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婚約破棄された公爵令嬢は傭兵団長と二度目の恋に落ちる  作者: その辺の双剣使い
1─1 全てを失った夜

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 頬に当たる金属製のプレートが、ひんやりと冷たい。

 だけど彼の手の温もりだけは、グローブ越しにでも伝わってきた。


 彼は「ロビンの手当てを」と言った。

 まるで以前から知っている人間であるかのように。

 私はそれだけで、彼がずっと私を気にかけてくれていた事を理解する。

 ただ、だからといって不信感がすぐに拭えるわけでもない。


 どうせなら、ずっと側にいて守って欲しかった。

 すぐに湧いてきたのは、そんな気持ち。

 でも、冷静になって考えてみると、確かにそれでは共倒れになっていた可能性が高い。


 彼にとっても苦渋の決断だったはず。

 助けてくれた事には感謝もしているし、嬉しくも思う。

 とはいえ、せめてもう少しちゃんと説明して欲しかった。

 それに、商家の子息であるはずの彼が、何故こんな姿で私の前に現れたのかも理解できない。


 そんな不信感がどうしても拭えずに、私はこの状況を素直に喜ぶ事ができなかった。

 彼に説明を求めることさえ怖く感じられた。


「戸惑う気持ちは分かる。説明は落ち着いたら必ずする。とにかく今は、俺を信じて付いてきてくれないか?」


 一旦、私を離した彼は、真っ直ぐにこちらを見つめながら言う。

 今は、ゆっくりと話をしている状況ではない。

 それくらいは、ちゃんと理解している。

 私は、黙って彼の言葉に頷いた。


「フリック坊っちゃん。感動の再会はそれくらいにして、早く移動の準備を。新手が来たら厄介だ!」


 ロングボウを携えた女性の戦士が、こちらに近づいてきてそう声をかける。

 年の頃は二十代半ば。所謂エルフという種族なのか。長い耳を持った赤髪の女性だ。


「ああ、わかっているさ。すぐに出発する! アンガス! ロビンの方はどうだ?」


 女性の言葉に答えた後、法衣姿の男性に向かってそう声をかけるフリック。


「ロビンなら大丈夫だ! 失血のせいで、気を失っていただけみたいだな。応急措置は済んだし、この男のことだからすぐに動けるだろう」


 ロビンは、死んではいなかった。その事実に、感情が一気に湧き上がる。

 彼の無事を聞き、ここにきてようやく涙が溢れ出してきた。


「歩けるかい? アリー」


 そう優しく訊ねるフリック。

 まだ足元がおぼつかない状態だけど、ロビンの様子も気になる。

 私は涙を手で拭い、彼の目を見て「ええ」と軽く返事をした。


 ロビンの元にいくと、彼は既に意識を取り戻していた。


「若、不覚を取りました。アリーシア様……最後まで守りきれずに申し訳ありません……」

「何を言っているのロビン! あなたは十分頑張ってくれたわ! 胸を一突きにされていたから、死んでしまったのかと思っていたけど。生きていてくれて本当に良かった……」

「服の下に、チェインメイルと革製のプレートを着けていましたからね。これが無かったら危なかった」


 私の言葉に対し、そう言って気まずそうに笑うロビン。


「動けるか? ロビン。アリーを早く安全な場所まで移動させたいし。悪いが、ゆっくりここで休んでいるわけにもいかない」

「こんな所に一人で置いてかれるなんて、真っ平ごめんですからね。意地でも付いてきますよ」


 フリックの言葉に、ロビンはすぐにそう答える。

 少し辛そうだったけど、何とか立ち上がった彼は敵兵が残した馬に向かって歩き始めた。


「アリー、馬は乗れるかい?」


 フリックにそう問われ、私は素っ気なく答える。


「ええ、乗馬の嗜みなら有るから大丈夫よ」


 そんな私の態度に、彼は少し悲しげな表情を向けた。


 今さらなに?

 正直そういった気持ちが有ったのも事実。

 彼には彼の事情が有った。それは分かっているつもり。

 でも、だからといってすぐに許せるほど私の心は単純じゃない。


「説明は後で、きちんとしてくれるのよね?」


 それだけ言うと、私はすぐに踵を帰す。そのまま落とした剣を拾いに向かった。


「ああ。一旦、落ち着ける場所まで移動したら話そう」


 フリックが後ろから声をかけてくるも、今は頭がいっぱいで返事をするのさえ億劫に感じられた。


 私は剣を拾い上げ、着替えだけ馬車から取り出すと気性が穏やかそうな馬を物色する。

 とにかく今は、早く落ち着ける場所まで移動したい。そんな気持ちでいっぱいだった。

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