表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

八話、水泳より

書けない、心理描写が書けない!

と、いうのが不定期更新の言い訳です、スミマセン。

次回は31日更新予定。

「きゃ、冷た! もうリリ、水かけないでくださいよ、心臓に悪いです!」

「えへへ、ごめんなさーい」

「反省の意思を感じませんねぇ、そんな子にはこうです!」

「うひゃあ! やったなー!」

「おっと、仕返しを待ってるほど私は優しくありませんよ!」

「あー、まてー!」

「全く、リリは元気だな」

「そういうアカも、さっき凄い泳いでたじゃん」

「ちょっと身体を動かしたかったんだよ。ランドはエアリアを追いかけなくていいのかい?」

「な、なんでそーなるんだよ」

「もう隠すのやめた方がいいよ、みんな知ってるんだから」

「う、うるさい! 水かけるぞ!」

「冗談だよ、冗談。………にしても、マアトが泳げないなんてね」

「ああ、以外だよな。アイツ何でもできそうだったけど」

「風属性の魔法が使えないよ」

「あ、そうだったな。風に関しちゃあ俺の方が上だな!」

「ついでに頭は僕の方が良いよ」

「あれ、もしかしてマアトって意外とダメダメ?」

「ふふっ、そうかもね」


 全部聞こえてんだよ。しかも俺が使えないの水属性だし、風属性は得意だし。と、湖の畔で三角座りをしながら考える。太陽は独りの俺を嘲笑うかのように熱光線を発射し、俺の(精神的な)体力を根こそぎ奪っていく。汗は蛇口を捻ったように溢れ出し、俺の衣類はベトベトだ。

 あー、あぢー。

 さっきの会話通り、俺は泳げないので見学をしている。朝クラス全員が集合した時にマーズ先生に休みたいと言うと、「じゃあ離れた所で、みんなを見学してなさい」とすぐ了承してくれた。

 という事で、今俺は灼熱の太陽の下、気持ちよさそうに泳ぐみんなを眺めているのだ。正直、死ぬほど辛い。

 周りは見渡す限りの草原なので、木陰の一つもない。風魔法でそよ風を起こしてるけど熱風がくるだけだし、水魔法で飲み物を作ろうにも俺は水魔法が使えない。とんだ罰ゲームだ、まあ自分で選んだんだけど。

 さっきの会話は、俺お得意の風属性魔法を駆使して盗み聞きしたのだ。仕組みは簡単、音は空気を伝わる振動なので、ちょっと風の流れを変えれば俺の元に届く。有効範囲は200メートル、意外と簡単で使い勝手がいい。

 しかしそんな事をしても、楽しそうなみんなの声に孤独感を煽られるだけ。もう無断で帰ってやろうかと思った。


「うわっ、冷てー!」

「ぷはー、気持ちいい!」

「見て見て、わたし背泳ぎできるよー!」

「俺なんて三十秒も潜れるもんね!」


 潜ったまま上がってくるな。

 俺は呪怨を静かに振りまきながら、その後三時間太陽と戦い続けた。

 ………脱水症になりかけた。



 ◇



 昼休みになり、みんながわいわいと昼食をとる中、俺は独りサンドイッチを持って少し離れた大岩の上に登った。大岩は高さ5メートルほどあり、頂上から湖を見るとまるで崖の上のようだ。俺は足を投げ出して座り、独りでサンドイッチを食べ始めた。

 みんなと食べないのは、ただ気まずいというだけだ。「泳ぐの楽しいねー」「そうだねー」とか話してるところに入る勇気と根性は、俺にはそなわっていない。ていうか会話の内容に乗っかれない。別に悲しくはないが、虚しくはある。

 サンドイッチは相変わらずの美味しさだった。けどいつもより塩っぱい。運動で失った塩分を摂るためだろう。母さんの気遣いが逆に、塩分を消費してない俺の罪悪感を煽る。

 ごめんよ母さん、あなたの息子は気遣いを無駄にしています。


「どうしたんですか、一人でこんな所に」

「ああ、エアリアか」

「何ですかその反応は。来ちゃいけませんでしたか?」


 頬を膨らませながら岩を登ってくるエアリア。時より足を外し、見ていると無駄にハラハラする。

 岩を登りきると、俺の隣に座った。


「お前、みんなの所にいなくていいのか?」

「逆に、あちらにいなきゃいけないんですか?」

「いや別に、そういう意味ではなくてだな」

「分かってますよ、私もちょっと静かな所で風にあたりたかったんです」


 俺は別に、風にあたりたかったわけではないんだが。まあ何でもいい。


「お、結構いい眺めですね」


 エアリアは俺のサンドイッチを奪いつつ、遥か彼方を指さす。見てみると、確かに美しい光景が広がっていた。

 夏の日差しを受けて輝く湖、その奥には田舎独特の優しさを醸し出す村。バックには光を受けて緑に燃える盛大な森。この岩の上を選んだのはたまたまだが、どうやら当たりだったようだ。


「あそこ、私たちの家じゃないですか?」

「ん、あの赤いのか? ちょっと形が違う気がするけど」

「そうですか? でも方向はあってますよ」

「ま、ウチの家はこの村で一般的な形だからな。屋根の色が同じだったら、見分けつかないぞ」

「むう、確かに」


 エアリアは顎に手をあてながら、反対の手で残りのサンドイッチを――


「させんぞ」

「チッ」

「チッ、じゃねーよ。俺の昼飯無くなるだろ」

「いいじゃないですか、兄さん泳いでないんですし」

「うっ、まあそうだが……」


 痛い所を突かれた。ていうかコイツ、朝も俺のサンドイッチ奪ってなかったか? いつも三つ用意してあるのが、今日は二つしかなかったし。


「お前、自分の分食べろよ」

「もうとっくに食べ終わりましたよ」

「え、マジか、あの短時間に」

「私の口はブラックホールですからね」

「ブラックホールに速さは関係ないと思うんだが」


 コイツはつくづくバカだな。ランドと揃えばバリアップルだ。


「うるさいですね、そんなこと言うダメ兄にはこうです!」

「え、ちょ!?」


 ――あ、押された。そう思った時には、俺の身体は宙に浮いていた。笑顔で俺を見下ろすエアリア、それを認識した瞬間、冷たい液体が俺を覆った。

 水、水だ。

 足が着かない。

 息が出来ない。

 目に染みる。

 手足を動かして浮上するも、またすぐに沈んでしまう。水を上手くかけない。

 段々と焦り、恐怖が湧いてくる。早く息をしなければ、足が着かない、浮き上がれない、酸欠になる。心臓が、普通の何倍もの速さで鼓動を刻む。

 二回目の浮上で、やっと空気を吸うことが出来たが、また沈んでしまう。恐怖と焦りがどんどん倍増していき、気が付いたら水の中で叫んでいた。

 叫んでも叫んでも、ボコボコと泡がたつだけ。空気を無駄に消費してしまう。それが分かっているのにやめられない。

 三度目の息継ぎが出来ずに足掻いていると、頭がぼうっとしてきた。酸欠だ。

 手足が痺れ、動かなくなり、身体が沈んでいく。水でボヤけた視界は、段々と白に染まっていく。


 ――薄れゆく意識の中、最後の瞬間に、確かに見えた。

『真っ赤に染まった、死体だらけの水面』が――


「あれ、兄さん? 兄さーん! ちょ、ふざけないで下さいよ! ど、どうしよう。助ける? どうやって? あ、助けを呼べば……誰か、誰かー! 兄さんが、マアトがー!」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