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防衛戦

 うっそ、あれに追いつくってやっぱルキア化け物かよ!! わたし以上にヤバい化け物なのだ!


「ははははは! もう逃がさないよ!」


 ひ、ヒカリ! 早く逃げるのだ!!

 捕まっちゃう!


『お、おう! 行くぞ!』


 再び音速で飛び立とうとするヒカリ。

 休み休みとはいえ、一応はヒカリの方が速く飛べるのだ。だから一度飛び立ってしまえばまた距離を置ける――と思っていたが……


 〝神縛の鎖(グレイプニル)


「なんだこれはっ!?」


「はは、言ったでしょ? 逃がさないって」


 ヒカリの右足首に、金色の鎖が繋がれていた。鎖の先はルキアの手の中に繋がっている。鎖に触れてみると、金属のような質感がしたらしい。

 これって逃げるに逃げられない状態……? ヤバいぞ


「チッ! 少し戦うか!」


「大丈夫なのか? わたしを庇いながらなんて……」


『大丈夫だ、不安ならしっかり掴まってろ』


 掴まってろって……どこに!?

 そもそもここなら振り落とされるようには思えないし、存分にヒカリも力を振るう事ができるだろう。


「ふん!」


 ヒカリが腰に差していたレーヴァテインを抜刀した。

 緋色の刀身に、電子回路っぽいサイバーチックな模様をした剣。


「ん? なんだその剣……僕の天命の魔槍(グングニル)に似てるような……まさか()()()が造ったものなのか?!」


 アイツって誰だろ。どうでもいいケド、戦えるのだろうか。

 ヒカリとルキアが向かい合う。

 足首につけられた鎖を引き千切ろうとしたり、レーヴァテインで切断しようと試みたものの、びくともしない。ルキアから離れようとしても鎖が邪魔になるので、結局戦うしかなさそうなのだった。


『チカ姉、思念は使えるのか(・・・・・)?』


 思念。それはつまり、エリカやイセナへの連絡がとれるかという意味だ。

 さっきはなぜか思念の連絡が取れなかったし、仮に現状で連絡できたとして、この危機を乗りきれる可能性があるとは思えないのだが……しかし、試してみるほか無い。それしか可能性が無さそうなのだから。



「もうどうでもいい……親友に裏切られ、もはや旅を続ける気も失せた。俺はただひっそりと、静かに暮らしたいだけなんだ」


「そうか、それじゃ申し訳ないけど、それでも僕の夢の為に危険の芽は排除しないといけないんだ。もう一度聞くよ? 僕の味方に(・・・・・)ならないかい?」


 ルキアの夢とは何か。知りたい気持ちが無いと言えば嘘になるが、そこまでして知りたいとは思わない。

 それにしても、ヒカリがひっそりと静かに暮らしたいと思ってたなんて少し意外だったのだ。

 静かに暮らすという事は、エリカハウスの世話になる事も無くなるかもしれないって事だ。それは少し寂しいかもしれないが、別に会えないという訳じゃない。どこかの村か街でゆっくりとスローライフ。悪くないな。


「お前の味方になったとして、俺達に平穏はあるか? 俺にしたのと同じように、世界中の強者を殺すか勧誘をさせるつもりだろう?」


「説明が省けて助かるよ。物言いは物騒だけど、やってほしい事は弱きを助け強きを挫くっていう《正義》だからね。君ほど強い存在ならたいそう活躍してくれると期待してるよ。平穏な暮らしも保証してあげる」


「保証……?」


「そ。僕の夢が叶った暁には、世界の半分をプレゼントしてあげよう。悪い話じゃないでしょ?」


 それが正義か。そんな正義なのか。

 ヒカリは最初から首を縦に振るつもりなんてないだろう。

 それでも交渉に応じたのは、わたしがここに呼びつけた()()()が来るまでの時間稼ぎなのだ。

 だからヒカリの答えは一つ。


「断る」


 それだけである。

 後はヒカリがどれだけ持ちこたえられるかだが――

 うん? なんだあれ……


 ―――――


 個体名:U.N.Owen


 究極(ケテル)能力:断罪之王(アズリエル)


 ――――


 いつもの〝影〟だ。影が、ルキアの背後に浮かんでいる……と思い、目を凝らして見てみると、その影の姿に見覚えがある事に気がついた。



「愚か者め。思い知るがいい」


 ルキアの口調が変わった。

 あの影は……いや、彼は――

 執事のロレンス?


