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振り返り


セレナの後に付いて行く。

上の部屋らしく階段を上った。


「ミツキ様、紅茶は好きですか?」


唐突にそう聞かれた。

少し慌てながら、


「好きです。香りが良いものが特に」


友人が旅行で買って来てくれた木苺の紅茶。

香りがすっごく良くてお気に入りだったのを思い出した。

そう言うとセレナは嬉しそうに微笑みつつ、


「それは良かったです。奥様は紅茶がお好きなので」

「そうなんですか」

「是非、飲み友達になって下さいね」


飲み友達って聞くとお酒が出て来るけど……

紅茶友達って事だよね。

今から向かうのは奥様の部屋らしい。

寝室ではなく、リビング。

……この家には一体いくつのリビングがあるのだろうか?


「こちらです」


……扉が、今までと違う。

金の紋様が入っていた。家の主の妻だからだろうか?

そう言えばわたしが借りている部屋にも、此処まで豪華じゃないけど紋様が入ってたな。後で聞いてみようかな。

セレナは三度ノックして、部屋の中の人の反応を待った。


「はあい」

「失礼いたします」


反応があった所で扉を開ける。

中には40代ほどの綺麗で優しそうな女性とメイドが一人控えていた。


「ミツキ様をお連れいたしました」

「まあ、いらっしゃい。ミツキさん」


女性は足早に近付いて来てわたしに微笑みかけた。

ぎこちなく微笑み返して、


「はじめ、まして。お世話になってます」

「道中、とても大変でしたでしょう? 緊張しなくても大丈夫ですよ」

「ありがとう、ございます」


女性の正面の椅子に座るように促されて浅く腰掛ける。

椅子も机も白で可愛らしいテーブルクロスがかかっていた。

部屋には可愛らしいけれど立派な調度品に、食器棚の中には可愛らしい白いカップ。

カップが一つないと思っていたら、女性が使っていて紅茶を嗜んでいた。


「あらためまして……初めましてミツキさん、ロアの母のナタリアと申します。これからよろしくね」

「はい、ナタリアさん……お世話になります」


ナタリアは笑うと目尻に皺が出来てえくぼも出来た。

年相応な見た目にまず安心して、可愛らしい人だなあと思う。

ロアにはお世話になりましたと言おうと思い口を開いた時、


「ロアがご迷惑を掛けませんでしたか?」


……え?

ナタリアの質問に思考が止まる。

ロアに迷惑を掛けられた? わたしが掛けるなら分かるけど、え?


「いえ! そんな、ロアには助けられてばっかりで……わたしの方がロアに迷惑を……」

「そうなのですか? はあ、ロアもしっかりして来たのですね」


ナタリアは何かに感動したようだ。目を潤ませている。

状況が把握できなくて瞬きを繰り返していると、紅茶が前に置かれた。


「オレンジの紅茶です。よろしければ」

「ありがとうございます」

「わたくしにお礼は必要ありませんよ」


メイドはにっこりと微笑んだ。

物は試しと一口飲んでみるとオレンジの香りが口一杯に広がった。

今まで安い紅茶しか飲んだ事なかったけど……高い紅茶は元の世界でもこんな感じなのだろうか。


「ごめんなさい、親として思う事があったの……」

「大丈夫です。お気になさらず」

「ミツキさんは本当にお優しい人ですね」


わたしは優しい、だろうか?

