プロローグ
魔女戦争――
長きに渡り王国は、“厄災の魔女”と呼ばれる大魔法使いの侵攻に晒されていた。
その爆炎はいくつもの街を焼き払い、雷撃は屈強な騎士団を丸ごと灰にした。王国はまさに存亡の危機にあった。
だが希望は残されていた。
王国には“対魔女の最終防衛”として、人々を守護する聖女がいたのだ。
その魔法の盾は嵐を退け、癒しの光は戦士たちを奮い立たせた。
長き攻防の果て――聖女は魔女の無慈悲な一撃に倒れながらも、命と引き換えに奇跡を起こし、魔女の弱体化に成功する。
その後を継ぎ、新たな聖女となったのが一人の少女。彼女は残存兵力を率い、ついに魔女を撃退した。
かくして、王国は救われたのであった――らしい。どうやら。知らんけど。
俺はいま、その“厄災の魔女”とやらの体を借りている。いわゆる異世界転生というやつだ。
先代聖女が放った最後の奇跡だか何だかで魂が入れ替わったのだろうが、詳細は一切不明。
ちなみに前世はただの社畜。思い出せるのは、ブラックという言葉が生ぬるい、光すら逃れられない漆黒のデスマーチ。
過労死かもしれないし、そうでないかもしれない。いまさら、それはどうでもよかった。
そんなことより問題は――
俺には魔法の使い方なんか分からないということだ。世界最強の魔女だとか言われてもな。
「ステータスオープン」「ファイアボール」。思いつく限り叫んでも煙ひとつ出ない。
そんな状態で、新しく聖女に就任した小娘が率いる軍団を前に、俺は脱兎のごとく逃げ出すしかできなかった。
……それは、そうだろう?
その後、命からがら追っ手から逃げ延びて、何とか国境を脱出。今は人里離れた地で隠遁生活だ。
生活用品一式が魔法のバッグとやらに収納されていたのは助かった。
幸い、協力者もいた。頼りになる……かどうかはともかく。
しかし助かったところで、俺はまったくの無力なのに評判だけは最悪。このままひっそりスローライフ……。それも、仕方がないか――そんなことを思っていた。
アイツがやって来るまでは。




