To. 俺を選ぶアホ共へ
「あー、彼女が欲しい…付き合いてぇ…」
冷房が効いた部屋でコントローラーを操作し、空下を叩きこむ。
「クッソおま…、はぁ、いっつもいっつも彼女ほしい、付き合いたいっていうなら、これまでに告白してきた子たちと付き合えばよかったんじゃない?」
復帰阻止されたキャラはあっけなく撃墜、ゲームセット。
涼はコントローラーを握ったままソファーにもたれかかる。
「わからんかなぁ~、そういう問題じゃないんだよ」
「なにそれ、いいじゃん、あれだけ告白してきた子がいるなら中には好みの子もいたでしょ?」
「そらいたよ、でもな、違うんですよ、そうじゃない」
「関係性の問題?」
「なくはない、が」
なんといえばいいか言葉に迷う。
言葉にしようと思うとなんといえばよいのだろう。
「さすが世界を救った英雄は要求がお高いことでw」
「だーかーらー、まあいいや、はいはい、救った救った」
「あー、すぐそうやって言う、救ったのは事実なんだからそろそろ受け入れなよ」
そう言う涼にあきれ顔して教えてやる。
「あのな、何度も言うが俺は「異世界を冒険しただけで、世界なんて救っていない」」
だろ?っと言いたげに涼はこちらを見てくる。
「はいはい、じゃあ今だけ救ったってことにしておくよ」
そういいコントローラーを置く。
「あれ、もう帰んの?」
「言ってなかったか?今日も家に出版社の人が来るらしくって、一時ここに退避させてもらってただけだって」
「ここはシェルターじゃねえんだぞ…で?返事はどうすんの?」
俺は帰り支度をしながら
「これも同じだよ、世界を救ってなんかいないんだ、伝記だか自伝だかなんて書けないよ」
「じゃあな」といい部屋を出て玄関に向かう。
「ちょいまち」
っと涼が言う。
「これ」
そういうとてっきり忘れていたスマホを渡してくれる。
借りていた充電器に刺しっぱなしにしていたのを失念していた。
「あー、すまん、じゃあ今度こそまたな」
「あのさぁ」
そういう俺を涼は再度引き留める。
「彼女が欲しいなら…私じゃダメ…か?」
涼は俺の手を引く。
「涼…」
俺は涼の顔に手を当て…頬に塗っている濃い目のチークを指で拭い、指先を涼に見せる。
「まーたいつもみたいな適当な告白紛いの冗談言いやがって…」
てへっといった感じで舌ペロしている、これはかわい子ぶってるわけではなく俺を馬鹿に、おちょくっている合図だ。
「ったく、しかもチークなんて使っていつもより手が込んでるな今回は」
「よよよ~、通算30回目の告白も断られてしまいました~、あれ?前回も30回って言ってたから31回目?」
落ち込んだ振りをする涼が作り涙を流しながら笑っている。
「またそれか、お前も飽きないな」
「いじりがいのある相手はどれだけ弄っても飽きないものなのですよ」
ケラケラ笑う涼を見てほんの少しだけ心配になる。
「ま、お前も俺なんか選ばず、まともな奴と付き合えよ」
俺みたいないつ首を切られるかわからないフリーランスなんかよりも。
「それにいつも言ってるだろ」
そう前置きをしてから俺は玄関を出る。
「彼女は欲しいが俺を選ぶアホとは付き合いたくない」
これが俺、間宮鵜城の休日の一幕だ。
英雄!間宮鵜城の半生展!
