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頬に当たる金属製のプレートが、ひんやりと冷たい。
だけど彼の手の温もりだけは、グローブ越しにでも伝わってきた。
彼は「ロビンの手当てを」と言った。
まるで以前から知っている人間であるかのように。
私はそれだけで、彼がずっと私を気にかけてくれていた事を理解する。
ただ、だからといって不信感がすぐに拭えるわけでもない。
どうせなら、ずっと側にいて守って欲しかった。
すぐに湧いてきたのは、そんな気持ち。
でも、冷静になって考えてみると、確かにそれでは共倒れになっていた可能性が高い。
彼にとっても苦渋の決断だったはず。
助けてくれた事には感謝もしているし、嬉しくも思う。
とはいえ、せめてもう少しちゃんと説明して欲しかった。
それに、商家の子息であるはずの彼が、何故こんな姿で私の前に現れたのかも理解できない。
そんな不信感がどうしても拭えずに、私はこの状況を素直に喜ぶ事ができなかった。
彼に説明を求めることさえ怖く感じられた。
「戸惑う気持ちは分かる。説明は落ち着いたら必ずする。とにかく今は、俺を信じて付いてきてくれないか?」
一旦、私を離した彼は、真っ直ぐにこちらを見つめながら言う。
今は、ゆっくりと話をしている状況ではない。
それくらいは、ちゃんと理解している。
私は、黙って彼の言葉に頷いた。
「フリック坊っちゃん。感動の再会はそれくらいにして、早く移動の準備を。新手が来たら厄介だ!」
ロングボウを携えた女性の戦士が、こちらに近づいてきてそう声をかける。
年の頃は二十代半ば。所謂エルフという種族なのか。長い耳を持った赤髪の女性だ。
「ああ、わかっているさ。すぐに出発する! アンガス! ロビンの方はどうだ?」
女性の言葉に答えた後、法衣姿の男性に向かってそう声をかけるフリック。
「ロビンなら大丈夫だ! 失血のせいで、気を失っていただけみたいだな。応急措置は済んだし、この男のことだからすぐに動けるだろう」
ロビンは、死んではいなかった。その事実に、感情が一気に湧き上がる。
彼の無事を聞き、ここにきてようやく涙が溢れ出してきた。
「歩けるかい? アリー」
そう優しく訊ねるフリック。
まだ足元がおぼつかない状態だけど、ロビンの様子も気になる。
私は涙を手で拭い、彼の目を見て「ええ」と軽く返事をした。
ロビンの元にいくと、彼は既に意識を取り戻していた。
「若、不覚を取りました。アリーシア様……最後まで守りきれずに申し訳ありません……」
「何を言っているのロビン! あなたは十分頑張ってくれたわ! 胸を一突きにされていたから、死んでしまったのかと思っていたけど。生きていてくれて本当に良かった……」
「服の下に、チェインメイルと革製のプレートを着けていましたからね。これが無かったら危なかった」
私の言葉に対し、そう言って気まずそうに笑うロビン。
「動けるか? ロビン。アリーを早く安全な場所まで移動させたいし。悪いが、ゆっくりここで休んでいるわけにもいかない」
「こんな所に一人で置いてかれるなんて、真っ平ごめんですからね。意地でも付いてきますよ」
フリックの言葉に、ロビンはすぐにそう答える。
少し辛そうだったけど、何とか立ち上がった彼は敵兵が残した馬に向かって歩き始めた。
「アリー、馬は乗れるかい?」
フリックにそう問われ、私は素っ気なく答える。
「ええ、乗馬の嗜みなら有るから大丈夫よ」
そんな私の態度に、彼は少し悲しげな表情を向けた。
今さらなに?
正直そういった気持ちが有ったのも事実。
彼には彼の事情が有った。それは分かっているつもり。
でも、だからといってすぐに許せるほど私の心は単純じゃない。
「説明は後で、きちんとしてくれるのよね?」
それだけ言うと、私はすぐに踵を帰す。そのまま落とした剣を拾いに向かった。
「ああ。一旦、落ち着ける場所まで移動したら話そう」
フリックが後ろから声をかけてくるも、今は頭がいっぱいで返事をするのさえ億劫に感じられた。
私は剣を拾い上げ、着替えだけ馬車から取り出すと気性が穏やかそうな馬を物色する。
とにかく今は、早く落ち着ける場所まで移動したい。そんな気持ちでいっぱいだった。




