第53話 七夕祭り
定期テストも終わり、夏休みまでのカウントダウンが近づく今日この頃。その前にあるイベントが七夕である。
「兎月は商店街の七夕祭り行くのか?」と普通。
「商店街の役員連中からは顔出す様に言われている。秘書ちゃんからも出てくださいと念押されたし、行くぞ」
「それならうちの屋台にも顔出せよ」
「普通の屋台? パン出すの?」
「ホットドックとアメリカンドックの屋台。小遣い稼ぎに毎年手伝ってる」
「わんこも祭り行く?」
食べていた卵焼きをモグモグごっくん「神林さんと行くよ」
「ゲレンデは?」
トマトを丸かじりする手を止め「俺は用がある。毎年師範の家に呼ばれててな」
「へぇ~」柔道やっていると言っていたし、その師範だろう。
それにしても七夕祭りか。夕方の天気予報では雨だったがアーケード街になったし中止は無いのだろう。ひとが集まるといいが。
そして放課後、秘書ちゃんの車に乗り商店街へ乗り付けた。
お偉いさんが集まる祭り実行本部に顔を出すと、相変わらずペコペコ頭を下げてくる議員方。それに一応対応して商店街会長と挨拶。屋根を建設したことを喜んでいた。
霧雨程度だが客足も悪くなく人の波が屋台へと寄せられていく。
挨拶も終わったし普通がいるだろうパン屋の前を目指す。途中この前のアイドルだろう声が聞こえ、ステージでライブを行っているようだった。
「おう兎月! よく来た!」
ホットドックと書かれた屋台から顔を出す普通に、青い顔したおじさんが拳骨を落とす。
「会長様、申し訳ありません」
「いえいえ、木村くんとは友達ですから。そう怒らないでください」
「いってえー。そうだぜ親父。いつも一緒に昼食う仲なんだからさ、ほら揚げたて」
普通から揚げたてのアメリカンドックを二本貰い秘書ちゃんとモグモグ。
「普通にうまい」感想が自然と出た。
「そうだろ。生地がいいからな!」自慢げな普通め!
二度揚げしているのだろうかカリカリふわふわだった。
「ほい、400円」
「タダでいいよ。前にお前んちで飯貰ったし気にすんな」
「そっか悪いな。そうだ、わんこは見たか?」
「拉致られるの見たぞ。お前の母さんに・・・」母よ、外でもお構いなしかよ。
「そうか、ありがと。ステージの方見てくる」
それだけ言って秘書ちゃんと商店街の先を目指す。多分だけど母は今日もステージに上がるだろう。
見えてきたステージには新人アイドルさんが振り付けを頑張りながら歌っている。そこはいい。
たださ、そのステージ近くの通路脇で、メイド姿で物販しているのが問題なんだ。
サイン入りCD、マグカップ、うちわ、サイリューム、ポスター・・・
完全に扱いがアイドルじゃねーか! 新人アイドルのグッツ売り場はないのに・・・
「秘書ちゃん、これは知ってた?」
首を横に振る秘書ちゃん。知っていたら止めてくれたかな?
「あっ兎月くん!」尻尾フリフリ近づいて来るわんこ。その奥で手を振るメイドズ。
「私達、メイプルシロップを覚えて帰ってねぇ~」どうやら新人アイドルは終わったようだ。
わんこの頭を撫でながら神林さん(DJ)と挨拶をした。
「ちょちょちょちょちょっ! いつの間にか進展してる!?」ナイスDJ。
わんこの頭を撫でない日は無い気がしている。もう自然と撫でる手が出る。
「神林さんは撫でた事ないの?」
「もちろんあるよ! 私だけの千和だったのに・・・まぁいっか! 私も撫でさせろ~」
二人仲良くわんこを撫でる。目を細め嬉しそうにするのが本当に愛らしい。母が拉致するのはどうかと思うが・・・
「ラビットテールでーーーーす! 今日は新曲『二人の帰り道』引っ提げ登場だーーーー!」
新曲まで用意してきたのか。それよりも何でうちの高校の制服をみんなで着てる! いくら美人でも無理あるぞ・・・
「兎月くんのお母さん凄いね」わんこ
「あれがお母さんなの!? どう見ても20代にしか見えない」DJ
「悪ノリが過ぎるよな・・・」
女の子目線で歌われる幼なじみとの帰り道を歌詞にした新曲は好評なようで、霧雨の中多くの観客を集めていた。