 黒い影ではあるが、その輪郭はもちろんのこと、顔のパーツの配置まではっきり解るほど明瞭としている。

 ロレンスの影はゆっくりと霞んでゆき、ルキアの体と同化するかのように重なり、そして消えた。


 訳がわからない。明らかにあの執事の姿をしていたが、まちがいなくいつもの影だと思う。ステータスも相変わらずだったし。


『ヒカリ……今の見た?』


『ああ、見たぜ。だがその話は後だ。今は――』


 今は、本気で襲いかかってきているルキアだ。

 槍でヒカリの心臓部――つまりわたしもろともを貫こうと、的確に刺突を放ってくる。

 ヒカリはそれらを神速で回避したり防御したりし、隙を見てはレーヴァテインの斬撃をルキアへ喰らわせようとする。


「当たらないねぇ! お互いに当たらないねぇ!!」


 ルキアもまた、ヒカリの攻撃をギリギリで躱したり槍で防いだりと互角の戦いを演じていた。


「『アフームザーの吐息(ダイヤモンドダスト)』」


 不意にルキアが魔法を詠唱する。すると剣ごとヒカリの腕がかちこちに凍りついてしまう。


「ふん!」


 しかしヒカリは全く気にも留めず即座に腕を振るって薄氷を破り、ルキアへ攻撃を続ける。

 効いてないのか? と思ったら、少し腕の動きが鈍っているように見える。今の氷結魔法が少し効いてしまってるみたい。


 撃ち合いがやや不利になった感じがするのだ。致命的な攻撃は防いでいるものの、全ての攻撃を捌ききれず細かいダメージが蓄積してゆく。


「はは! いつまで持つかなーっ!? 『神ノ激昂(メギド)』!!!」


 ルキアの前方に、眩い光球が出現する。光球の表面はいくつもの半透明な魔方陣でびっしり覆われているようだ。

 それはだんだん膨張してゆく。魔力感知で見てたらなんとなく、あれがどういう攻撃なのか解った気がする。ルキアでも発動させるのに精一杯だという事が幸いか。


『風船のように魔力があの魔方陣の膜に注ぎ入れられているのだ。風船が膨らむごとに魔方陣の膜が薄くなってゆくのが見える。時間が経てば、アレはとんでもない爆発を引き起こすっぽいのだ!』


『珍しく的確な事言うじゃねえか。しかしだな、俺の足を縛る鎖がある以上どうしてもここから離れられねえ。魔法もダメ、物理攻撃でも絶対切断(ザンテツケン)でも無理だ。アレが破裂する前にルキアを倒せるかはわからないし、倒せても止まる保証はどこにもねえ』


『打つ手無しなのだ! もうダメなのだぁ、おしまいなのだぁ!』


『諦めんの早すぎだろ……ピンチには変わり無いが、希望が無い訳じゃない。アイツが来るまで耐えればなんとかなるかもしれないんだ、全力で防御するぞ!』


 そ、そうだった。防御なのだ。わたしの翼でヒカリを包み込み、いくらか回復した魔力で結界を張る。

 ヒカリはレーヴァテインを握り、何かを念じると……

 うぇっ!? 剣の形が変わったのだ!?


 刀身の幅が広くなり、ヒカリとわたしを守る盾のような形状に変化した。ヒカリの体を全て覆えるほど大きくはないものの、ヒカリの背中に張り付いて背後からの攻撃を完全ガード!


 ってなんで背中?


