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三つの月


「まず……ミツキは妖精と話せるって本当?」

「はい、普通に出来ますけど」

「ちょっと見せてもらって良い?」


妖精の眼で周りを見ると、レッドの周りには赤の妖精が沢山いる事に気が付いた。

ロアもそうだったけど、やっぱり魔力を多く持っている人に沢山付いているのかな?


『おねえちゃん? どうしたの?』


わたしの周りに居るいつもの青い妖精が話しかけてくる。


「ねえ、この人知ってる?」


目の前のレッドを見る。

妖精は首を傾げながら、


『屋敷に居る妖精に聞いたよ! 僕たちが見える人だよね! 声は聞こえないみたいだけど。英雄、オーランドの娘だって他の子が誇らしげに言っていたよ』


「そうなんだ! レッドさんって有名なの?」


『王都の妖精で知らない子は居ないみたい。僕は知らなかったけど』


妖精の間ではレッドは有名らしい。

それもそうか、妖精が見えるし、最高位の魔力だし。

レッドの周りに居る妖精がちらちらとわたしを見て来るので話かけてみる。


「こんにちは」


『……こんにちは』


「あなたはいつもレッドさんに付いているの?」


『うん……20年ぐらい一緒』


「へえ、どうしてレッドさんに付いてるの?」


『レッド様の魔力が好きなの……あなたに付いている妖精だって、あなたの魔力が好きだから付いているのよ?』


「妖精って魔力に付いてくるの?」


『そうよ。魔力が高ければ高いほど、私達が沢山付くの』


妖精って魔力がある所に存在しているのか。

レッドにそれを伝えると、やっぱりと頷いていた。

どうやら大体の察しはついていたようだ。

その時、目の前を青い妖精が横切った。


「わっ」


『ちょっとおねえちゃん!』


「え? えっと……スイ?」


『スイだよ! 勝手に他の妖精と話さないでよね!』


「なんで? 話すぐらい」


『だめったらだめ!』


頬を膨らませ、むぅ! と怒るスイに可愛いなあと思いつつ、なんでだ? と疑問符。


「ミツキ? 誰と話してるの?」

「あ、あの……妖精のスイが……」

「スイ? 妖精に名前を付けてるの?」

「はい、そうですけど……」


はあ、とレッドは溜息を吐いた。


「妖精に名前を付けている人は初めて見るよ」

「そうなんですか……」

「ねえ、ミツキにとって妖精って何?」


わたしにとっての妖精……?

