると土下座してくる人が数名……


 嫌な予感がするよ~


 「あの~何故土下座?」

 吉田君へ尋ねるとあからさまに目をそらされた。


 「あの~そろそろ呼ばれた理由を聞きたいのですが」

 その問いに答えたのは先頭で土下座してくる男子生徒さん。制服のネクタイも黄色で三年だと分かる。

 「実は今日の十二時から校庭で行われるライブの事で問題が起きまして……」

 文化祭のパンフレットにもシークレットゲストによるゲリラライブと表記されていたな。校庭の真ん中にしっかりとしたステージが組まれ、ドラムセットやらマイクなんかも設置されていた。

 「そのゲストの方の遅刻が確定しまして……」

 遅刻ねぇ。

 「出来たら兎月さんに場繋ぎをして頂きたく……」

 場繋ぎ?

 うん? 何で僕が? まったく関係ないライブの前座を? 僕関係なくない?


 「あの~何で僕が場繋ぎをしないといけないのでしょうか?」

 土下座から正座に変わった男子生徒さんは頬をかきながら話を進める。


 「実はシークレットゲストは重音雪さんでして……今人気急上昇中のアイドルの方からゲリラライブをさせて欲しいと打診があり……ギャラや交通費からステージ建設費用すべて発生する金額も無償でいいと言われまして……実行委員や学園の方も許可したのですが……いざ蓋を開けたら遅刻と言う……」


 うん、確かに問題あるね。そして僕に関係ない話じゃないのも確かだ。

 ここはしっかりと尻拭いしましょうか……


 「分かりました。僕でよければ前座として何かします。この度は迷惑をかけて申し訳ありません」

 正座相手にしっかりと頭を下げて謝罪した僕に目をまん丸く開けた生徒さん達。


 謝罪しただけで驚かれるとか、僕は一般生徒さん達にどう思われているのだろうか? 学校で我がままだって言ったことないし、物凄く傲慢な男に見られていたら嫌だなぁ。


 「では、よろしくお願いします」と土下座で頭を下げる先輩方。

 世直し旅する水戸的な爺の気分です。





 さて、前座を引き受けたのはいいが、何をしてお客さんを楽しませましょうか。

 今の時刻も十一時四十分。

 何かを準備する時間もないし、ステージにはバンド用の楽器が用意されている。


 ここで歌うを選択するのは気が引ける。だってこの後、新人とは言えプロが歌うのだ。比較されたらそりゃ僕の方が格段に下手だもの。

 重音ちゃんの歌唱力についてはもちろん知っている。

 最近ではモデル撮影終わりに必ずと言っていいほどメイドズ演奏でカラオケ大会をしている。生バンドのカラオケを楽しそうに歌う母さんや秘書ちゃんそして重音ちゃん。もちろん僕もです。


 歌唱力で言えば、母さん>秘書ちゃん>重音ちゃん>僕かな?


 メイドズは褒めてくれるけどありゃ身内贔屓が過ぎる。正当な評価じゃない。

 そうか! メイドズ呼んで歌わせればいいではないか!

 でも、今いるメイドズは何故だか知らんがプロ級の歌声が数人いるし、重音ちゃんよりも澄んだ歌声で……あとから歌う主役を確実に食べちゃうよ。


 「優様、そろそろお時間ですが何をするか決まりましたか?」

 パイプ椅子に座り腕組みしてウンウン唸ってた僕に、メイドちゃんと秘書ちゃんが紅茶を持って現れた。


 「もう開始十分前です。何をなさるのですか?」

 「やはり歌われるのですか?」

 二人とも何か期待したキラキラした目で見つめてくるんだけど……カラオケはしないよ?

 「カラオケはしないからね。お~い、ゲレンデ~。ホワイトボードの大きいのあったら借りてきて~」

 テント入り口にいるゲレンデにお願いすると「おう」の言葉を貰い、スカートひらりと翻しながらダッシュでいなくなった。






 結果、何をしたかというと……


 『経済における株式の重要性とデイトレードにおける株式市場への影響』



 ホワイトボードに書きながら分かり易く講義したのに……

 

 はっきり言って盛り上がりませんでした。




 後日談。 


 この講義が動画サイトにあがり、謎の巨乳チャイナ美女経済を斬る! とか……

 再生数も三百万を超えた。


 ニュースなどでこの講義を経済専門家が褒めちぎってたりと……


 ニュースに使用された映像にはモザイクが掛かる僕の顔と、ついで紹介された重音ちゃんのゲリラライブ映像が……

 僕の方が大きくニュースに扱われたのは気のせいだと思いたいです。






 お読み頂きありがとうございます。

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