連絡が漏れていた少女が大変心配しておりました。
『続いてのニュースです、英雄の帰還から間もなく1年ということもあり、各地で盛り上がりを見せています』
BGM代わりに流していたTVから聞きたくないニュースが流れてくる。
こういう時に限ってテレビのスイッチがすぐには見つからない。
『政府は主催のイベント開催も検討しており、当日は英雄本人の登壇も実施する予定で―』
プツン、っという音は出ず、モニターは漆黒…ではなく、光沢した画面へ私の姿を映していた。
「はぁ…」
その格好には思わずため息が出てしまう。
友達とゲームするだけ、朝の段階では自分にそう言い聞かせたはずなのになぜ…
画面に映るのはやたら着飾った私だった。
ベッドの上には引っ張り出した服が何着も転がっており、足元にはリビングを片付けるために持ってきた雑貨の皆様がいくつか転がっている。
朝からいろいろあったせいか、今朝整えたはずの肩にかかる髪は少し乱れていた。
ベッドに散らかされていた服を片付け、ポスっとベッドへ倒れこむ。
「はぁ…」
改めてため息が出る。
倒れこんだ目線の先にあるのは、日常的には使わない少しお高めなコスメ。
少し目線を泳がすといつもは開けない引き出しから見慣れないレースが姿を覗かせていた。
「いや流石に」
誰に見られるわけでもないがベッドから立ち上がりそこだけはしっかりと片付ける。
今身に着けているものの方がよほど問題な気もするがそれは考えないようにしよう。
引き出しを片付け再度ベッドに横になる。
「わたし、ほんとうに鵜城のことが…」
その続きは口から出なかった。
既に知っているから、だからこそ。
「ん~~~っっ!!!」
改めて口にしようと思うと照れてしまい顔が熱くなる。
がばっと体を起こしぶんぶんっと顔を振る。
「はぁ、はぁ、散々本人に言っているはずなのになぜ..!」
私自身鵜城を…その…
鵜城に向けている感情がどんなものかは理解している。
ただの友人ではない、幼馴染や親友でもない。
「あぁ~~もうどうにでもなれ~~」
再度ポスっとベッドに倒れこみながら叫ぶ。
こういう時に一人暮らしをしてよかったと思える。
両親がいては叫ぶと何かしらの反応があってたまったものじゃない。
もちろん近所迷惑にはならないようには気を付けているが。
「あ、そろそろ家についたかなぁ~」
気が付けば鵜城が帰ってからすでに1時間が経っていた。
横になったままスマホに手を伸ばし、ぎりぎりのところで届かず結局立ち上がる。
ベッドに腰掛けSNSで
[無事帰れた?]
と、いつも通りのメッセージを送る。
そう、いつも通りの。
5分、10分と返信を待ちながらネットを泳いでいるが返信はまだない。
いつもなら
[帰ったよー]
や
[遭難中]
などの帰宅報告やふざけたメッセージが返ってくるはずだ。
「まぁそんな日もあるか」
そんな風に思いながらも確認の為
[そろそろ帰った?]
と、だけ連絡を入れておいた。
様子がおかしいことに気が付いたのはそれから30分ほどしてからだ。
[おーい][大丈夫?]
いまだに返信はおろか既読すらついていなかった。
こんなことは今までに1度も無かった。
何度か電話を入れているがそれにも無反応だった。
其れからも定期的に
[見たら返信して]
[寝てるの?]
と連絡を入れているが一向に返信がない。
「なんで…」
こうも連絡がないとまさかが頭をよぎる。
台風や天気が悪いという話は聞いていない、それに鵜城に限って交通事故ということもないはずだ。
そうなると
「まさかマスコミが…」
ここ最近はおとなしくなっているが、鵜城が帰還した当時は半ば拉致のような形での番組強制出演や、監禁状態での無理な取材が何度もあった。
先ほどのテレビでも帰還から1年と言っていた、特番の為に無理を押し通すテレビ局が出てくる可能性もあるだろう。
「鵜城…!」
スマホだけを握りしめ、私は家を飛び出していた。
鵜城の家までは歩けば30分ほどだろうか?走れば20分ほどでつくはずだ。
全力で走ったのはいつぶりだろうか、息も絶え絶えになり、何度か立ち止まりながらも走り続ける。
5分ほど走ったころだろうか?気が付けば雨が降っていた。
傘も持たず飛び出したため濡れながら走るしかなかったが、走って火照った体には少し心地が良かった。
だがこの焦りは洗い流してくれない。
そればかりか雨音は次第に強くなり周りの音をかき消していく。
そのせいだろうか、いやな想像ばかり頭に浮かんでくる。
雨か汗か、どちらかもわからなくなったころ、ようやく鵜城の家、マンションに着いた。
「どうか…」
鵜城の部屋番を押してチャイムを鳴らす。
1秒が10秒にも、1分に感じられるほどに長く感じた。
時計で1分ほど経過していたが返事はなかった。
[今家の前だけど家いる?]
確認のために再度メッセージを送る、がこちらも最初に送ったメッセージから既読が付いていなかった。
その後も何度かチャイムを鳴らすが反応はなかった。
他の居住者の方がオートロックを使うため、エントランスにあるベンチに座り込む。
何度か電話もしてみるが相変わらず返信はない。
気が付けば足元には服から垂れた水で水たまりが出来ていた。
ベンチも濡れてしまっている、後で拭かなくては…
そんなことを思ったその時だった。
ブーブーっとスマホのバイブレーションが鳴る。
ぱっとスマホの画面を見る。
そこに表示されていたのは探していたその人、鵜城からの着信だった。




