第52話 過去とunknown
Side 臼ちゃん先生
大分ましになった二日酔いの中、生徒の願書をチェックする。最近はセキュリティーが厳しく、よほどの事がない限り見る事が出来ない。
しかし兎月優くんに本気でテストを受けさせたいと職員会議で提案した所、校長があっさりOKしたのだ。
兎月くんの母校へ元担任に話がしたいと持ち掛けると、去年で定年退職したとの事。住所と連絡先を教えてもらい次の日曜日に会う約束までこぎつけたのだった。
三年間担任をしていた人だ。確実に助言が貰えるだろう。少なくとも私はあと半年以上彼の面倒を見る事になるのだ。どんな苦労をしたのかも気になる所である。
私が苦労した事案を上げるとまずはテストね。これが一番きつかった。お財布的にも・・・
次に上げるとしたら生徒会潰しね。学年主任と一緒に怒った後、PTAや警察も入る事件へと発展。本当に貧乏くじを引いた。
停学一ヶ月は甘いと思うが主犯格の副会長の親御さんが議員役員と言う事もあり軽い処分を下されたのだ。横領した備品も全て新しい物へと買い替えられた。もちろん費用は議員持ちでだ。
被害らしい被害があるのはこの二件だろうか。あとはファンクラブの事は被害でもないし、あのレトルトカレー(第30話参照)美味しかったなぁ~もうすぐ発売だっけ? 覚えておかなきゃ。
そんな反省をするうちに日々が過ぎ約束の日曜日が来た。
駅近くの喫茶店で待ち合わせをして現れたご老人。名を斎藤と名乗った。白髪頭にダンディーなおヒゲが印象的でブラウンのスーツがよく似合う。若い時はモテたのだろうか?
「本日はおいで頂きありがとうございます。連絡した通り兎月優くんについて出来うる限りお教えください」
「そんなに構えなくても。僕もね、三年前に同じ事をしたからさ。ふふふ、懐かしいものだ。」同じ事をした?あぁ、小学校の元担任へ相談したのか。
「そうなのですか。やはりそれぐらいの生徒だと言う事ですね」
「そうだね。ところで君は兎月優についてどこまで知っていますか?」
「知っているとは?」
「そのままの意味です。彼は秘密主義者だからね。君が知らない情報を漏らしたらどんな報復されるか怖いのもある」何よ報復って! そんなに怖い生徒だった?
「会社を経営している事と勉強ができる事。あとはモデルをしている事でしょうか?」
「ふむ・・・」この間がなんか怖い。私を査定されてるみたいだ。
「あと実家がラビットテールの本社だとかすごいお金持ちで孤児院を建てたとかも聞きました」
「そうですか。高校ではそれなりに話しているのですね」中学では話さなかったのか・・・
「他にも親友がいじめになった話も聞きました。その事を聞いて私のクラスは皆が友達です。絶対クラスにいじめは起こさせません!」少し熱くなってしまった。
「おや、その事まで話しましたか。信用されているのでしょうね。それなら僕の知る話も出来そうだ」さっきよりも表情が砕けたかな?
「知る話とは?」
「あれは中学二年生の期末テストの時です。当時の彼は少し心を痛めていて多大なストレスを溜めていました。長かった髪を肩口までバッサリ切って来たのです。
驚いて理由を尋ねると「すいません。話せるようになったら話します。今は振れないでください」そう突き放されました。
心配になり親御さんの所へ電話しても取り次いでもらえなく、メイド長と名乗る人が対応してくれました。
「優様が撮影中にハサミを使い自分で切り、もうモデルを辞めると宣言なさいました。それを受け奥様が自室に閉じこもり今日で二日目になります。先生にも多大な迷惑をかけ申し訳ありません」
そう言われたんだよ。だけどね僕は少し嬉しかった。やっと人間味のある彼が見れたと思ってね。
その頃の彼はストレスのはけ口が無かったんだろう。そのテストで初めて88点以外を取ったのだから。」
「すいません。88点以外とは?」
「そのままですよ。彼は入学テストから二年の中間テストまで、全ての教科が88点で統一されていたからね。高校ではそういった遊びはしていないのかい?」
嬉しそうな顔で聞いて来る。中学からテストで遊んでいたのか・・・
「はい、その事もあって今日助言を貰いに来たのです。テストの事ですが9教科使って80点から89点まで取り、得意げに「ストレートです」と言われました。こんな生徒初めてで・・・」
「あはぁははははははははは・・・今でも変わらないなぁ。この話だけでも今日聞けて良かった」
コーヒーを一口飲み息を整えた。
「そう話の続きだけどね。それからしばらくして彼も元気を取り戻したよ。話もしてくれてね。
「僕よりも母さんが子供みたいに部屋に引きこもって、一生懸命説得したんですよ。それでも出てこないからどうしようかと思っていたら急に出てきて「お腹がすいた」と一言言ってご飯食べに出かけたんですよ! 本当に自由な母なんです!」
この時も笑わせてもらったな。彼も一緒に笑たっけ。いや~懐かしい。まだ卒業して半年も経ってないのにな」この先生は兎月くんに信頼されているし信頼しているのだろう。私も頑張らないと!
