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してないです!


食堂に向かう途中、ロアの姿を見つけた。

何時もなら声をかけるのだが、かけられなかった。

隣に怒りに燃える鬼神が居たからだ。


「ロアッ!」


わたしの代わりにレッドがロアを鋭く呼んだ。

レッドに呼ばれたロアはぎくりと体を震わせ、慌てて振り向いた。

明らかに憤怒の表情を浮かべるレッドに、ロアはぶるりと震えた。

ズン、ズン、と大股のがに股でロアに一歩ずつ近づくレッド。

その背に牙を剥き出して威嚇する虎の姿を見た。


「な、な、なに怒ってるんですか……!」


青い顔をしつつも、ロアは逃げなかった。

逃げたらもっと恐ろしい目に遭うからかも知れないけど。


「右頬か左頬か選ばせてやる」


ロアに迫りながらそう言い放つレッドに、ロアはさらに青ざめる。

首を左右に振って、ロアが返す。


「なんで殴られないといけないんですか!?」


殴られる事は理解したようだった。

レッドが牙を剥き出して咆哮を上げた。


「歯あ食いしばれぇ!!!」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」


右手を振り上げ、突進してくるレッドにロアが叫ぶ。


「謝ります! すみません! 理由を! 理由を教えて下さい! おばあ様!」

「問答無用! 左頬を出せ!」

「れ、レッドさん! 待って下さい!!」


レッドの覇気に押されて放心していたが、ロアは何で殴られるのか分かっていない様子だったし、わたしもロアが殴られるのを見たくない。

慌ててレッドを追いかけ、振り上げた右手を掴んだ。


「わたしの為にロアを殴らなくても大丈夫です!」

「違う、これは教育だ! グラスバルトの血を教育してやる!!」

「そんな事は無理です! 落ち着きましょう、レッドさん」


荒く息を吐くレッドを見て、もしかしたら夫であるロナントに今までいろいろされて来て、それで怒っているのだろうかと思った。

昔の事を思い出して怒っているんだ……!

勘の良いロアはわたしとレッドの様子を見て、察したらしい。


「ああ……ミツキの部屋で怒ってるんですか……?」

「そうだ! 何故あの部屋をミツキの部屋にした!?」

「一番広くて良い部屋だったからで、ぐっ!」


レッドは我慢できずにロアの頭を軽くごついた。

痛みにふらつきながらロアは叫んだ。


「なんでそんなに怒ってるんですか!?」


レッドは未だに拳を握りしめている。

ああ誰か! 誰か止めて!


「言いつけを忘れたかロア」

「……忘れてないです」

「本当か」

「誓います」

「そうか。おいミツキ」

「はひっ」


レッドに呼ばれ、へなちょこな返事を返す。

相変わらずレッドは鬼のような顔をしている。


「ロアに何かされたか」

「……へっ」

「一緒に寝た事はあるか」


言われた事をもごもごともう一度言って意味を咀嚼する。

一緒に寝た事があるかだって?

それは……昨晩とか……寝ましたけど……

わたしは多分、真っ赤な顔をしていたんだと思う。


「ロアおまええええぇえ!!!」

「違います!! 誤解です!!」

「結婚前に手ぇ出すなって教えただろうがあああぁああ!!!」


胸ぐらを掴まれたロアはぐらぐら揺さぶられている。

なに!? 何の話なの!? 結婚前!? どう言う事!?


「出してない! まだ出してない!」

「まだって事は出す予定があるのか!? ふざけるな!!」

「上げ足取らないで下さい! ミツキ! ミツキ!」

「は、はい!」

「おばあ様は性行為したかどうかって聞いてるんだ!」

「せっ……」

「早く誤解を……! 誤解を解いてくれ!」


性行為……? ロアとエッチしたかって事!?

勢いよく左右に首を振って、ロアを揺さぶるレッドの背中にしがみ付いた。


「レッドさん! わたしロアとそんな事してないです!」

「本当か? ロアに言わされてるんじゃ……」

「してないです! 本当です! そんな事してないです!」

「じゃあなんで赤くなったんだ」

「そ……それは……」


解放されたロアが何度かむせる。

なんで赤くなったかなんて、そんなの決まってる。

そう言う雰囲気になった事が何度かあるからだ。

とても気持ち良くなった経験もある。

でも何て言おう、返答次第ではロアが酷い目に遭いそうだ。

頭の隅でぼんやりとは思っていた。

ただこの時わたしはとても混乱していた。

そして、一番してはいけない返答をしてしまったのだ。


「気持ち良くなった事が……」

「気持ち、良くぅ……?」

「馬鹿! 何言って……!」


ガン! と胸ぐらを再び掴まれロアは廊下の壁に叩きつけられた。

レッドは怒りの表情を通り越して笑顔だった。

人は怒りすぎると笑顔になるのか……?