『来るぞ!』


 膨れ上がる聖魔力に耐え、不安定になった光球へルキアが槍を投擲する。すると、普通の爆発音とは違う音色を立て、恐ろしいほど眩い光を纏う槍がヒカリに向かって飛んでくる。


 ヒカリは光球へ背中を向け、身を縮こまらせて可能な限りレーヴァテインの盾に体を隠した。

 それは、わたしを守るように。


 やがてヒカリとわたしは、真っ白な世界に呑み込まれた。




 *




『んっふっふ……これはやられましたねぇ……ワタクシの所からアレを持ち出されとは……』


『あんな小賢しい奴に出し抜かれるとはどうしたんじゃ? 妾が眠っている間に劣化でもしたか?』


『やかましいですね……過ぎてしまったのですから仕方がないでしょう。奴の能力を解析していたら、興味深い能力を見つけました』


『ほう? どんな能力じゃ?』


『聞きたいですか? 聞きたそうですねぇ』


『もったいぶらずにはよ言え!』


『んっふっふ。あれは8つ目の大罪……そして時空を超える力に準ずるもの……と言えば分かりますか?』


『8つ目の大罪はわかるが、時空を超えるじゃと? それはまるで、まるで――』


『まるで、おとぎ話の邪竜(ニーズヘッグ)ですねえ』




 *




 OK、落ち着いて冷静に状況を分析しよう。

 まず、ヒカリもわたしも生きている。ちゃんと5体満足だ。

 一応あの攻撃を食らって、お互い瀕死ではあるけども。


『俺は平気だ。チカ姉こそ大丈夫か?』


 わたしはヒカリが身を呈したおかげで全くもって無事だ。

 ギリギリで小規模な慈悲深き花園(マーシレス)を発動できたおかげで、ヒカリの2万はあったHPは1で踏みとどまっているのだ。

 HPが1になった瞬間から、わたしの魔力がヒカリの命の変わりに消費されていった。

 何もマーシレスは無条件で死ななくできる訳じゃないのだ。受けたダメージ分だけ、わたしの魔力が代わりに消費されてゆくという仕組みだ。

 それによって、わたしの僅かに回復していた魔力はまたしても底をついた。

 つまり、本当にギリギリで耐えたのだ。紙一重で槍そのものは回避できたが、それでもこの威力……

 ヒカリの足を縛る鎖もおかげで消滅したが、ヒカリ自身のダメージがかなりひどい。


 わたしに見せないようにしているが、背中の惨状は容易に想像がつく。

 肉が焼ける匂いがわたしの鼻を付く。

 真っ黒焦げにならなかっただけマシだろうか。


「これを耐えるなんて、ふうん。君は本当に特別なんだね」


 地に伏したヒカリが震えながら立ち上がり、宙に浮かぶルキアを見据える。

 ルキアが手を翳すと槍が手の中に出現した。


「でも、これで終わりだよ」


 再び槍に魔法を込め、最後の一撃をヒカリに向けて放とうとする。

 大した威力ではない。

 それでも、満身創痍のヒカリとわたしを仕留めるには十分すぎる攻撃だ。


 「ヒカリ!」


 わたしは最後の力を振り絞り、ヒカリの体をもう一度翼で包みこんだ。


「無駄無駄! そんなので防げる訳ないじゃーん!」


 宙から槍を握りしめ、突進を放つ。

 回避できる余力はもうない。今度こそわたしごとヒカリの心臓を――


「ぐまああああああああっ!!!」


 うぇぇっ!?

 突如、上空から大きな影が降ってきて、その太く大きな腕でルキアを地面ごと叩き潰した。


 紫色の金属質なそいつは、どこからどうみても熊のぬいぐるみにしか見えないフォルムをしている。何だコイツと思っていると


 「ふはははっ! この妾、魔法少女ラプラスちゃん参上なのじゃーっ!」


 熊の右肩に、紫のドレス(多分エリカとマリカのセレクト)を身につけたラプラスが立っていた。

 あまりに唐突な事だったので、頭が真っ白なのだ……なぜラプラスがここに? だってわたしが思念で呼んだのは――


 「んっふっふ。ちゃんとワタシも来てますヨ?」


 熊の左肩に、白黒のピエロ――コランダムが立っていた。

新作が落ち着いたら続きを書きます。実はストーリーが繋がっていたりいなかったり……

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