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クロ、頑張る

「悪いね。ずっと袋を被ってるのはしんどいだろう。でも、それは君のためでもあるんだ。僕たちの顔を見たら、そのせいで君に危険が及ぶからね。何も見ない方が安全なんだよ」


 カエルと呼ばれる男が話しかけてきた。


「私のことをなぜ拉致したの?」

「僕たちの作ったアレを見ることができて無効化もできる魔法使いがいると聞いたからね。仲間にしようと思ってた。でもまさか、異世界から来た魔力無しとは思わなかったな」


 カエルは会話が上品だ。貴族なのかな。


「私、ずーっと考えていたけれど、あなたたちの目的がわからない。魔力を奪っても一日か二日寝ていれば回復するのに、なぜあんなことするのかしら」


「それを君に教える理由がないよ。君は領主や王宮の魔法使いと繋がっているんだろう?だけどこんな目に遭わせているから少しだけは教えてやろうかな」


 カエルが椅子に座った気配がした。


「僕らは魔法が使える。しかしこの国で望まれる攻撃魔法はほとんど使えない。魔法探知を邪魔したり、他人の魔力を吸い出して捨てたり、わずかに水魔法が使えたり、弱い火の玉を出したり、弱い風を吹かせたり。そうそう、ここを守る程度の弱い結界を張ったり。そんな連中の集まりなんだ」


「でも魔力があるならこの国では無いよりいいんじゃないの?」

 

「中途半端な魔力を持つとね、貴族としては役立たずと言われ、平民からすると魔力持ち。どちらからも仲間外れさ。特に吸廃魔法使いは、犯罪者を相手に働く穢れた魔法使いとして見下される。吸廃魔法は法の秩序を維持するのに必要不可欠なのにね」


 カエルの声には静かな怒りが滲んでいた。


「だから僕たちは虐げられるだけの存在であることをやめることにした。僕が話せるのはそこまでかな」


 国家の制度に逆らうということだろうか。クーデターを起こしたいってこと?他人の魔力を吸い出すだけじゃ無理でしょうに。




♦︎




 ここに連れてこられてからどれくらいの時間が経ったのかわからない。何日かは過ぎてそう。食事の時でさえ袋を被ったままで、私の近くには常に人がいた。ずっとベッドの上にいることを要求されている。


 視界を遮られるって、本当に何もできない。時間の感覚もなくなる。見張りの隙を狙う事もできない。


 仕方なくそっと全身の筋肉に順番に力を入れて刺激した。いざというときに歩けなかったり走れなかったりするようでは困る。


 が、今朝から人の気配がしなくなった。ついに油断したのか。


「トイレに行きたいです」

と声をかけたが返事も無い。誰かが動く気配もしない。よし、チャンス!


「クロ、声を出さずに毛布の中に現れて」

 おなかのあたりにクロが現れた。使役鳥は使えないらしいけど、魔物はどうだろう。結界を抜け出ることはできるのだろうか。とりあえず私の所に来ることはできたが。


「私の居場所をヴィクターに知らせて連れてきて」


 クロは私の手の甲をぺろりと舐めてからいなくなった。しばらく待ったけど、戻っては来ない。よし、魔物は結界を通り抜けられるようだ。たぶんもう大丈夫。きっとヴィクターとポーリーンさんが助けてくれる。


「食事だ。袋を被ったまま食べろ」


 夜になって木のトレイを渡される。袋の下の方はそのままだから顔の下の方だけは見える。今日は野菜のスープとパン。ひと口も残さず全部食べた。逃げるにも体力は必要だもの。


 食事を運んで来た人はドアの向こう側で見張っているらしい。誰かと会話している声が聞こえる。私はそれに聞き耳を立てながら運動していた。


 運動しながら彼らの言い分を考えていた。


 貴族からも平民からも仲間外れ。そのつらさを少しなら理解できる。でも、魔力を一時的に奪ったところで時間が経てば回復するなら、彼らは自分たちが万が一天下を取ったところで、ずーっと一流の攻撃魔法使いたちの魔力を吸い出し続けなくてはならない。無理じゃない?


 それに、平民からしたら自分たちには関係のない魔法使い同士の揉め事だ。国を守ってくれる強い攻撃魔法の使い手がいた方が、安心して暮らせる。カエルやヤマネコたちが上に立ったとしても、それを支持してくれる平民なんているのかな?


 私にはどうも彼らの計画がずさん過ぎるように思える。みんな若い人ばかりで勢いで突っ走ってるのだろうか。


 ある日、カエルが食事を運んできた時に話しかけてみた。


「あの。天下を取らなきゃ負けって思う必要はないんじゃない?それぞれの役に立つ場所を見つけるなり作り出すなりして生きるのも一つの方法じゃないのかしら」


「異世界から来たあなたには僕たちの苦しみは理解できないんだよ」


「私のいた世界も完全に平等な国なんて無かったわ。他人を見下す人はいたし理不尽なこともあった。でも、少しずつ時間と労力をかけて多くの人の理解を得る努力をして変えていた。あなたたちがいきなり偉い人たちを攻撃しても、問題は解決しないと思うけど」


「ふん。君が言ってることは全くの綺麗事だね」


 カエルはそう言って出て行ってしまった。そう言われるとは思ったけどね。いつか思い直すきっかけになったらいいな、くらいの気持ちで言ったんだから落胆なんてしないけどね。



 私はベッドに仰向けになり、腹筋を鍛える運動を始めた。クロは無事にヴィクターたちの所へ着いたかな。上手にここまで誘導できるかな。


 

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