ただ日本人特有の自己犠牲の教育が表に出てるだけな気がするけど……

相手を思いやる気持ちは何時でも持ち合わせているつもりだ。


「ロアは昔からいたずらっ子で、手がとてもかかる子でした。私に対しては優しい子でしたが……」


ロアがいたずらっ子と来たか……うーん……あんまり想像つかないけど、悪巧みはしそうな雰囲気あるかな。

母親には優しい子供か……

わたしの弟は思春期中で母親の方に当たりが強かった記憶がある。

思春期とはまた違うのかな。


「ミツキさん。良ければロアとの話を聞かせてもらえませんか?」

「分かりました……喜んでいただけるなら」

「ありがとうございます」


ナタリアは少女っぽく笑う人だった。

顔立ちはロアとよく見れば似ている場所もあると言った具合で、あまり似てはいなかった。

ロアは父親似なんだなと改めて思った。


「初めて会ったのはストリア草原……ストーラの近くでした」


交通事故にあったと思ったら知らない草木が生える異世界に来たものだから、ゲームと勘違いしたのを思い出した。

そこで異世界の事をロアに教えてもらった。

魔法の使い方、妖精の事、文字の読み方。

ストーラを出る際に悪人に襲われたけど退治してくれた事。


「ロアから聞きましたが……違う世界の人と言うのは本当なのですか?」

「はい……信じてもらえないかも知れませんが……」

「それはさぞ寂しかったでしょう……」

「家に帰る事が目的でここまで来ました。何か御存じないですか?」


ナタリアはゆっくり左右に首を振った。


「無知でごめんなさい……でもロナント様なら何か知っているかも」

「ロナント様……?」

「ロアの祖父で……王都の図書館の本、全てを読みつくしたお人です」


そもそもの目的は、ロアの祖父に会う事だった。

しかし、ナタリアの話によると、ロナントは仕事でアークバルトを離れているとの事だった。

最低でも数日はかかるようだが、妻であるレッドがロアが帰って来た事を騎士経由で知らせたらしく、早まる可能性もあると言う。


「ロアが帰って来た記念にホームパーティをする事にしたのです」

「パーティ、ですか?」

「ええ、近しい親族を集めて行う予定です。ミツキさんも是非参加して下さいね」

「でも、わたしは部外者で……お邪魔では無いですか?」

「そう沢山の方が来る訳では無いので……それに、ミツキさんに会いたいと思っている方もいらっしゃいますので、強制では無いですが参加して下さると嬉しいです」


ナタリアはニコニコと微笑む。

パーティに参加する人は、ロアとナタリアとロゼの家族に、祖父母のレッドとロナント、ライトの家族、ロゼの姉の家族、ロアの姉の家族と少人数だ。

参加者のほとんどに血の繋がりがあり、ロアが勝手な事をして憤っている人か心配している人らしい。

すでにすべての人に声を掛けてあって、あとはロナントが帰って来るのを待つばかりだそうだ。昨日帰って来たばかりだったと思うけど……仕事が速いなあ。

参加する人の名前を聞いて、レッドとライトとは面識があるから大丈夫かなと思った。


「話の腰を折ってしまってごめんなさい。旅の続き聞かせてもらえます?」

「あ、はい。分かりました。ストーラを出てわたしが……」


ナタリアは終始、微笑んで聞いていた。

フロラリアで倒れて寝込んでいる時の話は眉を寄せて、ロアが回復魔法を覚えたと言うと自分の事のように喜んでいた。

ナタリアはロアの事を本当に気にかけてるんだな……良い母親に見えた。

カナトラでロアに高そうなお店に連れて行ってもらったと言うと、


「そこには行った事があるわ。家族で何度か行った事があるの」


そう言えばあそこのシェフはロアと面識があった。

家族で行った事があるのか。

ちなみに、ハイドの事も知っている様で、妻思いのとっても素敵な人、と評価していた。

わたしが連れ去られてオークションに賭けられていた時の話はとてもつらそうな表情だった。


「怖かったでしょう……もっと早く助けてあげられれば……」

「いいえ。わたしが今、こうして笑顔でいられるのは助けてくれた皆さんのお陰で。気に病む事は何もありません」


そう笑顔で返すと、ナタリアも安心したように微笑んだ。

話した会話の中に、わたしはロアが好きだとか、ロアもわたしが好きだとか、そう言う内容は一切話さなかった。

ただ助けられてここまで来た、と伝えた。


「ねえ、ミツキさん」

「はい」

「ミツキさんはロアの事をどう思っていますか?」

「……どう、とは」


返答に困っていると、ナタリアは先程と変わらず微笑む。


「ロアはミツキさんの事が好きだと思うのです。恋愛的な意味ですよ?」


息が詰まる。

どうして分かった? その事に関しては何も言ってないのに。


「そう、でしょうか?」

「ええ、ミツキさんはロアをどう思っていますか?」

「わたしは……ロアの事……」


会話が直接的すぎて戸惑う。

ナタリアは意外と積極的な人だったのか? そうは見えなかったけど。

ロアの事、好きだ。勿論恋愛的な意味でだ。

けれど、言う勇気は持ち合わせてはいない。

この人はロアの母親なのだ。

下手に答えて嫌な関係になるのも嫌だし……迷う。


「ごめんなさい、答えづらいですよね……」

「いえ、そんな……」

「ミツキさんがとても可愛らしい人だから……娘になってくれるかと思って、ずうずうしかったですね。ごめんなさい」


む……娘……?


「ロアにはお姉さんが居ると聞きましたが……」

「娘は結婚して家を出ましたから……滅多に会えないのです」


ナタリアは寂しそうにそう言った。

わたしは困った表情を浮かべる。

わたしは此処に長居する気はないのだ。

帰れるならすぐにでも帰りたい。

でも、この人を悲しませたくないと言うのも事実だ。

今の所、帰れる目途も立っていないし、まだ長くお世話になる事を考えると……


「じゃあ、こうしましょう」


一つ提案を出す。


「家に帰るまではナタリアさんを母親だと思って過ごします。ナタリアさんもわたしの事を娘だと思って構いませんので」

「まあ」


と言うとナタリアは嬉しそうに声を上げた。


「ロアが結婚したみたい。私とても嬉しいわ」


その言葉に何か返す事は出来なかった。

ロアの家にはお世話になっているし、このぐらいしてもバチは当たらないだろう。


「私の事をお母さんと呼んでも構いませんよ」

「いや、その……それは少しずつで」


さっき会ったばかりの綺麗な人をお母さんとは呼べない。


「早速だけど、髪を結ってもいいかしら? とっても綺麗な髪だからやりたくてうずうずしていたの」

「こんな髪で良ければ……どうぞ」

「ふふ、私はミツキさんのお母さんなのだから堅苦しい言い方はやめて欲しいわ」

「ちょっとずつなれ……たいです」

「さあ、こちらの部屋にいらっしゃい」


ナタリアに促されて隣の部屋に移動した。


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