魔法の先生かな? ちょっと違うかな。妖精は遊びながら教えてくれているだけだし。

ピンチを救ってくれた恩人でもあるけど……恩人とも違うような。


「友達ですかね」

「そう」


レッドは紅茶を飲み干した。

そして微笑んだ。


「妖精を友達だなんて言うのはミツキぐらいかな」

「……レッドさんにとって妖精って?」

「都合の良い道具」

「えっ」

「ただそこに居るだけの存在を友達とは思えないよ。風の民は妖精を便利な道具のように思っているよ」


レッドを含め、風の民は妖精と話す事が出来ない。

意思の疎通が出来ない相手と友達にはなれないと言う事だろうか。

レッドは妖精に少しだけ魔力を渡し、簡単な命令をする事が出来るらしい。

命令を遂行した妖精に対してお礼を言う事は無い。

妖精はご飯である魔力が欲しくて命令を遂行した。ただそれだけの関係。

だから、仮にピンチな状況に陥ったとしても魔力を渡さなければ妖精は助けてくれない。

妖精とは神の眼の代行者でもある。妖精はただそれを見ているだけだ。


「おれは妖精に自我があるなんて思ってもみなかったよ。ただそこに居る存在だと思っていたから」

「でも……わたしは助けられて……」

「おれもミツキみたいに捕まった事があるけど、妖精は助けてはくれなかったよ」

「えっ……人さらいにですか」

「うん。まあ、元々妖精を頼りにはしてなかったし、自分で何とかしたけど」


レッドは目を細め、自分の周りに居る妖精を見遣った。

一人の妖精の口にレッドは指先を突っ込んだ。魔力を流し込んでいるようだ。


『ぷは~! 美味しい!!』


「これに入って」


ロアが作った赤い半透明のドラゴンと猫。

それと全く同じものをレッドは子猫の形で作った。

妖精はその子猫の中に入った。


「にゃあ」


子猫は現実のものと変わらない動きをし始めた。

レッドが動かしているのではなく、妖精が動かしているそうだ。


「ロアも同じ事をしていたんですが……」

「ロアは妖精が見えないし命令出来ないから、自分で動かしてるよ。余計に魔力使うんだよね」


あの時のドラゴンも猫もロアが自分で動かしていたのか。

それが普通なのだろうけど。

レッドは自分で作った子猫をあやしはじめた。


「命令と言ってもこれとか探し物をする時ぐらい。ミツキみたいに助けてくれるわけじゃない」

「……」

「聞いて欲しいのだけど、どうしてミツキは妖精に優遇されているのか……理由を」

「はい」


まだ頬を膨らませているスイに問いかける。


「どうしてわたしを助けてくれるの?」


『最初に言ったよ。おねえちゃんが神様の力を持っているから。神様の特別だから』


「神様……?」


『神様はおねえちゃんが幸せになる事を望んでるの。妖精は神様の力から産まれた存在だから、神様の力に敏感なの!』


「神様って……アーク様?」


『違う、アーク様じゃない。もっと力の強い神様だよ』


脳裏をよぎるのは、あの女神の姿。

この世界を統治しているアーク神よりも力が強い……?


「わたしが特別だから助けてくれたの?」


『神様が望んでるから! 望まれた事をするだけ!』


わたしは確かに神様の特別かもしれない。

事故にあって死んだんだと思う。そしたらこの世界にやって来た。

女神の慈悲により新しいこの地で死んだ事を無かった事として……


「どう? ミツキ?」

「わたしが、神様の特別だから……だから神の望む事をしていると……」

「話が全く見えないんだが……アーク様と関わりが?」

「いえ……それがアーク様より力の強い神様みたいで……」


レッドに体が大きく、月の化身のような女神の話をした。

幸せを願われて気が付いたらこの世界に落ちていた事も。


「月の女神……?」


首を捻るレッド。自身の頭を何度かポンポンと叩いた。

さらに天井を見上げ、唸った。


「ううん……聞いた事あるような……」

「何かご存知ですか?」

「……………ああ! そうだ! 三つの月!」

「三つの月?」

「三つの月の話! 古い話でロナントから聞かされた事があって」


三つの月。

この世界は当初、太陽一つに月が一つだったらしい。

わたしも知っているが、この世界には三つの月がある。

その月が、ある日突然三つになった、と言う話だ。

何かよからぬ前兆かと当時の王族がアーク様に問い合わせた所、理由が分かった。

アーク様がご成婚なされた。

お相手は何処か違う世界を治める月の女神だった。

神の世界にも魔力の位のようにある程度力の強さを分ける事が出来るらしく、お相手の女神の方が力が強かったようだ。

その結婚の余波で月が三つになってしまった、と言う話だった。

ちなみにこの話は、あまり知る人は居ないようだ。


「もしかするとミツキは、その女神の世界の人間なんじゃないか?」

「夫の世界に送ったと言う事なんでしょうか……」

「きっとそうだよ! 手がかりが見つかって良かった! 王族におれの娘が居るから連絡して陛下に聞いてもらえるようにしておくよ」

「ありがとう、ございます……レッドさんって娘さんも居たんですね」

「ああ、うん。4人産んだよ」


結構産んだんだな……見た目がわたしと同じぐらいの年齢だからギャップに驚く。

レッドの娘が王族に居るって事は……嫁いだって事だろうか。


『おねえちゃん?』


「あ、なに? スイ」


『この人、風の民?』


「そうだよ。レッドさんって言うの」


『有名な人だね、でも声は聞こえないんだ』


「わたしぐらいじゃない? みんなの声が聞こえるの」


『僕は知らないけど、風の民は昔は話せたんだって古くから居る妖精が言ってたよ』


「ええっ!? そうなの?」


ビックリして固まる。

風の民は昔はわたしと同じように妖精と会話する事が出来ていた?

どういう事? どうして話せていたんだろう?


「ミツキ? 妖精は何だって?」

「……風の民は……昔は妖精と話す事が出来たと」

「え?」


レッドは腕を組んだ。

一言、そんな事聞いた事が無いと呟いた。


「そうだ、レッドさん。わたし……お箸が使えるんです」

「箸が使える? うそぉ」

「本当です、夕食の時見せますね」


レッドはまた考え込んでしまった。

箸を使えるのが風の民だけなのに何でわたしが使えるのか疑問なようだ。

その時、ノックの音が響いた。

セレナが扉を開けると、一人メイドが立っていた。


「レッド様、ミツキ様、御夕食の準備が出来ました」

「ロアは居るか?」


レッドが鋭く聞く。

大きな目を細め、獲物を探しているかのようだ。

そう言えばロアの事を殴るとかって言ってたな……

ビクビクしながらメイドの言葉を待つ。


「坊ちゃまは居ります。奥様は自室でお召し上がりになります。旦那様はまだお帰りになっておりません」

「そうか、分かった。すぐに行く」


メイドは頭を下げ、その場を離れた。

レッドは手のひらに自分の拳を打ち付けた。


パアン!


とても良い音が鳴った。

殴る気満々じゃないか……とっても怖い……


「行くぞミツキ」

「……はい」


レッドの後について、部屋を後にした。


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