#20 九曽神家にて part5
九曽神家の長い廊下を歩きながら、脳裏に浮かぶのは──あのCDは一体何なんだ──ということ。
真琴から憑かれているかもしれないと聞き、今こうしてお祓いへと向かっているということは、間違いなく僕は憑かれているのだろう。
──では、何に?いつ?
身に覚えがあると言えば、CD。憑かれているせいで生活に支障が出ている訳がないために、気になるのは── 何故憑かれているのか──という事だった。
「どうぞ。」と指示されるままに入った部屋は薄暗く、数本の蝋燭が立っている、何もない部屋だった。部屋の雰囲気に緊張している僕に真琴は「すぐに終わるはずだから」と声をかける。
そこからは麗子に言われるままに、部屋の中央に座り、目を閉じた。そして、頭の上に手の感触が伝わり、どれくらい経っただろうか、時間にして5分。いや、静寂に包まれた部屋では体感時間はあてにならない。長いような短いような時間は終わってみればあっという間だった。
「はい、もう大丈夫ですよ。」
麗子の声に合わせて目を開けた。錯覚だろうか体が少し軽くなった気がする。
「ありがとうございます。で、やっぱり憑かれてましたか?」
「そうね。真琴さんと似たのが憑いてたわ。」
「似たの?それはどういう事ですか?」
「それは栂屋さんの方がご存知なのでは?」
──真琴と似ているということはやはりあのCDが原因か…。
「真琴さんも思い当たるものはあるの?」
「はい。」
「栂屋さん?真琴さん?今からとても大切な話をします。しっかり聞いて下さいね。」
麗子は真琴も僕の隣に座らせた。
「取り憑かれるというのは、いわゆる幽霊、分かりやすく言うとお化けね。そのお化けに取り憑かれる以外にも意味があるの。」
麗子の話に聞き入る僕、そして真琴。
「それは人間の心よ。何故、取り憑かれると言うの?普通は ″取られ″ 憑かれるでしょ?」
麗子が言うには、″憑かれる″は受け身な表現にも関わらず、″取る″ は自らの意思によるもの。
「あなた達が取ったものは何?ものは ″もの″ でしかないの。問題はあなた達の心にあるのよ。そして、それはあなた達だけに起こりうることではないのよ。」
という事は、あのCDを聞いたせいで取り憑かれていると思っている、その状態がまさに取り憑かれているということなのだろうか。
──じゃあ、どうすればいいんだ。
「そして、今、あなた達は私の考えや思い、つまり心に取り憑かれているのよ?」
麗子の言葉が胸に突き刺さる。
──そうか…。依存。何かにすがって生きている僕は確かに取り憑かれているんだな。
「人は一人きりでは生きていけないことも忘れないでね。」と麗子は告げ、僕はありったけのお礼を言い、九曽神家を後にした。
「あの…音楽を聞いただけで取り憑かれる事はありますか?」
僕の最後の問いに麗子はこう答えた。
「もちろんよ。時として ″百聞は一見に及ぶ″もの。目に見えないものにこそ、人は想いを馳せるのだから。」