滅茶苦茶怖い……!


「おまえさあ、ロナントと同じ事してるよぉ」

「おじい、様と……?」

「次期元帥の妻の部屋に居を構えさせて、先に子供作って退路塞いで結婚させる気なのか? 女の敵め!」

「おばあ様、って……出来婚だったんですか……!」

「おれさあ、それで嫌な思いしたのよ。だからミツキにそんな思いをさせたくない訳。わかるぅ?」

「分かります……! ミツキに嫌な思いをさせたくないです……!」

「ほんとおにぃ?」


バタバタとロアが抵抗する。

どうやら首が絞まっているようだ。

それに気が付いてレッドの腕に飛びついた。


「レッドさん! わたし本当にエッチしてないです! 本当です!」

「してないのに気持ち良くなったの?」

「あっあの、それは……してないけど気持ち良くなって……」

「後で詳しく聞いても良い?」

「はい! 喜んで! だから離してください!」


レッドに解放されたロアはその場に座り込んだ。

大丈夫? とロアに声をかけながら側に寄った。

じっとロアを見ていたレッドが、はっと我に返ったようで、


「悪いロア、昔の怒りの感情を思い出して、つい」

「いえ……俺にも落ち度があったので……大丈夫です」

「何時もはロナントを殴るんだけど、居なくてなあ……」

「俺にはおじい様役は務まりませんよ……」


レッドの手を借りて、ロアが立ち上がる。

ロアがわたしに変な事をしていなかったら怒られる事も無かっただろうに……

今度は何時もの笑顔でレッドが笑った。


「詫びに何でもするよ。何かある?」


少し考えたロアが、提案する。


「おばあ様がどういう経緯でおじい様と結婚したのか知りたいです」

「……酔狂だな、ロア」

「なんで首絞められたか知りたいですし」

「手加減はしただろ?」

「ええ、まあ。でも無抵抗なのに絞めないで下さい」

「絞める気は無かったんだが……頭に完全に血が上ってた。悪かったよ……そもそもはお前が言いつけを」

「守ってます! 本当です!」

「はあ……そうか。早とちりして悪かったよ」


本当に悪かったと思っているのか、しゅんとした表情でロアに何度か謝った。

後からロアに聞いたけど、昔の事を思い出して怒る矛先はいつもロナントらしいが、今は居ないので思い出した元凶であるロアに向かったみたいだった。

首を絞められたロアは、レッドとの訓練の時は、もっと痛くて苦しい思いをするから首を軽く絞めるぐらいなんともないらしい。騎士家系強い。

ロアにとってレッドは尊敬できる人で、普段は首を絞めるような人ではないと言われた。本当にレッドは頭に来ていたようだ。

此処まで聞くと、レッドとロナントは仲が悪いように感じるが、そんな事は無く王都きってのおしどり夫婦らしい。

ロナントはレッドにべた惚れで、レッドはそんなロナントにほだされたようだ。


「夕飯でも食べながら話そうか……まあ簡単にね」


何から話そうかと悩みながら食堂へ向かうレッドの後ろを付いて行く。

ロアに手を掴まれた。


「行こう」

「うん……ロア、大丈夫なの?」

「3番隊教官との個人訓練はこんなもんじゃないから平気。おばあ様を勘違いさせた俺も悪いし……」

「……なんでわたしをあの部屋に?」


事の発端はわたしをあの部屋に入れた事だ。

だからレッドは自分と同じようにわたしが嫌な思いをするかもしれないって怒ってくれたんだ……

疑問を投げるが、ロアは口籠る。


「……その……」

「ロア?」

「あの部屋が一番良いと思った。広いし、日当たりも良いから。それだけだよ」


ロアの言葉を聞いて、そっか、と納得した。

でも、ほんの少し残念な気持ちにもなった。

遠まわしに結婚してくれって言われている気がして、嬉しかった。

好きな人に言われたら嬉しいから。


「……勘違いさせておくのも難しい……」

「ロア?」

「何でもない、行こう」


レッドの後に続いた。

魔法の練習をしていたせいかお腹はぺこぺこだった。


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