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モリカワールド  作者:
寄生生命体編
12/30

第11話 宇宙大戦争回避する!

「え、えー!?」


 怪我をしている。駆け寄ろうとしたモリカを、ピュノの手が力強く引き戻した。

 直後、謎の黒づくめの集団が例の奴に斬り掛かる。それを奴は素手であしらい、圧倒的不利かと思われた形勢を逆転した。分の悪さを悟ったか、建造物の陰に退いていく黒い集団。それを例の奴は追っていった。

 残ったのは、一つのおにぎりと静寂。


「どういうッ……こと……!?」


 モリカの記憶が正しければ、奴は裏通りの喫茶店で修行中の筈。それが何が一体どうなればああなるのか。


「あいつめ……あれ程に奴等と関わってはいけないと言いましたのに……」


 ピュノがまた何か言っている。いい加減モリカはピンときた。そう、敵組織である。そして肩の存在を再度思い出した。


「争いが争いを生む……争うことでしか理想を目指せない生き物達……」

(やばいやばいやばい。みんなが楽しそうな場所。みんなが楽しそうな場所……)


 モリカは一生懸命考えた。もう失敗の許されない追い詰められた状況。これまでの全ての人生から浮かんでは消えていく無数の記憶。その極限の中でこそ働く生存本能が閃かせた、神の采配。

 ≪天楼≫。


「お、旦那良い飲みっぷりだな!」


 朝っぱらから楽しく飲めや歌えの大騒ぎ。そんな場所、他にない。座布団を何枚も積み重ねた上に座す、エウティミオの空になった盃に酒を注ぐテイエンが朗らかに笑った。彼の後方では自由な客達による宴会芸が始まっている。


「これは旨い酒であります。料理も素晴らしい!」


 刺身や煮付け等を口に放り込み、丹念に味わった後、酒を煽り突然神妙な切り口で話始めた。


「否、このような事をしている場合に非ず。小生には果たすべき使命が」

「まあまあまあまあまあまあ!」


 ワインのコルクを爪で弾いたテイエンがエウティミオのグラスに酒を注いだ。実はこのテイエン、モリカから事情を聞き手を組んでくれていた。それに心から感謝しながらエウティミオの小皿に料理を盛っていくモリカ。


「ほら、あいつらを見てくれ」


 そう言って彼が示したのは座敷の奥の方で盛り上がる一団。その中でエイリアンとしか表現のしようがない男が一升樽を抱え込んで立ち上がった。

 その樽を彼は、一気に煽る。


「飲め飲め~! 一升樽飲んだれ~!!」

「ガハハハハ!!」


 次にテイエンは向かって左の方の一団を示す。そこではぽっちゃり体型の男が勢い良く袖を捲っていた。現れたのは段になったぷるんぷるんの腕。


「一芸やります。ちぎりパン!」


 そしてテイエンの視線はエウティミオへ戻る。


「楽しそうだろ?」


 それはそうだけれど。

 しかしモリカは頼んだ手前口を出さなかった。


「使命は大事だが、そればかりだと疲れるだろう。時には肩の力を抜いて、色んなものを楽しむことも必要だと思うぜ」

「う、うむ……そうであろうか」


 酒の力も合間ってかテイエンの自信に満ちた弁に揺らぎ始めたエウティミオ。そこへ料理の追加にタクとリクが現れる。最早何の食材だかよく分からないが華やかな料理を並べたところで、思いもよらないことにエウティミオは彼等へ声を掛けた。

 下がろうとしていた二人は足を止め彼に耳を傾ける。


「見たところ、我が母星の常識に照らせば貴殿らはまだ働くような齢には見えませぬ。本来なら庇護されるべき存在なのでは……。辛くはありませぬか」


 持ち主たる楼主の前で、此奴何を、とモリカは思ったがエウティミオの疑問は尤もであり、テイエンも些細な事を気にする性質ではない。だから黙って事の成り行きを見守ることにした。

 問われた二人といえば互いに視線を交わし、タクが答える。


「故郷じゃ、孤児を受け入れてくれる人なんていなかった。大人は戦争に夢中だったからな。そうじゃない大人だっていたけど、赤の他人に割く心なんてなかったさ」

「やはり――」

「でもさ、この街は。この天楼は受け入れてくれたんだ。居て良いって言ってくれたんだよ。どうせ色んな奴がいるから、どこ行ったってただの一人になるってな」


 何か言おうとしたエウティミオを遮ってまでタクが言葉を重ねるのは、きっと伝えたいから。エウティミオやモリカの常識から見たら憐れなのかもしれない。けれどタク達からしてみれば当人にしか分からないものがあるのだと。外から見れば思うところがあろうと、幸せは、結局他人が決めるものではないから。


「それに働いてばっかりじゃないぜ。学問優先だし、非番の時は酒は飲めないけど宴会だって参加出来るし」


 タクに同意を求められたリクが頷く。店名は変わろうと遊幻廓の設定は生きているようで、一定の年齢になるまでは店の大人達が必要な教養の面倒を見るのだろうと思われる。彼等は家族同然だから。ここが帰るべき家だから。

 しかし本来なら遊幻廓に来た時点で辛い過去は忘れる筈だが、さくらの件といい何もかもが本来の設定通りではないのがこの街らしい。


「オレ達はテイエンの作ったこの家が好きなんだ」

「タク! リク……!」


 感極まった様子でテイエンが二人を抱き寄せる。可愛い弟分と妹分にこう言われれば無理もないだろう。モリカは己は決して入れない彼等の絆が少し羨ましかった。


「そうでありましたか……。己の物差しのみで測ろうとしたこと、恥じ入るばかりでありまふ。テイエンラン殿も、せっかく用意していただいたもてなしの場に水を差して申ひ訳なかった」

「とんでもない。使命を果たし、高潔であろうとするその大志、まこと尊敬の念を禁じ得ない」


 情が芽生えてきた様子のテイエンには悪いが、だいぶエウティミオの呂律が回らなくなってきたのでお暇時かもしれない。


「小生も、更なる自己研鑽に努めなへればなりまへんな~」

「モリカ。こちらの御仁はしばらくここで預かっても良いか? 休む部屋にご案内差し上げる」

「かたじけのうございます」


 テイエンが懐っこい良い人で助かった。龍だが。それに、これで街の平和はひとまず守られたであろう。

 宇宙大戦争にならなくて本当に良かったと胸を撫で下ろすモリカ。

 しかし、こんなものは本日の序章に過ぎなかったのである。それにモリカが気付いたのは、テイエンに見送られ天楼の門を潜った時だった。

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