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師匠の気持ち
この王国はおかしくなった。
10年前、新しい古代兵器が掘り起こされたと報告を受けてからは特に。周りの小国に侵攻し、古代兵器を使って焼き尽くしていった。そして犠牲になったのは年端もいかない子供たち。たくさんの子供たちがさらわれた。成長途中ゆえにいろいろな改造をしても、大人よりも受け入れやすいから。
今回も極秘の調査だった。しかし自分の弟子がへまをした。武術においては優秀な弟子はどこかぬけていることも多かった。とらわれたとされる場所は魔の森と呼ばれる場所にある研究所であった。
「そこにはいくだけでも犠牲が出る・・・。あきらめろ、カイエン。」
総司令の言葉は事実であった。そしてあの子が今も五体満足でいるという保証がなかった。あの子も若い。もう細胞レベルになっている可能性もあった。それでも、彼の母親から預かった大切な弟子を見捨てるわけにもいかなかった。助けには、自分一人で行こうと思った。
「水臭いな。」
荷物をまとめて本部から地下に出たとき、そこには弟子と同じ年の青年がいた。
「あのバカにはカリがあるからな。仕方ないから今かえしてやりますよ。」
そうして出てきた何人かの仲間とともに、魔の森を目指した。幸いというべきなのか、魔の森には警備兵はいない。それもそうだ。そんなのがいたら一瞬でいなくなる。天然の要塞なのだ。
やっと建物らしきところについた。
人食花に出会うし、野獣にも出会うしでさんざんだった。
「おれが一人で侵入する。」
おそらくその方が見つかりにくい。
「気を付けてください。ここにはたくさんの人形と呼ばれる子供たちがいるようです。」
「わかった。」
弟子のゼロを発見したとき、幸い彼はまだなにもされていなかった。心底ほっとした。点滴などのコードを抜き取る。彼の周りには実験に使われたと思われる子供たちが、さまざまなコードにつながれて、カラスの水槽に入っていた。中にはヒトの形をしていないものもあった。そうまでしていったいこの国は何をしたいのか。憤りを感じる。しかし、いまはゼロを助けることが先であった。
ばれた。
兵士がいない代わりにトラップが数多くあった。致命傷を避けつつ進むが何せ大の男一人をかるっていると、起動力が落ちる。出るときのルートはほとんどがつぶされている。仲間の声が思い出される。
人形たちが、放たれる。殺戮のために作られた子供たちが。
「くそっ。」
角を曲がったときだった。
「子供・・・・?」
ついに人形が来たのかと思った。とっさに戦闘態勢に入ろうとしたときに届いた声はまだ幼かった。
「その人おじさんの仲間なの?」
その子には意志があった。包帯だらけの傷だらけの女の子。人形ではないそう思った。その子は自らを意志のある人形と言った。きっと戦争に連れて行かれているのだろう。人殺しの目をしていた。
彼女は戦争以外はこの施設にいると言っていた。彼女はここから出してあげると言った。正直に言うと、彼女の目的がなんなのかわからなかった。ただ、このままだと確実に人形にまける。私は彼女についていくことにした。
彼女はすべてわかっているようだった。塀まで連れてきてくれた彼女は、ここに私の仲間がいると言ったのだ。叫べば、本当にいた。
「一緒に来ないか。」
そう言ったのは自然だった。彼女はきっとまだ大丈夫だ、意識があるのだから。子供として、まだ人生を楽しめると、そう思った。
「この子、首輪つきだ。」
彼女はこの施設から出られない。出た瞬間に俺たちを敵として排除するのだ。だから彼女は助けて、とも言わなかったのだと納得した。子供とは思えないほど凪いだ瞳をした少女。
「・・・お兄さん達優しいね。じゃあ、ちょっとお願いしていい?」
彼女は初めて嬉しそうに笑った気がした。
「なんだ?」
私は彼女に目線を合わせた。紡がれた言葉は私の、私たちの想像を超えていた。
「私より強くなってね。そしたら私を殺しに来てね。そしたら私自由になれるの。」
脳が理解を拒んだ。固まる私たちに対して、彼女は面白そうに笑っている。そしてさらにとんでもないことを言い始めた。
「私は古代兵器の一角神の目。 楽しみにしているよ。お弟子さんよくなるといいね。」
この森危険だから早く生きなよ。食われちゃだめだよ。
そういって彼女はまた森の中を戻っていった。
「カイエンさん、あの子。」
神の目、古代兵器の1つ。我々が奪取するか、壊すかの標的の1つ。
司令の言葉が思い出される。
――――――――適合者は殺せ。―――――――
強くなって、私を殺しに来てね。そういって彼女は笑った。