家に帰る道中、許可を出した記憶もないイベントが行われているのを見つける。
というかそもそも何に対しても返信しないようにしている、さらなる誤解を招くといけないからだ。
「この道はやめておくか…」
イベント会場の近くを通らないよう、道を改める、がそんなイベントをやっているのであればもちろんそのイベントに向かうものもいるわけだ。
チケットかパンフレットを持ったファン?のような人々がこちらへ歩いてくる。
逃げ道はない、この手の輩につかまると大抵面倒なことになるのがこれまでの経験則だ。
幸い少し戻ったところにコンビニがあった。
「逃げるが勝ちだ」
来た道を少し戻りコンビニに入る。
「らっしゃっせー、ん?」
一瞬店員と目が合い、さっと陳列棚の死角に入る。
不審な挙動ではあるが騒がれるよりかはましだ。
雑誌棚から外を見ていると先ほど前から歩いてきていたファン?達は過ぎ去っていった。
ふぅ…っと胸をなでおろしふと雑誌棚を見る。
『事実!間宮鵜城の偉業10選!』
『英雄 間宮鵜城の歴史に迫る!』
勘弁してほしい…
一度だけ中身を見たことがあるが中身はすべてでまかせだった。
異世界と現実世界を救った、異世界の王となったが現実を救うために戻って来た、異世界に行ったのは世界を救うためだったなどなど…
「出版社の妄想力には目を見張るものがあるな」
そういい雑誌コーナーを後にする。
何も買わなくてもいいが…逃亡先に使わせてもらった恩もある、水だけでも買っていくか。
ペットボトルの水を取りレジに向かう。
「118円です」
店員がそういい、金を出そうとした時だった。
店員が自分のカードを端末に当てる。
「え?」
思わず顔を上げて店員の顔を見る。
すると彼はこちらにウインクをしてきた。
「英雄におごったことがあるって、友達に自慢させてくださいね!」
そう小声で伝え、「ありがとうございましたー」と店員は続けた。
「は、はは…」
思いもしなかった出来事にあっけを取られながら店を出る。
やはり俺を英雄だと思うようなアホとは、付き合えそうにない。
家に近づくとちらほらと商用のバンやワゴンが見えてきた。
「今日もまだいるか…」
ふぅっと息を吸い込み覚悟を決める。
うおぉぉぉぉ!!っと声には出さない闘志を燃やし、家に向かって残り200m程度を走り出す。
もちろんこの方法は目立つ、目立ってしまうが…
「いたぞ!」
「間宮だ!」
「追え!スクープを独占するぞ!」
50mほど走っただけで後ろには3人ほどの記者、カメラマンが付いてきている。
当初はヒールを履いていた記者も、長いこと逃げていたせいかいつからかランニング用シューズに代わっている、何たる執着心か。
「勘弁してくれよ…」
さらに50mほど走ってからか、ふと背後を振り変えるともう7人?ほどに増えていた。
いくら世界を救った英雄だとしてもここまで人は集まらないだろ、というかカメラマン、あんな重いカメラ担いでよくこれだけ走れるな、純粋に怖い。
「はぁ、はぁ、クソついにダメか…」
俺も異世界から帰ってきてすでに1年、あの冒険の中で培われた体力はすでに失われつつあった。
「く…そ……あれ…」
心臓の音がうるさく、周りの音に気が付くのが遅れた。
気が付けば周りの声は少し遠ざかっている、いや、声自体はいつもよりにぎやかだが…
そう思い振り返ると少し離れたあたりで緑色の迷彩服をまとった人々が記者などを食い止めていた。
「え…どういう…?」
はぁ、はぁ、っと肩でしている息を少し整えながらあたりを確認する。
すると向かいの迷彩服バリケードの隙間から1台の車がこちらに近づいてくる。
その車には地名などはなく、ただ6桁の番号が掛かれている、つまり
「自衛隊?」
そうつぶやくと車は目の前で止まり、一人の男が下りてくる。
「正確には防衛省かな」
男は車から降りるなり俺のつぶやきを少しだけ否定する。
どちらでもいいだろ。
「あなたは…?」
何度かテレビで見たことがあると思う、記者会見や訓練体験をしたというニュースで。
つまり記憶が間違えていなければ―
「防衛大臣の大泊翠樹だ、安心しろ、我々はの味方だ間宮鵜城君」
そう言い男は手を差し出す、俺はその手をあえて無視し「要件は?」とだけ聞く。
「そうだな」っといいわざとらしく男は悩んだ振りをする。
「ああ、思い出したよ」
そういい男はこちらに再度手を差し伸べた。
「君が英雄ではない、それを証明させるためにここまで来たんだ」
俺を選ぶアホとは付き合いたくない――が、少しはまともに話せる奴がいるようだ。