「他には何かないですか?」
「まだまだ沢山あるが私が一番恐怖した事を教えよう」顔つきが変わった。周りの空気さえ下がった気がする。
「あれは中学二年生の三学期のテストだった。寝不足の彼がいつもと違って数学と英語で100点を取ってね。テスト上位者が発表される掲示板に初めて載ったのだよ。
これは生徒から聞いた話だが、半分寝ぼけてテストを受けて間違えて100点取ったと言ったらしい。間違えてだよ。この時はまだ笑顔だったんだけどね。この後が問題だった。
そのテストを作った数学の教師が彼の事を調べてね。小学校4年生の時に文部大臣賞を受賞した過去を見つけてね。
神童が現れた! なんて叫ぶんだよ。確かに凄い内容だった。
夏休みの宿題で提出されたそれは小学校四年生でありながら高校生徒が受ける模試でも結果が残せると言うもの。
常識を疑ったよ。
そのテスト結果も乗っていたが5教科受けてオール100点。全国一位だ。
そこから数学教師の勧誘が始まってね。「飛び級できるアメリカへ行くべきだ」とか「東大を目指したまえ」とかね。自分の理想を押し付けて兎月くんを追い込んだのだよ。その結果彼は・・・」気になる所で話しを辞めないで~~~
「彼は?」
「文部科学大臣から異例の人事を貰い地方へ御引越しされたよ。この事もあり神童騒ぎを起こす教師がいなくなったんだ。兎だと思って踏んだ尻尾が虎だったわけだ。ふふふ」
超こえーよ! なんで教育のトップが出てくるんだよ! マジかよ! ありえねーよ! そんなのどうしようもないじゃないのよ!
「結論から言うと兎月くんに全力でテストに挑んでもらう方法はないと?」
「いや、あるにはあるよ」にっこり笑う表情がなんか怖い。
「簡単だよ。彼は目立つのが嫌いなだけ。テスト上位者の掲示板に彼の名前を載せないと約束するだけで、案外簡単にオール100点見せてくれる気がするよ。彼は優しいからね」
「なるほど、その手があったか! ありがとうございます」
「いえいえ、困った時はお互い様だよ。それに今も伝説を作っているようで安心したよ」伝説ねぇ・・・
それから私は兎月くんに頭を下げ、先ほどの名を載せないのでどうかと頼み込んだ。結果はYES! 本当に元担任には頭が下がる。
これで今度は伊勢海老二匹を海老フライにしてやる!
Side 優
担任ちゃんから頼まれ渋々全力でテストを受けた僕です。
結果はオール100点。テスト上位者が乗る一位には僕の名が無くそこには、
Unknown
担任ちゃんよふざけてないか?
まぁここまではよかったのですよ。ここまでは!
そして今僕は何故か校長から表彰されています。全校集会で・・・
校長先生が見事にオール100点の事をばらし、表彰を勝手に行ったのだ。開校以来初だとかでさ・・・知るか!
表彰終わりに思ったのは、担任ちゃんの青い顔がよく見えた事と、校長は身内(第46話参照)じゃなかったのかよ! 身内ってだけで、僕の心情がわかってないのか?
掲示板の一位を飾ったunknownさんは中二病なのでは? という噂が早く消えますように・・・
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